ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 巽 好幸著 「なぜ地球だけに陸と海があるのかー地球進化の謎に迫る」 岩波科学ライブラリー

2018年09月25日 | 書評
地下構造探索法(MCS)システム

太陽起源から地球進化の謎に迫る、陸と海の関係から読み解く 第8回

3) プロジェクトIBM-海で生まれる大陸(その2)

IBM弧の誕生は約5000万年前に赤道付近で「古KPR-IBM弧」が生まれ、地殻が冷えるにつれて2500万年前海洋底パレスベラ海盆が生まれた。約2000年前、KPR弧を置き去りにしたままIBM弧が東方に移動した。「海洋底盆地拡大」によって生まれた海である。この時期にはマグマ活動はなかったが、日本海側でも背弧海盆の拡大が起り、日本列島は大陸から離れた。日本列島の南方移動によってIBM弧が本州に衝突を始め、1500万年前の中新世期に日本列島は激変期を迎えた。その時期太平洋プレートの沈み込みによってマグマ活動が始まりIBM島弧は成長期になった。IBM弧は海洋地殻の上に形成された「海洋島弧」となった。地球内部の構造を調べるのは、地震波を発生させ地震波が伝わる速さの違いをトモグラフィーとして可視化することである.海域における地下構造探査法(マルチシステム MCS)を図-9に示す。観測船からエアーガンから発せられた衝撃波は、物性が異なる境界で反射・屈折して、ストリーマケーブルに装着した受信器や海底地震計で検知する。独立行政法人海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域プログラム(JAMSTEC)では4000mのストリーマケーブルと100台以上の海底地震計をもちいて地殻・マントル構造を描いているそうだ。図-10に4期にわたる探索計画を示した。IBM1:海洋地殻、IBM2:初期の島弧地殻、IBM3:島弧上部地殻、IBM4:中部地殻を調査したという。調査全長距離は1050Kmにおよび、結果は1996年から公表されてきた。①伊豆小笠原全域で中部地殻は安山岩の大陸地殻に相当する、②下部地殻は玄武岩に相当する地震波伝播速度を示した。、③地殻とマントルの境界であるモホ面の直下には伝播速度が低い層が分布し、その下に反射面が認められた。

(つづく)

読書ノート 巽 好幸著 「なぜ地球だけに陸と海があるのかー地球進化の謎に迫る」 岩波科学ライブラリー

2018年09月24日 | 書評
IBM弧
 
太陽起源から地球進化の謎に迫る、陸と海の関係から読み解く 第7回

3) プロジェクトIBM-海で生まれる大陸(その1)

伊豆・小笠原・マリアナ島弧はフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界をなす島弧を指す。伊豆半島、伊豆大島からヤップ島まで2800km以上に及ぶ。太平洋プレートがフィリピン海プレートの下へ潜る沈み込み帯に伴うもので、このような島弧としては世界的にも大規模なものである。火山活動も活発で火山島が多い。なお弧とはプレートの押し込みによって持ち上げられた高台の事である。つまり海溝(トレンチ)-弧ートラフという順で構成される海底地殻の皺の名称である。大陸地殻成因論は大陸を研究していても、それが結果である限り大陸誕生に迫ることはできない。日本列島の代表的な火山帯の一つである「富士火山帯」の南に位置するのが伊豆・小笠原・マリアナ弧(IBM弧)の火山である。図に示すように、この火山帯は太平洋プレートが伊豆小笠原海溝とマリアナ海溝からフィリッピン海プレートに沈み込むことで生み出された。IBM弧の西には四国海盆、パレスベラ海盆が、さらに西には九州・パラオ海嶺が位置する。フィリッピン海プレートはユーラシア大陸に向かって移動し南海トラフ海溝などでマントルに潜り込んでいる。この沈み込みによって、海溝型巨大地震である「南海・東南海・東海連動型地震」が発生してきた。地震発生については本書の主眼ではないので、山岡耕春著 「南海トラフ地震」(岩波新書 2016年)を参照してほしい。

(つづく)


読書ノート 巽 好幸著 「なぜ地球だけに陸と海があるのかー地球進化の謎に迫る」 岩波科学ライブラリー

2018年09月23日 | 書評
マントルの対流
  
太陽起源から地球進化の謎に迫る、陸と海の関係から読み解く 第6回

2) 大陸地殻ーその性質と謎(その2)
海嶺のプレート発散境界やホットスポット火山の主要な噴出物が玄武岩であったのと対照をなす。海底プレートである冷たいプレートが沈み込むマントル下降流域において、プレート表面に沿って粘性の高い流体であるマントルが引きずり込まれる。そこで大陸地殻とその下にある上部マントルとの間の「マントルウェッジ」に流れが発生し、深いところからマントルが供給される。いわば温度差による対流ではなく、運動による2次対流である。冷たいプレートが沈み込むことで、高温のマントルウェッジが形成される。ソリダスのマントル物質は、沈み込むプレートが持つ含水鉱物が熱と圧力によって、「脱水分解反応」を受け、よりソリッドな鉱物に変換される。放出された水は含水カンラン岩を作りマントルの深いところ約100Kmで再び水を放出する。水が上昇し約1000度のソリダスを部分溶解し始める。部分溶解したマントル物質は、周囲の非溶解域に比べて密度も粘度も低下し不安定になり、この状態を「レイリー・テイラー不安定」と呼ぶ。部分溶解域は液滴(マントルダイアピル)のように丸い形となって上昇しマントルプルームを形成する。マントルダイアピルの中のマグマは地殻内に上昇し、分離して初生マグマと呼ぶ。マグマは玄武岩質である。沈み込み帯における岩石の構造について、主に化学的組成と相転移について詳細な検討が加えられている。沈み込み帯では安山岩が優先的な理由は、そこで発生する玄武岩マグマには多量に水分が含まれるためである。マントルに水が多量に存在すると、ソリダスが著しく低下する。すなわち通常より低温でマグマが発生する。このような低温条件では低融点成分である二酸化ケイ素が普より多く液相に含まれることになる。発生するマグマは玄武岩質ではなく安山岩質になるのです。東北日本弧やアンデス弧まどの「大陸弧」と呼ばれる大陸周縁部の沈み込み帯の火山では安山岩(ソレアイト質とカルクアルカリ質が、ケイ酸量とマグネシウム量の比率で混晶体で存在)が卓越している。ところが、伊豆・小笠原弧(IBM弧)のような海域で形成される沈み込み帯では、安山岩は貧弱で分化の少ない玄武岩質の組成が高い。海洋域では玄武岩質であるが、安山岩質の大陸地殻はもっと成熟した地殻と言える。地震波伝播速度は光の屈折率屈折率と同じように媒質の化学組成で決定される。IBM弧の火山の直下には20Kmの厚さの「島弧地殻」が存在し、その中部地殻(数Kmの深さ)の層で、平均的な大陸地殻と同じ地震波(P波)伝播速度を示していた。玄武岩質と言われていた海洋地殻で安山岩質の大陸地殻が存在していたこと位なる。このことから大陸地殻がもともとは海洋島弧で生まれたということになるのではないかという。これが本書の主要な主張である。しかしアリューシャン列島では否定的な結果しか得られなかったので、決着をつけるべく次章で述べるプロジェクトIBMがスタートした。

(つづく)

読書ノート 巽 好幸著 「なぜ地球だけに陸と海があるのかー地球進化の謎に迫る」 岩波科学ライブラリー

2018年09月22日 | 書評
大陸型と海洋型クラスト岩石

太陽起源から地球進化の謎に迫る、陸と海の関係から読み解く 第5回

2) 大陸地殻ーその性質と謎 (その1)
上に大陸型と海洋型クラストの岩石を示しました。大陸地殻も海洋地殻ももとはといえば、地球内部が融けた状態のマグマが地上に出て冷えて固まったものです。固体地球の8割以上を占める岩石圏(マントルと地殻)は二酸化ケイ素を主成分とする岩石です。融解したマグマもケイ酸塩です。相転移では「部分融解」という現象が大切である。つまり固相と液相がある温度圧力範囲で共存する状態が存在する。部分融解が始まる温度を「ソリダス」、完全に溶融状態になる温度を「リキダス」という。酸化物の多成分系からなる岩石は、まず低融点物質が溶融し選択的に溶け出すのです。マントルを形成するカンラン岩は1気圧であればソリダスは1200°C、リキダスは1700°Cです。融点が1650度の二酸化ケイ素と280度の酸化マグネシウムを含むととすると、カンラン岩は二酸化ケイ素が40%、酸化マグネシウムが50%が溶解し始めると、最初は二酸化ケイ素を多く含むマグマ液相ができる。温度がさらに上昇し部分溶融が進むとカンラン岩に近い組成になる。圧力(深さ)が増すと固相ソリダスが広がり、マントル上部では液状リキダスが支配的になる。岩石の状態は温度と圧力の相図から決定される。つぎにマントルからマグマが作られる(部分溶融)は、マントル最下部が3800度の高温の核で加熱され、対流で上部に上がると圧力が減少し溶融状態になりやすくなる。第3の要因はソリダスを下げる水の存在である。結晶構造に水分が入り込むと、水和結晶構造が緩みだし400度以上の融点低下となる。地殻の移動が起こりやすいことについては図-2のプレートテクトニクス、そしてマントルの対流メカニズムについては図-6、結果としての地上へのマグマの噴出については図-7に示しました。プレートテクトニクスとは、固体地球の表層は複数のプレートで覆われていてこの運動がさまざまな地質現象を引き起こすという説です。図-1に日本列島を取り巻く4つのプレートを示しました。太平洋プレート、フィリッピンプレート、アムールプレート、オホーツクプレートです。2011年の東関東大地震と津波襲来は、太平洋プレートの日本海溝への滑り込みによるひずみの所為でした。図-2に示したように、プレート下の上部マントルが剛性固体として振る舞うリソスフェアという部分と、粘性の小さい流体として振る舞うアセノスフェアの力学的関係によって決定される。海洋地殻と大陸地殻を載せているプレートは、海洋プレートが海嶺で形成されされた後冷却して密度と厚みが増してマントル内部へ沈み込んでゆく。地殻プレートの沈み込みと浮力による引っ張りが働いてプレートが裂けて「プレート発散境界(プレート生産境界)」という部分ができる。海底では海嶺、陸上では地溝帯(リフトゾーン)と呼ばれる場所がプレート発散境界である。マントル対流がプレートを運搬しているのではなく、大規模なマントル対流の吹き出し口である「ホットスポット」(下部マントルと外核境界面で発生)で強力なマントル上昇力「スーパホットプルーム」が生まれるのである。同時に地殻がマントル層を落ち込んで外核に達する「スーパーコールドプルーム」の二つの力が下部マントルに働くのである。マグマが発生する場所は、ホットスポット火山、プレート滑り込み帯火山のマグマだまりである。玄武岩海洋地殻を作り出したマグマは、含水量が少ない。滑り込み帯マグマのような水の影響はない。このようにマントル物質から分離して上昇する玄武岩マグマは図-2に示したように、地殻内の密度が釣り合ったところで「マグマ溜り」を作る。大陸地殻の二酸化ケイ素量は約60%の安山岩質組成である。海洋プレートが海溝からマントルへ潜り込む「沈み込み帯」は火山が密集するゾーンである。図-1に示したように日本列島がその典型である。火山列島と言ってもよい。安山岩質マグマの活動帯である。海嶺のプレート発散境界やホットスポット火山の主要な噴出物が玄武岩であったのと対照をなす。

(つづく)

読書ノート 巽 好幸著 「なぜ地球だけに陸と海があるのかー地球進化の謎に迫る」 岩波科学ライブラリー

2018年09月21日 | 書評
地球内部構図と地震波伝播速度

太陽起源から地球進化の謎に迫る、陸と海の関係から読み解く 第5回

1) 序章ー陸惑星地球 (その2)

一般的に星は宇宙空間に漂うガスとダストを原料として誕生した。衝撃波の揺らぎで分子雲の凝縮が進むと、中心に太陽を持つ「原子太陽系円盤}が作られた。太陽から三天文単位(地球・太陽間距離1.5億Km×3)に位置する「雪線」(H2Oの昇華温度170°K)の内側では岩石や金属、外側では氷が主成分である。雪線ないでは岩石の微惑星(大きさ数Km)が形成され、重力による衝突・合体を繰り返す。大きいものほど重力によってさらに大きくなる「暴走的成長」が進み、月程度の大きさの岩石型「原始惑星」と成長する。太陽からの距離が遠くなるほど広い範囲から微惑星を集めることができるので、大きな惑星が形成されやすい。地球型惑星の領域では、原子惑星がさらに衝突・合体して惑星が作られた。木星よりさらに外側の惑星は衝突頻度が低いためガスが散逸し密度の低い惑星になった。太陽からの距離によって、しっかりしまった地球型惑星、巨大な木星型惑星、天王星型惑星に分けられる。地球型惑星の外側には、木星の巨大な質量によって星になり損ねた小惑星帯がある。この帯から隕石が地球に落ちることがある。そのなかには「始原的」な「炭素質コンドライト」の岩石も僅かながらある。いまから45億7000万年前に太陽系惑星の形成が始まったとされている。それはビックバンより93億年後の事である。集積と合体のエネルギーは熱に転換された。その岩石の揮発成分がガス化して宇宙へ散逸したものもあるが、十分大きな質量を持つ地球では重力によって原子大気の誕生となった。原始地球は高温で全体が溶融して「マグマオーシャン」が分布していた。密度の高い金属は中心に沈んでゆき地球に金属核が作られた。45億2000年前、巨大惑星「ティア」が地球に衝突し月が誕生した。隕石の集中的落下・集積は、38億年前から40億年前で止まった。微惑星の集積がほぼ終了し地球表面が冷却に向かったのは38億年前となる。45億年前から38億年前の時代を「冥王代」と呼ぶ。冷却に伴い地殻が構成され、プレートテクトニクスが作動しはじめた。グリーンランドのイスアにその滑り込み地層に付着した「付加体」が発見され、地球最古の生命の誕生を物語る。ここから「始生代」とよぶ。地球の内部構造を図-4に示しました。地球の内部には地震波トモグラフ測定により、何段階にわたる「地震波不連続面」が存在します。一番浅い不連続面は地殻と上部マントル層の間(海底では6Km、大陸ではもっと深い)に「モホロヴィッチ不連続面(モホ面)」が存在し、第2の不連続面は400Km、第3の不連続面は600Km、ここまでは一様にP波は速いがS波は遅い、そして地層密度はは小さい。さらに深い第4不連続面は2700Km-2900Kmに存在するD"層です。その下の外核層ではP波の伝播速度は大きく低下しs波は伝わらない。密度はぐっと高くなります。第5の不連続面は5100Km下の外郭と内核の境界です。内核ではs波は少しは伝わり、p波も速くなります。この5つの不連続面ができるのは構成する物質が異なるためです。上部マントルはカンラン石のスピネル構造で、下部マントルがその構造がペロブスカイト構造となります。これらは岩石の構造の相変化を表します。D"面ではポストペロブスカイト構造になり、それより下の外角の物質は鉄ーニッケル合金(鉄88%、ニッケル8%、ケイ素6%)(液状)です。内核は鉄ーニッケル合金(固体)です。マントルを構成する物質はカンラン岩で元素はケイ素45%、アルミ4%、マグネシウム38%、鉄8%などです。地殻岩石組成は陸上地殻と海洋地殻に特色があります。大陸地殻の鉱物岩石はより軽元素に富み、低密度です。海洋地殻は明確に三層構を持ちます。上から堆積層、玄武岩の溶岩層、そして玄武岩の深成岩である「斑れい岩」で構成される。上の右の図に示すように、陸上地殻は花崗岩、海洋地殻は玄武岩で、物質構成は陸上地殻は二酸化ケイ素が主成分で61%で、海洋地殻は50%です。酸化カルシウムは海洋地殻で11%ですが、陸上では6.6%です。酸化鉄は海洋地殻で11%、陸上地殻で4.2%です。海洋地殻とマントルとの境界であるモホ層の近くの第3層の下部は蛇紋岩で構成されている。大陸地殻の密度は2.7g/立方cmです。地球のクラスト地殻は地球全体の1%にも満ちません。大陸地殻の厚みは海洋のそれより圧倒的に大きいので、体積で7倍、質量で4倍を占める。

(つづく)