ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 日野行介著 「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」 岩波新書 (2013年)

2014年06月10日 | 書評
福島原発事故の放射線被ばく健康管理調査で、福島県と専門家の仕組んだストーリー作り 第5回

② 福島県「県民健康管理調査」準備会と検討委員会発足

 国は2011年3月末から文科省を中心に、住民被ばく調査について検討を始め、福島県も4月中旬に検討を開始し、馬場地域医療課長が5月1日に県立医大に入り、2011年3月19日から県の福島県放射線健康リスク管理アドバイザーとなって福島県に入っていた長崎大学山下教授(福島県立医大副学長に就任するは同年7月から)と打ち合わせを行っている。公開資料によると山下教授は、県による調査の一本化、県民200万人の健康管理、低線量被ばくの研究拠点化、予算は国に要求、専門家を集めた検討員会の設置、メンバーは山下教授が根回しするという条件で、山下教授の呼びかけで5月13日県立医大で非公開の「検討員会準備会」が開かれた。このように福島県と県立医大が調査の中心となり、国の関係省庁と機関が支援する形になった。調査方法と結果については検討員会という評価組織が行うのだが、調査実施組織の長と評価組織の座長が同一人物という組織原則に反することをやってしまったのは、県側があまりに急いだのでほとんど山下教授に丸投げをしたこと、そして公開しないでやるということで齟齬を突かれる心配がないと踏んだためであろう。文科省作成の議事録によると準備会の冒頭に山下座長は「事前に情報が漏れたことは大変残念」と、最初から秘密主義でやる姿勢で委員全員にクギを刺している。会議では「部外秘」の判を押した「実施計画書案」が配られた。放影研の実施している成人健康調査をベースにして県立医大の安村教授が取りまとめたようだ。後で知ることになるのだが、第1検討員会が2011年5月27日に災害対策本部のあった県自治会館で非公開で行われ、準備会がウラ会議とすれば検討委員会はオモテ会議になる。オモテといっても非公開であった。6月18日に第2回検討委員会が非公開で開催され、県民健康管理調査の具体的な内容が固まったとされる。委員会で議論され「県民健康管理調査の概要」が公表された。調査目的は「原発事故にかかわる県民の不安の解消、長期にわたる県民の健康管理による安全・安心の確保」となっていた。これは後日(2013年5月24日)「被害がないことを前提としている」と批判され、目的から「不安の解消」は削除されることになった。では肝腎の調査内容について検討しよう。県立医大の実施原案より縮小され後退する実施内容となった。ホールボディカウンターWBCは高線量地区の限られた地区での先行調査の中で行うことになり、全対象者の1/10という原案は捨てられた。先行調査地区の住民は2万8000人で、尿検査とWBcで内部暴露線量を測定するのは100人程度に過ぎない。調査は「基本調査」(アンケート紙による行動記録をもとに外部被ばく線量を推定する)と「詳細調査」の2段階からなる。「詳細調査」には①18歳以下の子供36万人に超音波「甲状腺検査」、②避難地域の住民と基本調査から必要と判断された人を対象として、血液検査を上乗せする「健康診査」、③「心の健康・生活調査」、④「妊産婦調査」である。これはIAEAが認めた低線量被ばくにょる健康被害は小児甲状腺がんだけであるという予見ン基づいて甲状腺検査しか行わないという制約をしたことである。白血病の検査は必要を認めた人だけに行う血液検査で、その基準さえ明らかではない。一定の被ばく線量を超えたと推定される人(最高37ミリシ-ベルトの人がいた)の健康診査基準は議論されなかった。山下議長は「急いで決める必要はない」と先送りし、基準は決められないままになっている。

(つづく)