ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

環境書評 長谷川公一著 「脱原子力社会へー電力をグリーン化する」 岩波新書

2011年11月22日 | 書評
電力のグリーン化による脱原子力社会のシナリオ 第11回

1) 誰も止められないのか、日本の原発政策 (8)

 はたして日本で永久埋設施設が可能であるかどうかに関しては、3つの難問が横たわっている。ひとつは2000年に「原子力発電環境整備機構NUMO」が出来たが、候補地問題は一向に進展していない。そうなると六ヵ所村か各原発敷地内かということが話題となり、立地各県では最終処分地になる事を懸念し始めている。第2の難問は日本特有の余剰プルトニウム問題である。日本は国際公約として原発の原料となるプルトニウムを持たない事を1991年に宣言している。ところが日本は2009年までに34トンのプルトニウムを保有し、そのうち24トンは六ヵ所村再処理工場内にある。プルサーマル(軽水炉でMOX燃料を使うこと)の実施が大幅に遅れ、その実施原子炉であった福島第1原発第3号炉が廃炉になる運命となったので、さらにプルサーマリ計画は頓挫した。第3の難問は、欧米では再処理を禁止しているが、経産省内の電力自由化論者は再処理凍結派だったが省内路線で敗れ再処理派が勝利したため政策転換が難しい。もし再処理工場がフル回転しなければサイクル施設は実質的に「原子炉発電のごみ捨て場」となるので、青森県は使用済み核燃料の搬入を拒否するかもしれない。将来軍事転用可能な権益を守りたいとする政府筋の思惑がありなお政策転換を難しくしている。非核保有国で、ウラン濃縮、再処理、高速増殖炉などの技術保有を認められているのは日本のみである。1969年の外交機密文書「わが国の外交政策大綱」(現在機密解除)には「当面核兵器は保有しない方針を採るが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともに、これに対する掣肘を受けないように配慮する」という。これが「核兵器を持ちたい」権力の真意であり、「六ヵ所村再処理工場は形だけでもいいから運転していることにしておけ」ということにある。北朝鮮やイランの思惑に近いものがある。これでは原子力行政は国家権力そのものであり、首相の首を何回飛ばしても、容易に政策転換はできない事を覚悟しなければならない。
(つづく)

読書ノート 桑原武夫訳編 ディドロ・ダランベール編 「百科全書-序論および代表題目-」 岩波文庫

2011年11月22日 | 書評
フランス革命を準備した、フランス啓蒙思想家の集大成 第2回

 百科全書が生まれるまでの歴史を簡単に振り返っておこう。『百科全書』の出版は、イギリスのイーフレイム・チェンバーズによる『百科事典』 (1728年)に刺激され、企画された。当初この企画は、『百科事典』に目をつけたフランス在住のイギリス人ジョン・ミルズが、フランス語への翻訳を、パリの王室公認の出版業者であるアンドレ・ル・ブルトンのところへ持ち込んだことから始まったのだが、ル・ブルトンが王室発行の出版特認を自分のみの名前で取得したことから、ミルズとル・ブルトンの間で裁判沙汰がしばらく続き、その間に取得した特認は失効してしまう。1745年5月には、『百科全書』の原型は チェンバースの『百科事典』内の記述の誤りを正し、新たに発見された項目を追加する役割のみの編集者として、フランス科学アカデミーの地学部門会員であるジャン=ポール・ド・グワ・ド・マルヴが任命された。 しかし、出版社ル・ブルトンは費用がかかりすぎる事と、執筆者の知名度が低過ぎることを理由に強硬に反対し、マルヴは編集長を辞任してしまう。そのため、ル・ブルトンは編集長にディドロを任命したが、ディドロは再度、もっと包括的で翻訳ではなく、自分たちが執筆した『百科全書』を出版するようル・ブルトンらを説得した。ル・ブルトンは合意し、ディドロは、これは独力で出来る仕事ではない、集団の仕事だと考え、知人であり当時はるかに名声の高かったダランベールに共同編集者を依頼する。総執筆者は184人で、『百科全書』の執筆に参加した人々は通常「百科全書派」と呼ばれており、そのなかにはヴォルテール、モンテスキュー、ルソーなども含まれるが、むしろ必ずしも有名ではない知識人がその大半を占める。『百科全書』の意義は、そうした大規模な知識人の結集・共同作業を実現した点にもある。
(つづく)

文芸散歩  池田亀鑑校訂 「枕草子」 岩波文庫

2011年11月22日 | 書評
藤原道隆と中宮定子の全盛時代を回想する清少納言 第57回

[159] 「とくゆかしきもの・・・」 第1類
・早く知りたいものとして、巻き染め、むら濃、くくりものなどを染めている。
・人の子が産まれたので、男か女かを早く知りたい。位の高いひとは特にそうである。
・除目(人事)の早朝。よく知っている人が関係ないときでも早く知りたい。

[160] 「心もとなきもの・・・」 第1類
・じれったく思うものとして、急ぎの縫い物を人に頼んで、今か今かと覗き込んでいる心地。
・お産がおくれてその気色がない。
・遠いところから思う人の手紙が来て、かたい封を開ける気持ち。
・祭り見物に遅く出かけて、祭りが始まってようで行列の先頭の白い杖が見えてきたとき、近くに寄ることが出来ず車を降りて行きたい気持ち。
・知られたくない人がいるので、前の人と話をしている場面。
・いつ生まれるかと待っていた稚児が50,100日と成長し、行く末がじれったい。
・急ぎの物を縫うため、暗いところで針に糸を通すのができなくて、人に頼んでやってもらうのだが、それもはかどらなくていらいらしている気分。
・急ぎの用があるとき、あるところに出かけるので車を回すのを待っている気持ち。
・物見に出かけようとして、もう終りましたよといわれるのは口惜しい。
・子供生んだあとのこと(後産)の長いこと。
・物見や寺参りに共に行く人を迎えに行くと、すぐ乗らないで待たせるのはいらいらする。打っちゃって行きたい気持ちがする。
・人の歌の返事をするべきなのだがすぐに歌が出てこないのはいらいらする。女でも直にやり取りする歌は早くと思っているときに、駄作ができるの。
・気分が悪く不安な時、夜の明けるまですごくジリジリする。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「晩秋夜雨」

2011年11月22日 | 漢詩・自由詩
紅楓落葉没青苔     紅楓の落葉は 青苔に没し
 
永夜厳霜草木摧     永夜厳霜 草木摧く

窓外陰雲生雨意     窓外の陰雲 雨意を生じ
 
梧桐玉露作寒媒     梧桐の玉露 寒媒を作す


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(韻:十灰 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)


CD 今日の一枚 ダンツィ 「ファゴット協奏曲集」

2011年11月22日 | 音楽
ダンツィ 「ファゴット協奏曲集」
①ファゴット協奏曲第1番、第2番 ②ファゴット協奏曲ト短調、ハ長調
ファゴット:アルブレヒト・ホルダー 
ニコラ・バスケ指揮 ノイブランデンブルグ交響楽団
DDD 1999 NAXOS

ダンツィ(1763-1826)はドイツ生まれ、マンハイムオーケストラのチェリストとしてスタートした。古典派とロマン派の中間に位置する。バスーン(ファゴット)は低音の管楽器で地味な楽器で主役に出ることはすくない。