(前回からの続き)
次に「金融システムの安定」の面から。
これも「物価の安定」の場合と同様にネガティブ面が想定されます。つまり無理にインフレ率を高めようとするとわが国の「金融システムの安定」、つまり国内の機関投資家による日本国債の安定保有が揺らぐ懸念が出てきます。
今後、派手な量的緩和によってインフレ率を高める一方で、黒田日銀は国債を過度に買い支えて金利を低めに誘導しようとするでしょう。そうなるとマイナス金利幅(長期金利-期待インフレ率<0)が拡大するから、預貯金の目減りを防ぐために企業や個人はそれらをどんどん解約し、株式や外債などに投資するようになるでしょう。
そしてそんな流れが一部の大手金融機関による日本国債の大量売却を誘発したら、たちまちのうちに他の金融機関もこれに追従して国債価格が暴落、金利は急騰という、「日本破綻論者」が描くシナリオどおりの悪夢が現実となってしまうおそれも出てきます。
もちろんこれは円に蓄えられた価値が大挙してドル買いに向かう場合以外には現実的には考えられず、そのドルは円以上の量的緩和で価値の希薄化が進んでいるので、こんな破局が訪れる確率は低いとは思いますが、わずか2年という短期間で「インフレ率2%達成」の悪影響は侮れません。「破綻」とはいかないまでも、それがマイナス金利の拡大による国民の資産価値の劣化や、必要性も意義も乏しい日銀による「財政ファイナンス」を招き、結果としてわが国の国力や財政状態を悪化させたり、金融システムの安定を脅かす元凶となるおそれがあるものと考えています(以前ここに書いたように、欧米諸国とは異なり、日本政府は、中銀の財政ファイナンスに過度に頼ることなく、低金利で資金調達することが可能であると考えています)。
このように、そもそもの中央銀行の目的である「物価の安定」と「金融システムの安定」という面から見た場合、2年で2%というインフレターゲットはこれらをかなりの程度、損なうリスクがあるものとみられます。それはある意味で当然でしょう。黒田日銀は中銀の目的をあえて「自己否定」するという過激な政策に打って出ようとしているわけですから・・・。
そして何といってもこわいのが、それがインフレおよびマイナス金利状態を引き起こして一般市民の実質的な生活レベルを悪化させること。それによってわが国でも貧困人口が増加したり貧富の格差が拡大していくなど、本稿冒頭に掲げたADBの理念とは相反する現象が顕著になるのではないかと心配しています。
(続く)