ブログ 「ごまめの歯軋り」

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瀬山士郎著 「数学 想像力の科学」 岩波科学ライブラリー(2014年)

2018年08月03日 | 書評
数、空間、無限を想像する力で見えてくる数学の魅力 第2回

序(その2)

それは概念をイメージ化できるということは、抽象概念を具象化することです。イメージするために数学が用意したのは数学記号です。数学の想像力を自由に取り扱うための言語、それが数学記号です。ここから人間の頭の中の抽象操作が、計算(演算)という数学記号の世界に移し替えられるのです。と同時に個々の数はなくなり、一般化された係数や未知数という記号になり、演算規則に沿って並べられると方程式となります。これで一般性を獲得できるのです。図形の性質も三角形△ABCだけでは演算も何もできませんが、線分の比例関係、角度などの演算で代数に移し替えることができます。数学におけるリアリティも想像力によるイメージの展開を可能sにします。数学は想像力を数学記号と論理で操りイメージを膨らませる世界共通言語です。経験や読書をして私たちの世界は広がってゆきますが、数学という乗り物に乗って非日常的な世界を旅行することが可能になります。その「さわり」の不思議な世界を体験することが本書の目標となります。いまなぜか数学が人々の好奇心の対象になってきています。人々は「衣食足りて礼節を知る」ように、心の豊かさを求め、物の消費よりも、知的な関心を満たしてくれる抽象的な価値観に憧れてるようです。美的な価値観や心の価値観が優先するようになりました。文学や哲学、美術といった抽象的な分野の延長線上に数学を位置付けているようです。と言っても専門の数学者を除いては、一般市民が簡単に数学に親しむことができるわけではありません。ギリシャ時代アリストテレスのアカデミアは哲学・政治学を教えたところですが、門には「幾何学を知らぬ者はいるべからず」という額があったそうです。数学は量子物理学、宇宙物理学・工学の基礎をなしていますので、いい加減な定義や約束だけでは意味を成しません。それなりに基礎の理解が必要です。数学史という教養学の一分野があります。各分野ごとに独自の進化を遂げているために、数学史も、数論、代数学、幾何学、関数論、解析学、数理論理学などの分野の歴史が存在します。「数学とは何か」という問いは皆様方が受けた数学教育に沿って考えてゆくと分かりやすい。まず数の学問、次に形の学問です。幾何学とは形をどのような観点で見るかについての学問と言えます。空間の形は、小さな近似的平面ではユークリッド幾何学が紀元前3世紀のギリシャでまず最初に発展しました。数学の方法論はユークリッドの原論で論理で構成する論証つまり証明と定理が確立しました。地球規模になると球面幾何学や射影幾何学となり平行線が交わります。非ユークリッド幾何学の分野です。さらの宇宙の大きさになると、歪んだ空間となり現在目覚ましく理解が進んでいる分野です。相対性理論は最先端の数学が必要です。工学の分野では微積分学と微分方程式論が大活躍をします。数学を考えるための方法論も客観的な研究の対象となりました。背理法、帰納法・演繹法、三段論法、数値解析法、集合論と数理論理学が20世紀の現代数学を生み出しました。ヒルベルトの公理主義数学やブルバキの構造主義数学がそれです。本書では数学の全分野を扱うわけではなく、数、形と空間、無限と位相について見てゆきましょう。

(つづく)