ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 安西祐一郎著 「心と脳-認知科学入門」 岩波新書

2012年07月30日 | 書評
心のはたらきを情報科学の目から見ると 第11回

2)認知科学の歩みー学説年代史 (6)
④1980年代ー進化 (2)
イメージと知識のはたらきに関する新しい「メンタルモデル」という概念が生まれた。何かの問題を解くために心の中に創り出され、心の中で操作される外界の現象のモデルのことである。現象を分かりやすい喩(イメージ)に置き換えて問題解決を図るものだが、モデル自体も変化することを横山が指摘した。心のはたらきと言葉の意味の関係を探求する「認知意味論」の研究が急速に進んだ。レイコフの「比喩」、フォコニエの「メンタルスペース理論」は、思考のはたらきの多くが、比喩や類推を組み合わせて複雑なイメージを作り、そのイメージを操作することであると主張した。言語のはたらきを統語論と意味論を融合した「極小モデル」で説明するようになった。意味論で重要な「文脈」と「状況」の関係は、思考や記憶のはたらきが状況に依存する事を重視する説をサッチマンが主張した。説明文章は読む人の状況を考え、臨機応変に表わさなければならない。子供の学習は知識を利用することではなく、熟達した人々の中で状況(環境)に応じて埋め込まれているのであると、人類学者レイヴ、ウェンガーが指摘した。「文脈」と「状況」の言語意味論でも、バーワイズとペリーは状況のもとでの発話の意味が文の意味であると云うモデルを提唱した。人間と機械の相互作用は、戦前から「人間工学」などの分野で研究され、製品設計、安全管理などに広く応用されてきた。1980年代に「認知工学」という工業技術分野が誕生した。サザーランドの「グラフィカルユーザインターフェイス」はパソコンに応用され、ラヌムッセンの安全工学、ノーマンとドレイバーの「ユーザー中心のシステムデザイン」の方向へ進展した。心の特定の機能ではなく、たくさんの機能の相互モデルとして、ニューウェルのSOAR、アンダーソンのACT-Rが発表された。昔からの考え方を認知科学の知見を応用して理解しようとする「認知社会心理学」が盛んとなり、偏見・虚偽・ステレオタイプなどの研究が行われた。
(つづく)

環境書評 守田優 著「地下水は語るー見えない資源の危機」 岩波新書

2012年07月30日 | 書評
地下水の枯渇、地盤沈下、湧水の運命 第13回 最終回

4)地下水利用の社会制度(2)
 国分寺崖線の湧水から発する野川流域湧水群の関係自治体は湧水の保全を求めた条例つくりを進めている。野川湧水群は、姿見の池、真姿の池、日立中研内の湧水、殿ヶ谷庭園、貫井神社、東京経済大学内しんじろう池、滄浪泉園、野川公園、深大寺、実篤公園、みつ池、喜多見不動尊、つりがね池などの遺跡から構成されている。1974年住民運動を受けて、東京都は殿ヶ谷公園を36億円で買い取った。滄浪泉園も買い取った。地元では「水みち研究会」が1988年より調査保全活動を行なっている。2004年国分寺市まち作り条例へつながり、崖線周辺の開発行為に対して環境影響評価を義務付けた。小金井市では1981年に雨水浸透事業に着手し、全軒の54%という普及率となった。これは涵養量にして0.3ミリ/日であるが、地下水揚水量は小金井市でまだ2ミリ/日であるので、やはり地下水揚水規制を強めなければならない。筆者の故郷である阿蘇山の伏流水の町熊本市では、水道資源の100%を地下水に依存し、古来「ざる田」という涵養域が有った。近年の休耕田の増加により地下水がピンチにおちいり、2004年度より地下水の人口涵養事業を開始した。水田の水利権を利用し河川水を引く事業である。水循環の健全化は先ず第1に循環不全を防止し正常化する段階があり、地下水揚水を削減し地下水位を回復させることである。第2に水循環を改善する段階(雨水浸透施設など涵養域の強化、流動阻止要因を除去)、最後に水循環を健全化する第3段階からなる。
(完)

筑波子 月次絶句集 「土用丑」

2012年07月30日 | 漢詩・自由詩
午天高臥汗為珠     午天高臥すれど 汗珠を為し

避暑山村涼味無     山村に避暑すれど 涼味無し

烈日炎炎中伏熱     烈日炎炎たり 中伏の熱

満身如酔我忘吾     満身酔うが如く 我れ吾を忘る


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(韻:七虞 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)