ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 安西祐一郎著 「心と脳-認知科学入門」 岩波新書

2012年07月26日 | 書評
心のはたらきを情報科学の目から見ると 第7回

2)認知科学の歩みー学説年代史 (2)
② 1960年代ー形成
 視覚と運動の強調は「ベルンシュタイン問題」といわれ、釘を打つハンマーの動きと目の働きがそれである。これを能動的知覚といい、運動選手や職人の動きもこれに相当する。心と身体をつなぐ運動のはたらきは1960年代の後半に研究が開始された。解剖学的な構造まで立ち入って考える情報処理モデルは、1969年マーが提唱した小脳の運動学習の「パーセプトロンモデル」がある。これは計算論敵神経科学という分野を形成した。情報処理モデルの優れた点はモデルの処理能力を数値的に検証できることである。記憶の仕組みについて、スパーリングは短時間の大量記憶を視覚記憶と呼び、クイリアンは意味ネットワークをノード間の連絡と定義し長期記憶と呼んだ。これらを総合したモデルがアトキンソンとし不倫が1968年に提案し、「多重貯蔵記憶モデル」と呼ばれた。知識は記憶情報の1種ではあるが、情報が意味的につながって構造化され状況に応じて使われ、新しい知識が創造される。心のはたらきのモデルとして用いられたリスト処理言語として、1960年マッカーシーがLISPを開発した。思考の情報処理モデルとして、ミラーやプリブラムによるTOTEモデルを開発した。ニューウエル・サイモンらは「発話プロトコル分析」を導入し、知的なはたらきにはかならず記号表現尾情報処理があるということを確立した。感情のはたらきのモデルとして、意志下の生理的な反応の方が意識に上る感情よりも早いというジェームス・ランゲ説があり、いや同時だとするキャノン・バード説もあり、シャンク-とシンガーは「感情とは生理的な反応の認知的解釈である」とする二因子モデルが提唱された。スペリーは「分離脳」の概念を提出し、言葉の処理は主として左脳、知覚的パターン処理は右脳といったが、現在の研究者は左右の脳半球のはたらきの違いに拘る人はいない。むしろ言語能力は先天的か後天的に議論が盛んである。言語機能の局在性と生得性を主張するチョムスキー学派に対して、意味論の研究1960年代より始まった。言語学者のレイコフは「生成意味論」において、深層構造として動作、動作主体、属性からなる意味構造を定義し、その深層構造から直接表装構造が生成されるという。フィルモアは動詞の意味を意味構造の要において、「格文法」と呼んだ。意味論を探る学問を「認知言語学」という分野が育った。言葉を理解し生み出す心のはたらきでは、幾つかのレベルの情報が総合的に処理される。①視覚、音声などの知覚情報、②音韻情報、③最小単位の意味情報、④単語。⑤文法、⑥意味、⑦文脈など語用のレベルである。
(つづく)

環境書評 守田優 著「地下水は語るー見えない資源の危機」 岩波新書

2012年07月26日 | 書評
地下水の枯渇、地盤沈下の実態、湧水の運命 第9回

2)湧水枯渇 (2)
 降水は地表で河川に流出する量を差し引き、地表から蒸発散する量も差し引き、地下に流入し貯まる水量(涵養量)を算定する。地下水の自然の涵養量は東京台地では1日あたり1ミリメートルが目安である。それに地域の浸透面積率(1-舗装道路率)をかける。次に流出(アウトプット)を見ると、武蔵野三鷹地区での地下水用水量を面積で割った値は3-4ミリメートル/日(1960年代)であった。圧倒的に支出過多で赤字収支となっていた。こうして1950年から1970年にかけて地下水位は海水面基準40メートルから海抜レベル以下まで低下した。それに加えて不圧帯水層と被圧帯水層との間がどこかで薄くなっているか破れている可能性が、水爆実験によるトリチウムをトレーサーとする濃度分布測定で推測された。不圧地下水が下方向への被圧帯水層へと漏れ出している。雨水浸透マスによる涵養増加策が有効であるが、もっと深刻な水循環不全に対しては揚水量を削減して(1ミリメートル/日以下に)被圧帯水層の地下水位を上昇させ漏れをなくすることが唯一の道である。小金井市の水道局の例で言えば、何本もの井戸が掘られ被圧帯水層の水位が低下し空気層が出来て不圧化し、井戸のケーシングを伝わってより下方の被圧帯水層へ水が漏れ出している。
(つづく)
 

筑波子 月次絶句集 「夏休水浴」

2012年07月26日 | 漢詩・自由詩
街頭赫赫暑如焚     街頭赫赫と 暑焚くが如く

江上空雷聳夏雲     江上空雷 夏雲聳ゆ

水浴河童張火傘     水浴す河童 火傘を張り

午天日暮帯蝉熏     午天日暮れ 蝉熏を帯びる


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(韻:十二文 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)