ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 矢部宏冶著 「日本はなぜ、基地と原発を止められないのか」 (集英社インターナショナル)

2017年07月10日 | 書評
憲法9条に外国軍基地撤去を謳うことから戦後を再スタートしよう 第7回

3) 安保村の謎1ー敗戦そして日本国憲法(その2)

 1946年元旦の日に昭和天皇が「人間宣言」を出します。これも最初は英文でした(GHQが草案を書いた)。日本の改造計画を担ったのは民生局GHQと民間情報境域局CIEです。CIEは1945年12月に「国家神道廃止令」を出しました。天皇は神だとする狂信的軍事国家を破壊するためです。日本国憲法の場合と同じようにこの人間宣言は天皇の立場と引き換えにしたものです。これを出せば天皇の立場だけは守ってやるということです。それはアメリカの占領政策を容易にするバーター取引です。昭和天皇の人間宣言(新日本建設に関する詔書)の全文を次に記します。前部と後部に分けます。後部のアンダーラインの部分には天皇の神格を否定した英文(毎日新聞2006年元旦より)が存在します。
(前)茲ニ新年ヲ迎フ。顧ミレバ明治天皇明治ノ初國是トシテ五箇条ノ御誓文ヲ下シ給ヘリ。曰ク、
1.廣ク會議ヲ興シ萬機公論ニ決スヘシ
2.上下心ヲ一ニシテ盛ニ經綸ヲ行フヘシ
3.官武一途庶民ニ至ル迄各其志ヲ遂ケ人心ヲシテ倦マサラシメン事ヲ要ス
4.舊來ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ
5.知識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ
叡旨公明正大、又何ヲカ加ヘン。朕ハ茲ニ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス。須ラク此ノ御趣旨ニ則リ、舊來ノ陋習ヲ去リ、民意ヲ暢達シ、官民擧ゲテ平和主義ニ徹シ、教養豐カニ文化ヲ築キ、以テ民生ノ向上ヲ圖リ、新日本ヲ建設スベシ。 大小都市ノ蒙リタル戰禍、罹災者ノ難苦、産業ノ停頓、食糧ノ不足、失業者増加ノ趨勢等ハ眞ニ心ヲ痛マシムルモノナリ。然リト雖モ、我國民ガ現在ノ試煉ニ直面シ、旦徹頭徹尾文明ヲ平和ニ求ムルノ決意固ク、克ク其ノ結束ヲ全ウセバ、獨リ我國ノミナラズ全人類ノ爲ニ輝カシキ前途ノ展開セラルルコトヲ疑ハズ。夫レ家ヲ愛スル心ト國ヲ愛スル心トハ我國ニ於テ特ニ熱烈ナルヲ見ル。今ヤ實ニ此ノ心ヲ擴充シ、人類愛ガ完成ニ向ヒ、献身的努力ヲ致スベキノ秋ナリ。惟フニ長キニ亘レル戰爭ノ敗北ニ終リタル結果、我國民ハ動モスレバ焦躁ニ流レ、失意ノ淵ニ沈淪セントスルノ傾キアリ。詭激ノ風漸ヲ長ジテ道義ノ念頗ル衰ヘ、爲ニ思想混亂ノ兆アルハ洵ニ深憂ニ堪ヘズ。
(後)然レドモ朕ハ爾等國民ト共ニ在リ、當ニ利害ヲ同ジクシ休戚ヲ分タント欲ス。朕ト爾等國民トノ間ノ組帶ハ、終止相互ノ信頼ト敬愛ニ依リテ結バレ、單ナル神話ト傳説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(アキツミカミ)トシ旦日本國民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル觀念ニ基クモノニ非ズ。朕ノ政府ハ國民ノ試煉ト苦難トヲ緩和センガ爲、アラユル施策ト經營トニ萬全ノ方途ヲ講ズベシ。同時ニ朕ハ我國民ガ時難ニ蹶起シ、當面ノ困苦克服ノ爲ニ、又産業及文運振興ノ爲ニ勇徃センコトヲ希念ス。我國民ガ其ノ公民生活ニ於テ團結シ、相倚リ相扶ケ、寛容相許スノ気風ヲ作興スルニ於テハ能ク我至高ノ傳統ニ恥ヂザル眞價ヲ發揮スルニ至ラン。斯ノ如キハ實ニ我國民ガ人類ノ福祉ト向上トノ爲、絶大ナル貢獻ヲ爲ス所以ナルヲ疑ハザルナリ。 一年ノ計ハ年頭ニ在リ。朕ハ朕ノ信頼スル國民ガ朕ト其ノ心ヲ一ニシテ自ラ奮ヒ自ラ勵マシ、以テ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ。 
神格否定の部分に、昭和天皇の判断でその前部に「五か条の御誓文」を加えて、戦争には負けたが、又心を一つにして新しい日本を作ってゆこうというメッセージにアレンジして発表した。GHQに言われてこの人間宣言を書いたのではなく、新年に当たって新日本建設に関する詔書を書いたという形で、天皇として国家としてのプライドを保っている。ここから日本人の歴史観が形成された論理があります。それは司馬遼太郎の描いたフィクションの歴史観に現れています。明治時代は立憲主義に基づいた正しい発展の時期だった→昭和初期はに軍部が暴走し、突然変な時代になった→戦後は本来の民主主義に戻った正しい時代といったロジックです。このロジックは人間宣言がGHQ の指示に基づいていることを知りながら、昔ながらのフィクション(五か条のご誓文)でうまくやって行けるという二重構造と共通しています。

(つづく)