山と溪を旅して

丹沢の溪でヤマメと遊び、風と戯れて心を解き放つ。林間の溪で料理を造り、お酒に酔いしれてまったり眠る。それが至福の時間。

本流に夏ヤマメを追う

2008-08-03 23:07:47 | フライフィッシング
毎年この季節になると、ふる里の溪に立ちたくなる。
大きな流れに思いっきりラインを伸ばして本流の夏ヤマメと格闘したいという欲望に駆られる。
トルクフルな本流ヤマメのパワ-を知ってしまったら、
そのしびれるような快感の呪縛から逃れられなくなってしまうのだ。

午前7時入溪。
気温27度、すでに汗ばむほどの暑さになっていた。



先行者の釣り人に追いついて話を聞いた。
たった200メ-トルの間に、すでに8尾のニジマスを釣り上げて左手にぶら下げている。
『ヤマメはどうですか?』『この川にはもうヤマメなんていないよ』。地元の人さえこうである。
『ゆっくり釣り上がるから先に行っていいよ』。そう言われて先行させていただいた。



今日は管釣りからの落ちヤマメは相手にしない。
最初からポイントを6箇所に絞ってこの川本来のヤマメと対峙するのだ。



ふる里の夏祭りで偶然幼なじみと再会した。
ひとつ下のK君は小学生の頃から鮎釣りと鮎のひっかき漁の名手であった。



この川でボクたちは、小学生の頃から夏休みの毎日を日がな一日過ごしたものである。
日中は素潜り漁と鮎釣り、夕方はウナギのはえ縄を仕掛けて、それを早朝に引き上げに行く。
6人の仲間のうちで今でも釣りを続けているのはボクとK君だけになった。



夏祭りの夜、K君が切り出した。
『あそこ釣ってる?』『えっ、あそこって?』『冷たい湧き水のとこだよ』
『いや、釣ってないよ』『なんで?』『なんかさあ、ヤマメの聖域を犯すようでさあ』
『実はオレもそうなんだよ、なんか、ねえ』『あそこ、今でもいるかなあ?』



途中、大岩を巻く。



大岩の中にはボクたちが川遊びの基地にしていた岩屋がそのままの姿で残っていた。



『あの湧き水の場所はすごかったよね』。K君が言った。
確かにすごかったんだ。素潜りするとヤマメがウジャウジャいて、岩陰に隠れたり流れの中にユラユラ漂っていたっけ。
川床にはカジカがいっぱいへばり付いていてその間を縫うようにモクズガニがのそりのそり歩いていたものである。



『一度だけ探釣してみようか?』。ボクが提案した。
『一度だけね。一度様子見てあとは手をつけないでおこうよ』。彼も気になっていたんた。

ここは殆ど枯れている。



ここもダメだった。



ここは勢いよく噴出していた。川床からはもっと噴出量が多かったと記憶している。



やはりここの湧き水は生き残っていたんだ。
キズひとつない美しいヤマメがヒットした。泣き尺。



体高のある尺ヤマメもいた。
フライをひったくると一気に下流に走る。この瞬発力にしびれてしまうのだ。



32センチのヤマメ。
すさまじいファイトであった。フライのボディが食いちぎられて跡形もなく消滅している。



ヤマメの聖域を保ってくれている湧き水は2箇所だけになっていた。
2箇所とも川床から湧き水が噴出している



ちょっと痩せてはいるが23センチのヤマメが小さく見えてしまう。



今回最大の34センチ。
まるでシャケのような風貌をしていた。
あの頃は、こんなヤマメが当たり前だったんだよな。



6箇所あったヤマメの聖域は2箇所になっていた。
ちょっと寂しい気もするが、でもあの頃のヤマメは確実に生き残っていてくれた。
それが確認できただけでも積年の想いが晴れたような気がする。
ヤマメたちはこの場所で細々と生き残っているのだろうか?
あの頃と同じように沢山のヤマメやカジカがこの聖域で生を謳歌しているものと信じたい。



この川も少しずつ衰弱が進んでいる。
ボクたちが遊んだあの頃の健康な姿に戻ることは決してないのだろうが、
川も溪魚もできる限り長生きして欲しいと願ってやまない。

あの場所ではもう二度と竿を出すまい、そう心に誓った。




コメント (17)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする