(前回からの続き)
本稿⑥~⑩では、個人的に考える「さとられたくない(差取られたくない)」富裕層の「さとり(差取り)」回避策として、「課税逃れ」、「消費増税」、そして「金融緩和策」を取り上げてみました。
「さとり(差取り)=格差是正」を語る本稿の最後では、これらの「回避策」や資産家の蓄財をある意味で肯定する論拠となった「トリクルダウン仮説」についてふれておきたいと思います。
トリクルダウン仮説とは、水が高いところから低いところにしたたり落ちる(trickle down)ように、富める者が富めばその「おこぼれ」にあずかって貧しい者も豊かになっていく、というような考え方。1980年代以降、「小さな政府」をスローガンに掲げて米レーガン政権や英サッチャー政権が推進した民営化や規制緩和、金融自由化といったいわゆる「新自由主義」改革の思想的な基盤のひとつとなったものです(高額所得者層の税率を下げれば税収が多くなる[!?]という「ラッファーカーブ」などもそうですね)。具体的な統計資料やロジックに裏付けられていないので「理論」とは呼べず「仮説」に過ぎないといった見方がされているようです。
本稿前段のアメリカ、フランス、韓国などの例をみれば分かるとおり、この「仮説」が成立しないことはもはや誰の目にも明らかでしょう。これらの諸国は、所得税の最高税率の引き下げや資産課税の緩和といった、富裕層がますます豊かになるような(トリクルダウン仮説に沿った)政策をいままで続けた結果、巨大な貧富の格差に直面し、「さとり(差取り)」を進めなければ市民社会が崩壊しかねない危機的な状態に陥っています。もしこの「仮説」が立派な「理論」であるのなら、資産家ではない大多数の人々がこれほど経済的に厳しい状況に捨て置かれるはずはありません。
そもそも一握りのお金持ちをさらに豊かにしたところで、人間そんなに食べたり飲んだりすることができないように、彼ら彼女らが増やす消費や投資の額はたかがしれています。それらが国民経済全体の成長や貧民層の生活レベルの底上げに寄与する部分はわずかでしょう。まあ人口が少ない国などではトリクルダウン効果、つまりこうしたお金持ちの消費等が周囲に与える恩恵は大きいかもしれませんが・・・(だからこそこうした国々は相続税ゼロなどで富裕層の移入を促しているのでしょう)。
といったように、資産家の「さとり(差取り)」回避のための理論(空論?)という側面を持つこの「トリクルダウン仮説」は、世界的な「さとり(差取り)」の声の高まりとともに姿を消しつつあるように思えます。
(続く)