(前回からの続き)
以上、「さとり(差取り)」つまり格差是正をめざす動きについて、アメリカ、フランス、そして韓国のケースを取り上げてみました。
これら以外でも、たとえば、緊縮財政下で一般国民が厳しい生活を余儀なくされる一方で富裕層の多くがスイスなどに資産を避難させている実態が暴露されたギリシャや、貧富の差の拡大や行政の腐敗に抗議するデモや暴動が頻発し、「さとり(差取り)」への挑戦(民衆反乱による旧体制の打倒、新体制樹立)と失敗(その体制の腐敗から貧富の差拡大へ)を繰り返えすというカルマの法則のとおり混沌に向かいつつある王朝国家・中国などなど、「さとり(差取り)」をめぐる持てるものと持たざるものの確執や対立の図式は世界各地に見つけることができます(もちろんわが国でも・・・後述します)。
ところで大多数の世界市民が切望するこの「さとり(差取り)」ですが、資産家や大企業経営者などの富裕層は、当然ながら「さとりたくない(差取りたくない)」し「さとられたくない(差取られたくない)」わけです。そのためにいろいろな対策を講じて自分たちの財産や既得権益を守ろうとしている様子が窺えます。以下ではそんな「さとられたくない(差取られたくない)」側の「さとり(差取り)」回避策(とでもいっておきましょう)について私論を述べてみたいと思います。
まず指摘できるのは、富裕層が自分たちの資産を外国に移そうという動きが顕著になっていること。
たとえば本稿で先日ご紹介したように、オランド大統領の富裕層に対する課税から逃れるため、フランスのお金持ちの多くが国籍を変えたり資産を国外に移したりしています。こうした資産家の動きは、上記ギリシャを筆頭に厳しい財政再建が求められているPIIGS諸国でも見受けられ、一般市民の怒りを買っているようです(米欧中韓ほどは格差が大きくないわが国でも、相続税がないニュージーランドへの移住等を推奨する本がベストセラーとなっていることに象徴されるように、今後は富裕層のあいだで資産の国外移転等への関心が高まるかもしれません[衣食住、安心・安全面、医療や社会保障制度、語学面など、あらゆる環境を比較検討すれば、いくらお金持ちとはいえ、課税逃れだけを目的に、実際に日本から外国に移住するメリットは多くはないと思いますが・・・])。
欧米諸国の多くで財政再建が進められるなかで、これからは自らに対する課税強化を予測して資産税や相続税のない(あるいは少ない)国々へ移住したり資産を移そうとする富裕層がますます増えていくものと思われます。具体的な「避難先」はスイス、ベルギー、イギリス、ロシアといった欧州諸国や、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどになるでしょうか。
一方、PIIGS諸国やフランス、アメリカなど「さとり(差取り)」政策としての富裕層増税を進める立場の国々の目から見れば、彼ら彼女らのこうした動きは課税逃れや脱税行為にうつるはず。したがって今後はこうした「さとろう(差取ろう)」とする国々と資産家の避難先となる国々とのあいだで、国境を越えるお金持ちへの税務調査をめぐる対立が深まりそうだと予想しています。このあたりはとくに「財政の崖」回避で富裕層増税に一歩踏み出したアメリカ・オバマ政権がスイスなどの「タックスヘイブン」に対してどのようなプレッシャーをかけていくのか、といった点に注目しています。
(続く)