sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:レ・ミゼラブル

2020-05-20 | 映画


この映画「レ・ミゼラブル」のポスターの群衆の写真、
これはワールドカップの勝利を祝う人々のようだけど、これ最初に見た時から
2012年の映画「怒れ!憤れ!ステファン・エセルの遺言」の中のシーンを思い出してた。
そっちはデモの群衆です。いい映画だった、これももう一回見たいな。
怒れる者たちよ。
つないだ手が武器。
警察は民衆の側にいない。
警察は平和なデモを弾圧する。
警察は貧窮したものを苦しめる。

「怒れ!憤れ!」から読み取れる抵抗運動というのは過酷でも
まだ救いがあることが多い。希望があるから。
良くしようという希望や善意や良心があるから。
それに比べるとこの「レ・ミゼラブル」の方がきつい感じがします。
だって、救いがない。暴力、復讐、保身、そういうものしかないんだもん。
その人たちにもそれぞれ家庭があって家族はいるというシーンもあって
同じ人間であるというところも描かれてはいるんだけど、でもきつい。
そういう殺伐とした世界を見るのはつらいけど、これは頑張って見た。
見てよかったと思うけど、やっぱりとても疲れました。
暴力、無理解、断絶、報復。そういうものに関わらずに生きていきたいなぁ。
でも世界の現実から目を背けてはいけないんですけどね。

俺が法律だ、俺を馬鹿にするな、みたいな粗暴な人たちの無益な争い。
まともに話もできない暴力オリエンテッドな人たちだけの世界で
そこから抜け出せない人たちが同じような子ども達を育てて
経済的にも精神的にも貧困の連鎖は止まらない。
誰にも共感できないというか不快な大人と不快な悪ガキの暴力性をたっぷり見て
改めて考えたら本当にこれほぼ男しか出てこない映画で、
男さえいなければ世界はどれだけマシだったろうとまた思ってしまった。

カンヌ国際映画祭で、あの「パラサイト 半地下の家族」とパルムドールを競い、
審査員賞を受賞したのがこれですが、日本ではあまり話題になってなかった気がする。
パリ郊外に位置するモンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街は、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。そんなある日、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展。事件解決へと奮闘するステファンたちだが、事態は取り返しのつかない方向へと進み始めることに…
前半は地方から転勤してきた主人公の警官が、コンビを組むふたりと一緒に
パトロールに出て街のことをいろいろ教わるシーンが続きます。
このシーンが結構長い。荒んだ街の様子と、街と警官たちの関係なども見せていきます。
元々いた二人のうち白人の方は威圧的で横暴で暴力的で
この地区の王は自分だと言わんばかりの威張り方で、
力と権威で人々をコントロールします。
街の市長もまた、この警官といい勝負のろくでもない男。
主人公は、ずっとまともな感覚の持ち主で、
仲間の警官や市長に違和感や危機感を持ちながら
不慣れな街を一緒に見て回っているうちに、事件が起こるのですが
事件が起こるまでの、街の不穏さ、映画の画面の緊張感をじっくり味わうことになります。
事件は、盗みの常習犯らしい子供がサーカスの子ライオンを盗んだことから始まります。
それ自体はなんとか丸くおさまるのだけど、横暴で強引な捜査に子供達の不満が高まって
場面が緊迫した時、もっと大きな事件が起こり、そこから怒涛の報復が始まり・・・
ラストは緊張のクライマックスの中で曖昧な終わり方をして、
観客を宙ぶらりんにするタイプ。
こういう映画としては、妥当というか、うまい終わり方です。考えさせられます。

元々いた二人の警官のうち、もう一人のアフリカ系警官は
後半、主人公と話をして、少し気持ちが通じたような場面もあり
根っからの悪い人ではないのだとわかるのだけど、
まあどんな悪人も根っからの悪い人ではなかったりするもので
それが救いになって助かるわけではありません。
最初から、まともな感覚で子供たちの側も配慮してなんとかしようとしていた主人公も
どんどん困った事態に巻き込まれていくし、因果応報という単純な話ではなく
暴力と断絶の街では不条理がまかり通るのを見せつけられることになります。

映画に描かれたことは全部現実にあったことばかりだと監督は言いますが、
確かにリアルなドキュメンタリー映画を見たような気持ちになりました。
スパイク・リーが絶賛したそうですが、さもありなん。




郊外の荒んだ団地が舞台のフランス映画といえば、
わたしの大好きな「アスファルト」がありますが、似たような景色の舞台だけど
「アスファルト」とは全く違う映画でした。
どちらも移民の多い貧困地域の荒廃した団地だけど
「アスファルト」には孤独があるのに暴力はなく
「レ・ミゼラブル」では人は群れて暴力が蔓延する。
孤独で生きていけるのはまだマシで、
身を寄せ合ってないと生きていけないくらいになると
群れの暴力や権力の横暴やコミュニケーションの軽視や絶望が顔を出すのかなぁ。

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