ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 日野行介著 「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」 (岩波新書2013年)

2014年06月12日 | 書評
福島原発事故の放射線被ばく健康管理調査で、福島県と専門家の仕組んだストーリー作り 第7回

④ 甲状腺がん発見(第8回検討員会)と毎日新聞記事掲載

 2012年9月11日第8回検討員会の秘密会が午後1時から福島県庁で、そして本会合が午後2時から県庁隣の杉妻会館で行われた。そして秘密会を終えて委員方が三々五々 杉妻会館に向かう後姿を毎日新聞記者によって撮影された。秘密会は第8回から新たに委員に加わる環境省の佐藤部長と日本学術会議の春日副会長の初顔合わせとなった。そして鈴木教授が2人の甲状腺がん患者が見つかったことを報告した。これをどう評価するかを委員間ですり合わせておくことが第8回秘密会の主要な目的であった。甲状腺検査とは甲状腺エコーを中て、首に嚢胞(液体のたまった袋)や結節(しこり)の大きさから4段階に分ける。A1は嚢胞や結節がない、A2は嚢胞が20ミリ以下で結節が5ミリ以下、Bは20ミリ以上の嚢胞や5ミリ以上の結節があるもの、Cは甲状腺御状態からしてただちに2次検査を必要とするもので、BとCは2次検査を行い、超音波検査・血液検査。細胞診などで悪性ガンの有無を確かめる。山下副学長や鈴木教授は「チェルノブイリでは事故4-5年後から患者の発生があった」として、事故後7か月で発生した甲状腺がんはベースラインに過ぎず、現時点の検査は保護者の糞を払しょくすることが目的である」と説明してきた。また鈴木教授は「小児性甲状腺がんは100万人に1人程度発生する珍しい病気である」と主張していた。つまり「甲状腺ガンが見つかっても、それは原発事故の被ばくの影響ではない」という結論が最初から用意されていた。ついで検査体制の整備の遅れから2j検査が進まない状況をどう説明するかである。実質B判定でも2次検査が行われていなかった。こうしてやらせ質問やセリフ分担ばかりの根回しが行われた。秘密会によって委員の間に一つのシナリオが共有されたのである。本会議は午後2時から始まった。長崎大学の大津教授進捗状況を報告する。数分の質疑で終わった。次に鈴木教授が甲状腺検査を報告した。2012年8月までに4万5000人の検査が終了し、11年度に検査を受けた3万8114人のうちB判定であった186人の状況を報告した。2次検査を受けた60人のうち38人が終了し、1人が甲状腺ガンであったと報告した。どう2次検査を加速するかという質問に、鈴木教授は2次検査をいままでの2倍のスピードで改善すると答えた。そして甲状腺がん患者について鈴木教授はシナリオ通りに「今回見つかった患者は被ばくの影響ではない」と断言した。国民や県民がこの検討委員会に期待するものは、放射線の専門家が「県民健康管理調査」が適正に行われているかどうかを確認し、データから読み取れる健康への影響を公正な態度で検討評価することである。深刻なことは、秘密会で先に結論を決め、とにかく穏当な形で住民に説明することばかりに腐心している検討委員会の姿である。2012年9月27日福島県庁を訪問し、事実関係を確認するため日野記者は福島県健康管理調査室の小谷主幹に直接取材をした。彼は秘密会(準備会)を「顔合わせ会」といい、議事録はないとか記憶にないとかいって取り合わなかったが、1時間後再開すると彼は毎回事前に資料説明会をやっているといい議事録はないといった。県の費用で委員の出張旅費を払ってていることは容易に証拠はかつかめるので、秘密会は許されるものではないことを認め、今後はもうしませんと言明した。小谷主幹が事実関係を認めたので、福島県立医大の山下副学長に面会を求めたが拒否され、代って広報担当の松井特命教授が電話で回答を読み上げた。あくまで秘密会を否定し、内部会議に位置づけで議事録がないのは当然だという。ただしそれが不信感を与えるのならやめることに異存はないという。こうして直接取材を終えて秘密会の確信を得た日野記者は1012年10月3日毎日新聞朝刊1面と社会面で「福島健康管理調査で秘密会」「県、見解のすり合わせ」、「本会合のシナリオ作ると大きく報道した。

(つづく)