ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 本間 龍著 「原発プロパガンダ」 〈岩波新書2016年4月)

2017年07月23日 | 書評
電力会社と政府による原発推進宣伝の国民洗脳テクニックの数々 第9回 最終回

5) 2013年以降の原発プロパガンダ (その2)

 3.11事故以来、政府は「安全・安心」を言い出した。原発は決して安全でないことが分かったので、頼るべきは国民の非常にあいまいな「安心」意識に訴えようとするものです。安全対策や安全でるという基準などを曖昧なままにして、どうぞ安心してくださいという矛盾した訴求であり、もともと本質的に合理的ではない論理です。論理より情緒をターゲットにしたようです。ですからその広告内容も、およそ根拠のないことを平気で言います。福島県内のKFB福島放送で放映されている「なすびのギモン」では、汚染土の仮置き場で「4メートル離れれば、周辺空間と同じになります」と言いながら、線量グラフは0.5μシーベルより下がっていません。除染対象地区の多くが0.23μシーベルトを基準にしていることを忘れたかのようです。何とか今の福島は大丈夫ですというイメージを植え付けようとしています。「ダイジョウブだから大丈夫」という論理を超えた説得です。まるで宗教です。2014年8月17日に、朝日・読売・産経・日経の全国紙と福島の福島民報と民友に掲載された「放射線についての正しい知識を」という政府広告が1頁全面で掲載された。東大病院放射線科の中川恵一教授が「福島では小児甲状腺がんはない」とか「放射線に慎重になりすぎると発がんリスクを高める」という持論?を述べている。この広告費用は約1億円で取り扱い窓口は博報堂であった。この政府広告は前の年に発生した「美味しんぼ」の鼻血表現騒動を受けて内閣府予算で作られた。驚くような医者の非常識が露見された。子供の甲状腺がんが増えつつあることを無視し、気にするとがんになるというあきれた逆襲をする。医者の片隅にも置けない御用学者で、大体東大はこのような御用学者の養成場なのだろう。現在政府は、事故の深刻さを伝える報道や発言を「風評だ」と言って退け、「事故による健康被害はおきていない」ことを信用させようと躍起になっている。2014年度の政府広報予算は65億円と前年度44億円を大幅に上回った。事故前の各省庁の広報予算は総額350億円で政府広報予算は90億円であったが、民主党政権時代に大幅にカットされ、それが今また復活している。福島県を中心に実施されている「放射線被ばくリスクコミュニケーション」事業は、2015年度に7億8100万円を計上した。環境省を中心として各地でリスクコミュニケーションのセミナーを実施している。2015年3月千葉県で行われた環境省主催の「放射線の健康影響に関する住民セミナー」では、①身の回りの放射線と自己由来の被曝、②福島第1原発事故後の健康リスクを考えるという内容であった。環境省の「放射線健康不安の軽減に資する人材育成事業と住民参加型プログラムの開発」から出る資金で運営されている。このプログラムは原子力ムラの原子力コンサルタント会社が作成した。論点はもともと自然界にも放射線はあるし、医用放射線被ばくもあり、福島原発事故はそんなに心配することではないと強調するものだ。この考えには積算被曝線量が足し算で増加するという点を無視し、かつ放射線リスクは閾値がないという国際学説も無視している。リスクを否定するリスク論はそもそもあり得ない。まるでリスクコミュニケーションを知らない人がやっているようだ。2013年に「日本原子力産業協会」に広告代理店である博報堂とADKが相次いで加盟したことは重要である。電通はもともと加盟していたが博報堂も原子力ムラの一員になったのだ。一方福島県庁と福島民報は同会を脱退した。復興予算に電通は深く食い込んでいる。2012年度の環境省からの電通の受注額は40億円近いし、2013年度「風評被害対策」には各省から45もの事業に予算がつけられた。だが原発事故による被害を風評だと言って切り捨てる姿勢は、事故の本質を隠ぺいする意図が見え見えで、原発再稼働を狙う安倍政権の世論誘導策である。その再稼働世論形成に読売新聞は一役買っており、2014年7月5日に掲載された10段広告では同社特別編集委員の橋本五郎氏とタレント春香クリスティーンの対談型で「エネルギーベストミクスを考えよう」、阻止T2015円6月14日には橋本五郎氏と電事連の八木誠氏による「何故原子力が必要なのか」と題した15段広告を掲載した。さらに2016年2月28日にはカラー版15段広告「資源なき経済大国、日本のエネルギー」と題して、評論家勝間加代子氏、元知事増田寛也氏、タレント優木まゆみ氏を交え読売新聞橋本五郎氏が司会する形の対談形式となっていた。全国版の1面広告の広告費は5000万円近い。原発再稼働をめざす電力会社は2015年になって一斉に「安全PR」に力を入れた。東電を除く九州電力、関西電力、東北電力、中部電力らはメディアへの出稿を始め、仲でも中部電力は突出しており、2015年12月21日静岡新聞にカラー版15段広告「私は、浜岡原子力発電所で働いています」を掲載した。さらに勝間田加代子氏らを使った[女性エネルギー考」7段広告シリーズを展開している。恐らく静岡新聞の広告掲載料は1回500万円、シリーズものを入れると合計7回で約3500万円となる。年間約1億円の広告掲載料を中部電力から得ていることにある。中部電力は、静岡新聞以外の原発広告量もいれると年間で約2億円をこえる。さらの中部電力は電力自由化のための企業イメージ広告『中部電力はじめる部」の制作・掲載・放映料を含めると、年間広告費は4億円を超えるだろうとされる。広告の説得力(効果)はどうしてもその出稿回数に比例するので、中部電力としても、まだまだ中途半端な広告出費である。メディアを黙らすか、自粛させるにはとうてい少ないと言わざるを得ないが、それでも地方ローカル紙静岡新聞の2014年の売り上げが239億円(利益10億円)にとっては大切なお客様となる。現在のプロパガンダの中心が「風評被害の撲滅」とか「震災からの復興」では、政府が主体となったリスクコミュニケーションとなり、受益者も曖昧でいまいち力が入らないというのが実情である。反対に原発プロパガンダに対するリテラシーはどうあるべきを考えると、第1には目の前の二ユースを軽々と信用しないで、自分の頭で考えることが重要だる。第2にプロパガンダ媒体以外に、ウエブ、ツイッターなどを活用して独立系メディアの情報を知ることである。第3に大事なことは、原子力ムラがスポンサーしている広告に虚偽をみつけたら、掲載メディアに抗議の声を届けることだという。資金を持っている政府は大企業は凄まじい量のPRで国民意識を麻痺させようとする。それに抗う第1歩は、個人の意識をしっかり持つことである。

(完)