Straphangers’ Room2022

旧Straphangers' Eyeや習志野原の掲示板の管理人の書きなぐりです

ここがカネの出しどころ

2023-12-05 21:22:22 | 交通
金沢市が北陸鉄道石川線の日中ダイヤ改善へ向けた補助を行う方向であることが報じられています。
北鉄側は上下分離を求めていますが、金沢市は経費を負担する「みなし上下分離」を主張しており、体よく「負動産」を自治体に押し付けたい事業者の目論見を交わしながら実利を得ようとしています。

北鉄は内灘線が金沢駅に乗り入れて金沢市域の近郊路線として再生している反面、石川線は北陸線との接続は新西金沢で、ターミナルは孤立した野町というシチュエーションが残念な格好になっています。ゆえに野町と北鉄金沢を結べば、というプランがいろいろ出てきますが、金沢市の中心街という条件もあり、コストと建設の困難さがネックになって具体化していません。
ゆえに併用軌道を設置してみんな大好きLRTこと路面電車の導入を、という声もありますが、残念ながら内灘線はもちろん、石川線にしてもHRTですからLRTで代替というわけにはいきません。

実際、石川線から野町でバスに乗り継いだこともありますが、一般的なバスは野町始発で座席定員オーバーと輸送力では大差がないLRVでは五十歩百歩の結果しか見えませんし、中量交通では力不足であり、かつ野町というターミナルも不十分ということを感じました。ロケーション自体は程なく犀川大橋に至り、片町から香林坊へ至るわけで、ラストワンマイル的な距離しか残っていないだけにもったいないとしか言えません。試乗した際の特異事項かもしれませんが、インバウンドの観光客の集団までおり、まさかの英語対応を強いられた運転手が「コーリンボー」と叫んでいたのが印象的でした。ちなみにその集団、万札か2000円札という所持金で精算しようとしており詰んでいたんですが、私が両替を申し出て何とか降りられた格好でした。(おかげで久々に2000円札を入手した)

インバウンドは特異事項としても、石川線は決して閑散線区というわけでもありません。予算の制約を受けた中途半端な対応では成果を上げるには程遠いわけですし、北鉄のみならず幹線交通のターミナルと中心街が微妙な距離を残すという地方都市あるあるの状態を踏まえると、抜本的な対応が必要でしょう。

そう、まさかの積極的提案ですが、北鉄両線をつなぐ地下鉄(地下線)の建設こそ王道でしょう。
北鉄金沢から近江町、香林坊、片町を経て野町を結ぶルートです。さらにどうせ巨額の投資をするのであれば、西金沢経由の線形を改めて、金沢工大に寄せて野々市で既存線に合流、と言った近代的な近郊鉄道への転換です。新西金沢の急カーブがなくなることで車両への制約が少なくなり、あるいは内灘線と合わせて20m車が入線可能となれば、足元18mクラスの中古車の入手難という状態を考えると、将来の不安も減ります。

西金沢を通らなくなることのでメリットですが、JR(IR)連絡であれば地下線経由で金沢駅での接続で困る人はどれだけいるのか。要は松任方面に戻る客だけです。逆に金沢市中心街が目的地でJRに乗り換えていた層を最後まで利用するように取り込めます。インバウンド人気もあって観光入り込みが高水準で継続することが見込まれる中、新幹線からの客を香林坊などへ取り込むツールとなるわけで、社会的な投資としては効果は決して低くないでしょう。Covid19前に手を打っておけばコストも安かったんですが、それでもまだ「やるなら今」でしょう。

ちなみに試乗した時のバスは野町のバスターミナルから発車していますが、金沢駅は西口についており、到着は「西口か」で済みますがその逆を考えると分かりづらい状況で系統を確保して捌いていますね。幸いバス事業も北鉄ですから別法人への需要や収入の流出という問題は最小となりますし、バス運転手確保の問題にも資する話です。

その意味では宇都宮のライトライン(の見直し)と並んで、地方都市でHRTが成立しそうな数少ないケースでしょう。
あとは路面電車の渋滞など輸送力が破綻している広島でしょうかね。東西方向の地下鉄が十分成立する規模です。このレベルであれば、単体での収支が賄えなくても、社会的便益が高く、公共が社会的な投資を行う意義はあると考えます。
鉄道の特性が活かせる規模であれば整備すべきでしょう。まさに適材適所ですから。中途半端なLRTとか税金の無駄遣いをするよりは全然マシな話ですから。



壮大なアトラクション

2023-12-05 21:20:42 | 交通
そういうわけで、DMVを試乗していますが、鉄道施設を活かして車両がバスになって道路に進出する、というアイディア、はっきり言って企画倒れです。軌道敷を道路にしてバスを走らせるというBRT(専用道バス)と比較すると、輸送力、汎用性、その他あらゆる面で良いところが無いわけで、現地でも公共交通として機能することなんかまったく期待していない、という本音が滲み出ています。そう考えると「専門情報誌」が無視しているのも一理あるのかもしれません。

DMVが「らしさ」を発揮して機能するとしたら、牟岐線を徳島か阿南、最悪でも牟岐からやってきて、甲浦から道路に進出して佐喜浜や室戸に向かう、という運行形態が確立できないといけません。しかし現状は阿波海南で牟岐線とDMVは分断されており、阿波海南-甲浦でレールの上を走る意味が全くないわけです。座席定員16人で立席不可のマイクロバスでは輸送力を云々するレベルではなく、鉄道でもバスでも力不足です。それこそBRT(専用道バス)であれば大型路線バスが運行できるわけで、百歩譲って阿波海南から甲浦までBRT(専用道バス)として運行のほうがまだ機能していました。

実も蓋もないことを言えば並行するR55に問題はなく、徳島バス南部の路線バスは国道ではなく旧道経由で集落を縫う路線で、それでも需要は多くないようでマイクロバスでの運行ですから、わざわざDMVを走らせる意味はありません。路線バスが11往復、「共同経営」の高速バスが4往復(1往復を除き東洋町の生見以北の運行)とバスで十分な状態ですし。その意味では鉄道時代から意義を問われる存在でしたが、それでも牟岐線に直通していた当時は甲浦駅を接続点として室戸方面への輸送を細々と担っていたわけで、わずかばかりの意義も失った格好です。

なによりも路線を見ればわかるように、阿波海南で線路から外れて向かう先は阿波海南文化村と、入り込みを期待したい地元には悪いですが誰得な状態です。モードインターと道路走行がやりたかっただけでは、という感じです。
それでも「先に」進むだけまだマシで、甲浦で道路に出たあとは、R55に出会うとなぜか北上してすぐの海の駅東洋町に向かいます。ここで室戸方面は再びの乗り換えと散々ですが、DMVはさらに北上して、再び徳島県に舞い戻ります。終点は海沿いの道の駅宍喰温泉ですが、デジャブのような感覚に陥るのも当然、さっき通ったはずの宍喰駅の近くにまで戻ったのです。

ご丁寧にもDMVは宍喰駅脇まで回送されて乗務員は宍喰駅で休憩するわけで、実用を全く考えていない運行です。
DMVの停留所(海部と宍喰も「停留所」とアナウンスされます)は集落を挟んでそれぞれ外れに位置し、集落を貫くのは徳島バス南部の牟岐-海の駅東洋町線と、使うならバスしかない状況です。なお高速バスは道の駅宍喰温泉に停車し、甲浦(海の駅東洋町)-阿南間は区間利用が出来ます。謎の引き返し区間も集落も竹ケ島といった観光ポイントを無視してR55で短絡するわけで(途中停留所はない)、冗談抜きでアトラクション以外の何物でもないでしょう。

実際、現地では公共交通としての扱いとは到底思えないわけで、世界初の珍しい乗り物に乗ろう、という状況です。
インバウンドを目当てにした中国語(繁体字)のポスターがわざわざ用意されていますが、どういうマーケティングか。開業はCovid19の最中でもあり、繁体字ということは台湾、香港の客が期待できるのか。
阿波海南では海部高校の生徒を多く見かけましたが、DMVを使う人はいません。本気で使わせるには定員16人では話にならないからバスにお任せなんでしょう。さらに観光客に向けても、徳島9時半の牟岐線から接続するDMV(宍喰温泉行)は海の駅東洋町での接続時間がタイトなため、先行する徳島バス南部のバスの利用をご検討ください、と掲出されているわけで、広域観光利用でも使えない状態です。(同時間帯にDMV室戸岬系統がありますが、定員16名です・・・)

まあ鉄道モードでの運行が総てでしょうね。遅くて乗り心地もいまいちでは実用とは程遠い代物です。
BRT(専用線バス)はヲタからあれやこれやと貶されますが、DMVはさらに落ちるわけです。気になるのは折り畳み式の鉄道用車輪(1軸台車?)で支えているときのサスペンションの強度で、現状は定員16名と負荷は軽いので顕在化しにくいですが、沿岸部の走行ということもあり、メンテがかなり重要です。
一方でモードチェンジは思ったよりも早くてスムーズです。「モードチェンジ スタート」の声で阿波踊りのお囃子が入り「フィニッシュ」と終了するまで15秒程度か。もっと大掛かりかと思いましたが、これは意外でした。大型バスのサイズでこれが出来れば可能性もまだあったんでしょうに。

牟岐線は阿南以北では日中30分ヘッドと都市近郊ダイヤに変貌しています。阿南からしばらくの間も単行だと着席できないというレベルの乗客を見ており、その後も地味に乗降があるのを見ると、阿南以南で段落ち駅を設定するのは難しいわけで、さらに阿南以南でのバス転換も非現実的でしょう。(R55でカバーできない駅がいくつかあり、しかも乗降がそこそこある)
その意味では牟岐以南で並行バスを運行する現状は何気に最適化ともいえるわけで、阿波海南-海部を事実上廃止できたのであれば、牟岐以南になぜ出来なかったのか。

実は「共同経営」の高速バスも微妙で、高速バスとしては快適な独立3列シートなんですが、それがゆえに定員が27名と少なく、4列シートハイデッカーが40名強の座席定員があるのと比べると「空席利用」が前提というスタイルでは満席リスクが残ります。特に阿南に近い側だと。DMVもそうですが、実は大勢来ないことを前提にしているようでもあり、何か違和感すら感じます。

直通というメリットを捨てて逸走が懸念されますが、阿南で乗り換え(乗り換え便も座席指定などの座席確保が大前提)として4列ハイデッカーで運行できないものか。それも室戸方面直通として。阿南から座席確保がある特急バスで室戸へ、というスタイルがあれば、それこそ「四国みぎした」の観光にも寄与するでしょうし。少なくとも牟岐線からダイレクトに室戸方面に行くバスに乗り継げない現状は話になりません。



「専門情報誌」が泣く

2023-12-05 20:58:48 | 書評
鉄道誌は11月下旬発売分で早くも2024年1月号となっていますが、鉄道ジャーナルがここで宇都宮のライトラインを記事にしています。8月下旬の開業で9月発売の11月号は速報で済ませるのは仕方がないにしても、10月発売の12月号をスキップして「75日目」と題して「月遅れ」の記事にした意図は何か。開業景気で普段着の様子が見えないというつもりかもしれませんが、それは分かり切った話ですし、75日経った取材当時でもまだ下駄をはいた状態なんですが。

少なくとも構造物や運用は乗客の多寡とは別なのでルポは可能なはずですし、宇都宮ですから取材経費がどうのという話でもないでしょう。「ジャーナル」を名乗り「専門情報誌」を謳っているのに、この感度の低さには絶句です。ルポが誌面の一番の目玉というのに、こたつ記事とまでは言いませんが、文献でなんとかなるような記事が多いようにも見えますが、そうなると存在意義がいよいよ薄れます。

ルポという意味では徳島高知県境のDMVに至っては2021年12月の開業時に短信が掲載されただけ。評価はいろいろありますが、まがいなりにも「世界初」を謳う鉄道とバスのデュアルモードの営業運転というのに、現地ルポが無いのはなぜか。
それこそ徳島からでも2時間かかるという遠隔の地だけに取材陣を送り込めないという台所事情かもしれませんが、経営問題が深刻という事情があるとはいえ、北海道には頻繁に取材陣を送り込んでいるのを考えると、雑誌の使命を放棄したというしかない状況です。

DMVだけでは、というのであれば、徳島バスとの「共同経営」を謳い高速バスとの共通乗車がスタートしている牟岐線を絡める手もあります。おりしも阿佐海岸鉄道との境界になった阿波海南に相当する(徒歩3分程度)の海部高校前まで共通乗車区間が延長されており、話題性もあるんですが。ちなみにDMVは輸送力もさることながら路線形態を見れば一目瞭然ですが、公共交通というよりもアトラクション化しており、牟岐以南では徳島バス南部の路線バスが主力です。高速バスとあわせて15往復程度とかなりしっかりした公共交通が確保されている状況とか、見どころは十分なんですけどね。

なおDMVはこれを移動手段として考えると「零点」なわけで、室戸岬方面に行くときに阿波海南から海の駅東洋町までわざわざDMVに乗らないといけない状況は観光客殺しともいえます。あるいは徳島バス南部を使うにしても中途半端な乗り継ぎとなるわけで、なんで高知東部交通が阿波海南まで来ないのか。県境があるとはいえ昭和の昔からこのエリアでの中途半端な乗り継ぎがネックで、しかもわかりづらかったのが令和の現代でも基本は変わっていません。甲浦駅に高知東部バスが来ていた時代が一番マシだったという厳しい状況です。

公共交通としてこのエリアの交通を見るという意味では、10月末から2月いっぱいの土休日と金曜、祝前日の1日乗り放題となる徳島県の公共交通利用促進事業の一環として、「徳島レール&バス東西きっぷ/南北きっぷ」が発売されています。
DMVなどは「南北きっぷ」の対象エリアとなっており(DMV室戸岬系統は除く。特急自由席は利用可能)、さらに「共同経営」区間の高速バスも利用可能と、まさにこのエリアの交通を見るにはうってつけの商品であり、この展開も含めたルポがあるかどうかで同誌の評価は決定的になるでしょうね。鉄道ファン誌の「たのしいてつどう」路線か、鉄道ピクトリアル誌の「学究」路線のどちらにもならないうえに中途半端では。ちなみに鉄道ファン誌ですら既に取り上げていますが。

余談ですが、上記商品はJR四国アプリ専用のデジタルチケットですが、確かに購入は楽で、ひこぼしラインの1日フリーのようにJRのアプリではなく県のアプリで発売、という分かりづらさもないのは評価できます。ただ、スクリーンショットでの乗車は不可と明記されているのでいちいちアプリ起動となるのが厄介で、しかもログイン状態を保持しているはずが解除されることが1日のうちに数回もあると頭を抱えるわけで、現場では他地域のデジタルチケットでの同種のトラブル同様、「お通りください」の信用乗車状態にするしかないわけです。実際私が利用した時も喰らっており、同じDMVに乗り降りしていたこともあり、その場は運転手のご厚意で降りられましたが。

さらにトンネルに挟まれた駅で降りる際とか考えているんでしょうかね。通信事情が必ずしも良くない山間部や沿岸部とかも。上記ひこぼしラインなんかは南行きの筑前岩屋とか長大トンネルを出てすぐ停留所というシチュエーションですが。