山と溪を旅して

丹沢の溪でヤマメと遊び、風と戯れて心を解き放つ。林間の溪で料理を造り、お酒に酔いしれてまったり眠る。それが至福の時間。

渓流へいらっしゃい

2007-08-13 00:00:17 | 蕎麦、うどん、ラーメン
もう25年も前のことだろうか?毎週、心待ちにしていたテレビドラマがありました。

挫折したホテルマンが八ヶ岳高原ホテルの再建を任されて、朽ち果てそうなホテルのペンキ塗りから一つひとつ創り上げてゆく物語であったと記憶しています。ホテルのホスピタリティというものと、チ-ムの大切さを初めて考えさせられたような気がします。

『高原へいらっしゃい』。田宮二郎さんの包容力を感じさせる笑顔が懐かしく浮かびます。ふと、何の脈絡もなく思い出した遠い日の記憶です。

毎日猛暑の日々ですね。
『渓流へいらっしゃい』。神の川の溪の呼ぶ声に誘われて、ひんやりとした林間の溪で一日を過ごしたいと思います。

おそらく大渋滞になるであろう。深夜、日付が変わる前に中央高速に乗り、道志川の大河原に向かいます。深夜の大河原には満天に輝く星空がありました。降るような星空をぼんやりと眺めながらウイスキ-をチビリチビリ、そして石垣の上に広げたシュラフに潜り込みます。私にはこんな野宿が性に合っているようです。



目覚めたのは午前4時半、辺りは少し明るくなり始めていました。もう少し眠ろう。



午前6時、鮎釣り師たちがチラホラと集まって来ています。この区間だけで30人以上の釣り師が両岸から竿を出すのです。私がやっていた小中学生の頃は川を遡行しながらやったものですが、今の鮎釣りはまるで管理釣り場のようになってしまったのでしょうか。



この石垣の上が今日のねぐらでした。シュラフを畳んで別天地の溪へ向かいます。



山々に囲まれた田んぼにも青々と稲が繁っています。あとひと月もすれば黄金色の稲穂が実ることでしょう。





(初めての溪)

今日は初めての沢を探釣しようと決めていました。沢の名前も分からない小さな沢でした。午前7時、入溪してすぐに新しい足跡が見つかった。こんな名も知れぬ沢にも人が入っているのかと驚いたり感動したり。



きつい傾斜の落ち込みがどこまでも続いています。初めての溪はワクワクしたり、ちょっと怖かったり、いつも新鮮な期待を抱かせてくれるものなのですね。



フライは#16のアントパラシュ-ト。先行者がいるので思いっきりサイズダウンしてみる。この溪に住むのはヤマメだろうか、岩魚なのだろうか。どうしても顔を見て、溪魚が生息していることを確認して帰りたいと思います。



更に狭い谿をよじ登る。



いかにも岩魚が飛び出して来そうな落ち込みが続きます。溪魚は居ないのだろうか、先行者に怯えているのだろうか。フライへの反応は、、、、一度たりともない。



岩陰の薄暗いあの落ち込みの奥に、岩魚は潜んでいるに違いない。身をかがめ、息をひそめてフライをプレゼンテ-ションした、、、、フライはひらひらと漂っている、、、、心の中で数を数える、、、、ひとつ、ふたつ、、、、、、6つ数えたとき、、、、その岩魚はひったくるようにフライに食らい付いた、、、、やっぱり居たんだ!



初めての溪で、最初の一尾、いつも感動するものですよね。
20センチに満たない小さなイワナくんですが、険しい溪に生きる風格を感じます。こんなところにも地元有志の人たちが放流しているのかな。



更に遡る。



ここで油断してしまった。右足のグリップが弱かったのだろうか、ズリッ、ズズズ--ッ。岩の出っ張りに右足のスネを思いっきり打ち付けてしまった。痛ってぇ。しばらく顔をゆがめ、息を詰めながら回復を待ったが、骨の痛みはひいてくれなかった。やはり単独行は怖い。がっ、やめられない。


まだ良いポイントが続いているようでしたが、ここで帰ることに決めました。



一尾に出逢えれば、それで良いのです。



(日蔭沢の下流)

初めての溪を慎重に下りた。
午前9時、痛みも少しひいている。溪食にはまだ早すぎる。ちょっとだけ日蔭沢に入ってみようか。本流の出合いからちょっとだけ。さっきの沢とは溪相が全然違う。決して広くはないのに、岩が白く乾いていて開豁な溪に感じてしまう。



良いポイントが続く。でも出ない。



フライを#16のオドリバエにチェンジする。
オドリバエは6月後半から7月上旬のフライであるが、アントとしても使える優れものである。



こんなポイントが続く。先行者が居るので反応がシブイ。



やっと出たよぅ、あの流れ出しから。



『ありがとね。君に出逢えたからね~今日も良い一日になりそうさ~。さあ帰ろうかね~』『えぇっ、もう帰っちゃうん。まだいいとこあるし、上流はイワナも居るんよ』『ホントにもういいさ~。美しい君に会えただけで充分幸せさ~』『そうなん、じゃあまた来てね』『うん、また来るさ~。元気でもっときれいになるのであるよ~』



8寸ほどのホントに美しい山女魚でした。彼女に別れを告げて元の流れに戻しました。『山女魚の恩返し』な~んてないよねえ。振り返ると、まだ良い流れが続いているのでした。でも今日は後ろ髪を引かれる思いもありません。





(林間の溪で川飯)

午前10時半に釣りを終え、上流のダイニングへ向かいます。
『神の川ヒュッテ』はいつになく賑わっていました。私はこの賑わいが苦手です。



キャンプサイトは、恒例のボウイスカウトの合宿です。これがまた騒がしいのです。私はこの騒がしさが苦手です。



賑わいと喧噪から早く逃れたくて、肩にズシリと重いザック担いで足早にヒュッテの横を通り過ぎました。そして、いつものダイニングへ。緑の岳樺に覆われた林間の溪です。下界とは10度以上の温度差があるでしょうか。ひんやりとした爽やかさが何とも言えず心地よいのです。



今日のメニュ-はあっさり系、しかも適量と言うことで。



冷やしトマトとモッツァレラチ-ズ。の、はずが、買うの間違えちゃってカマンベ-ルチ-ズになっちゃいました。けど、これも中々ビ-ルに合うことが分かっちゃったりして。ひょうたんから駒と言うやつですかね。



今日のビ-ルは『ニッポンプレミアム』。そして焼酎はいつもの芋で『黒霧島』。
浮気はしないのです。



清冽な流れに足を浸して火照った体をク-ルダウン。そして自分だけの『孤独』を楽しむ。これぞ正しい男の夏休み、な~んて一人悦に入っちゃって。スミマッシェ~ン。



バシャバシャと、冷たい流れにアンヨを遊ばせてはしゃいでおりますと、いつの間にか私のそばに若いガマガエルが寄ってきたではありませんか。



『キミ、名前は?』『おいら、かん助』『かん助はいくつだい?』『オイラはまだ1才、人間で言うと少年と青年の間くらいかなあ』『そうなんだぁ、かん助はいつも一人で気楽でいいやね~』『そんなことないよ、ひとりぼっちは寂しいものだよ』『キミの両親や兄弟はいるの?』『生まれてから誰とも会ったことないんだ。だから天涯孤独ってヤツだよ』『そっかぁ、それは寂しいだろうなぁ』『ホントの孤独って、それはそれは寂しいものだよ。だからオイラは、オジサンみたいに時々孤独を楽しむなんてこと、理解できないんだよね』『なるほどねぇ、オジサンには心が繋がってる家族や友達がいるからね、ホントの孤独じゃないから孤独を楽しめるのかも知れないね』『そうだと思うよ』『まあ、今日はここで一緒に過ごそうや』

『スモ-クサ-モンとカイワレ巻、食べてみる』『いらな~い、お腹こわしそうだもん』『そんなことないさ~。いつも何たべてんの?』『何でも食べちゃうよ。ミミズとかサワガニとか、死んだ蝉とかちっちゃいヘビとか、うまいんだよ』



『オジサン、そのケガどうしたの?』『いやぁ、岩からズリ落ちちゃってさあ、カッコ悪いよなあ』『もう年なんじゃない?無理しない方がいいよ』『あのなぁかん助、、、、ハイハイ』



『オレ25センチ、かん助は?』『オイラは1センチくらいかなぁ』『ちっちゃ-』『でもさぁ、足ヒレがついてるからとってもうまく泳げるし、岩に吸い付いちゃうから、オジサンみたいにズリったりしてケガなんか絶対にしないよ』『そうなんだぁ、それは羨ましいなあ』



『ちょつと待っててね、冷やむぎ作るからね』

湧き水でお湯を沸かそう。



茹で上がった冷やむぎは、冷たい湧き水で洗ってもんでしめる。どうですかこのツヤ、旨そうでしょ。



そして氷を散らして、涼しげでしょ。やっぱり夏はこれですよね。日本に生まれてホントに良かったと感じる瞬間ですよねぇ。



さあ、いただきましょう。
だし汁につけて、ちゅるちゅる~っと。この喉ごし、なめらかさ、涼やかさ。



お腹も満ちて、体の隅々にまでお酒がまわって、心地よい気だるさに包まれて来ました。ゆっくり体を横たえると、そのまま眠りに落ちてゆきそうです。



『オイラ、そろそろ帰るね』『そうかぁ、また会えたらいいね』『うん、オジサンここには良く来るの?』『あぁ時々ね。来たときは必ずここに居てお酒呑んでるからね、かん助もまたおいで』『うん分かった。オイラも時々ここへ来てみるよ。じゃあね』『あぁ、元気でな』



この空間だけは、ゆ~っくりと時がながれています。
私の体内時計もまた、ゆ~っくりと時を刻んでいます。下界の喧噪から離れて過ごすこんな時間、お金は無いけど、とても贅沢な時間です。



冷たい冷やむぎとカン助、ありがとね。

そして、あなたもぜひ一度『渓流へいらっしゃい』













コメント (4)
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