ブログ 「ごまめの歯軋り」

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瀬山士郎著 「数学 想像力の科学」 岩波科学ライブラリー(2014年)

2018年08月07日 | 書評
数、空間、無限を想像する力で見えてくる数学の魅力 第6回

2) 虚数はあるのかー数を想像する力

数とは何か、とても難しい問題です。小学生に数を教えるには具体物を使って、(自然数、正の整数)を数え上げる、足す、引く、順序を教えます。単位となる物差しを使って長さを、ハカリを使って重さを、そして体積をと、実数の概念を拡大してゆきます。具体的ななものを通して表される数のイメージです。実数には小数がつきものです。整数とつぎの整数の間には実数が連続して詰まっています。中学生になるとピタゴラスの定理を教わりますが、正方形の一辺を1とすると対角線は√2=1.41421356・・・となり、際限なく小数が続き(無限小数)、これを無理数と言います。分数(n/m 整数)で表される数は有理数と言い、小数以下はある塊が循環します。これは整数が1から9の有限個であるからです。無理数が現れることになると中学生の数学きらいが始まります。無理数を含む実数を定義しようとすると急に抽象的になるからです。無理数の親戚に「超越数」があります。円周率π(円周/直径)=3.1415926535・・・・が最も有名ですが、これにπという名をつけたのが18世紀の数学者オイラーです。人がその数値を全部知ることはは永遠にできない。自然数は最初の約束事として公理を与え、そこから分数、整数、有理数、無理数、実数を順に構成してゆく。ここに公理と数学記号と論理に支えられた数論が生まれたのです。無限に続く数値を引きずっていては展開が困難です。そこで√2とかπという数学記号が生まれました。これを演算に使用することで実用性が生まれた。実数は量を表す数として考え出された。実在の量を使って数を表現した物、それが数直線です。ものさし(スケール)を想定すればいいのです。数をイメージとして理解しているのであって、数そのものを把握しているわけではありません。要するに数が存在するとは、抽象的な概念としてあるのです。√2が正方形の対角線の長さとして理解いれば、その数そのものは最後まで把握できなくてもいいのです。それと同じように虚数が量ではない何かを表す数(記号)として存在しているとしても何の不思議もありません。虚数が表すものそれは運動です。自然数が個数をあらわし、実数が長さなどの量を表すとすれば、虚数は回転を伴った移動を表すための数だと考えると、虚数が表すものが存在する。数直線上で我々はマイナスという数が向きを伴った数と解釈することを知っています。実数aに-1を掛けると、-aになります。これを反数関係といいます-1を掛けるということは数直線上では0を原点として180度変えるということです。掛けると1になるa×(1/a)関係を逆数関係と呼びます。次にx~2=-1(二乗したら-1となる数)のxをiで表します。i^2=-1なるiを虚数単位と言います。いま(x,y)の2次元座標を考え、y軸を虚数軸とし座標上での虚数の動きを見てゆきます。x軸の単位1に虚数iを掛けると1×i=iとなり、虚数軸上で虚数単位となり、x軸上の単位1は90度回転して虚数軸の上にあります。つぎに虚数の虚数を掛けるとi×i=i^2=-1となり、さらに90度回転してx軸上の-1に移動します。虚数が虚数軸上に表されるようになると、実数と虚数の和や積を考えることもできます。虚数は16世紀の数学者カルダノによって3次方程式の解法に使われました。虚数はイマジナリーナンバー、つまり想像上の数という意味です。時数と虚数の和を複素数z=a+bi(a,bは実数)と呼びます。複素数は数直線上には存在しません。実数軸(x)と虚数軸(y)平面を複素数平面(ガウス平面)という。ここからオイラーの独壇場です。吉田武 著 「オイラーの贈り物」 (東海大学出版社)に詳しくオイラーの業績が示されているので、ここでは省略する。複素解析におけるオイラーの公式とは、e^iθ=cosθ+i*sinθに示される指数関数と三角関数を虚数が媒介して成り立つ等式をいう。 θ = π のとき、eiπ = -1 というオイラーの等式と呼ばれる式が得られる。この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、電気工学・物理学などであらわれる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者のリチャード・ファインマンはこの公式を評して「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい,そして驚くべき「方法」」だと述べている。ここにeは自然対数の底でe=2.71828182845904、円周率πと同じく超越数と呼ばれる。超越数の命名の理由は、整数を係数とする代数方程式の解にはならない数を言う。円周率についてはベートル・ベックマン 著 「πの歴史」 (ちくま学芸文庫)に詳しいので省略する。オイラーは数値計算に関しては、πの仕事を全て終らせたといわれる。

(つづく)