ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 日野行介著 「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」 (岩波新書2013年)

2014年06月16日 | 書評
福島原発事故の放射線被ばく健康管理調査で、福島県と専門家の仕組んだストーリー作り 第11回

⑧ 甲状腺検査結果
 
 日野記者は2013年1月より子供を対象とした甲状腺検査について本格的な取材を開始したという。福島県は県民健康管理調査で18歳未満の子供36万人を対象とした甲状腺検査を実施している。福島県が甲状腺検査を発表したのは2011年6月18日の第2回本会議の後に行われた記者会見であった。第2階本会合では内部被ばく検査をどこまで実施するかの議論に終始し甲状腺検査は検討していない。第3回検討委員会秘密会で実施要領など具体的な検査計画が明らかになった。そして2011年10月9日から、県立医大で浪江町、飯館村、川俣町の子供から甲状腺検査(1次)が始まった。11年度は福島原発に近い13町村、12年度は福島市、郡山市など中通りの12市町村を、13年度は会津若松市などを実施する計画であった。2012年10月10日福島県総務部が集めた内部調査の全資料の公開を請求した。膨大な量なので11月26日県庁で閲覧した。県立医大の鈴木教授が秘密会に提出した文書が多い。その中で鈴木氏は甲状腺検査の目的と実施時期をこう記している。「チェルノブイリ事故で約6000人がの子供が甲状腺がんになり、5000人の子供が手術をした。死亡例は0.6%と低く、大人の甲状腺ガンに比べると再発は多いものの余後は良好である。チェルノブイリ事故では4.5年後から小児甲状腺ガンがはっせいしたので、初年度はバックグランドデーターとして検討し、3年後から本格実施する」、「検査を実施してがんが見つかった場合、自然発生ガン(発生確率100万人に2人)なのか放射線誘発ガンなのか因果関係を判断することは難しく、患者発生と被ばく線量を見て判断するしかない」福島県の1次検査では、子供と保護者には後日ランク付けの判定結果と説明資料を郵送するだけで、医者の所見に相当する検査レポートや検査データーは保護者が要求しても手渡さない。保護者を憤慨させる事件がおきた。2012年1月山下副学長と鈴木教授の連名で日本甲状腺学界など7学会に送った要望書である。「A2判定の保護者からの問い合わせには、自覚症状が出ない限り追加の検査は必要ないと十分説明して頂きたい」という要望書である。これにたして「セカンドオピニオンを封じる気か」とか「ほかの医者に診察を拒否するよう求める」など強い批判が出た。県立医大は2012年10月になって要望書を撤回し「他の医療機関での検査を否定するものではない」という釈明文を出した。1次検査の判定は鈴木教授が委員長をする「甲状腺検査専門委員会」で毎週判定委員会を開いている。大変な作業なので結節が見つかったランクA2とBを中心に見てたが、2012年7月31日より開示請求を受けた症例は判定委員会でチェックしている。福島県立医大では2012年11月から県内各地で説明会を開いた。しかし保護者の見方は誤りだとか説教する考えが前提にあり、双方向のリスクコミュニケーションにはなっていない。2013年2月13日の第10回検討委員会で、さらに2人の甲状腺がん患者と7人の疑わしい例が見つかったと、鈴木教授から公表された。鈴木教授は記者会見で、場所、被ばく線量、年齢性別など一切は個人情報だと明らかにしなかった。この県立医大の検査体制での検査精度はどの程度なのだろうか。見落とし、過小評価、擬陽性はないのだろうか心配である。県立医大は当初3年は「スクリーニング調査」と位置付けている。ある保護者が子供がA2と判定されしこりはないとチェックされたので心配になり、別の医療機関で検査してもらうと7ミリの結節があり基準でいうとBに相当し、3か月後に再検査という例もある。鈴木教授は甲状腺検査にあたっては「甲状腺超音波診断マニュアル」をもとにして独自の検査マニュアルを作ったという。検査ポイントは4項に過ぎず、オミットされた検査項目も多い。これ以上は専門家の領域であるが、鈴木教授は「すごいスピードが要求されているので簡潔にしている。丁寧にみてゆくとすごい時間がかかる」という。恐ろしいスピードでフィルタリングされているようだ。これでは親が心配になるのも無理がない。36万人の検査期間の短縮が要求されれば医者は手を抜くようである。

(つづく)