相澤三郎中佐
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相澤中佐の片影
( 二 ) 中佐の片影
其五 今泉富与 嬢 ( 慶応大學看護婦 )
相澤様のやうなお方に
お側近くお仕へ出來ましたことはほんたうに嬉しく、一生の光榮であり、
又今後の力でもあると存じて居ります。
御病床にあらせられながら、辱けなき事には存じますが、
大君のため、
御國のための御事より
他にあらせられなかった相澤様が只今の御心の内、御察し申上げられます。
よく御重態でいらせられし頃、
「 今泉、私はベッドの上で死にたくない。
戰地で死ぬのだから、お前もその氣でしっかりやってくれ 」
と仰せになりました。
私も不束乍ら神に祈誓をなし、どうしても御恢復あらせられる様にと御仕へ致しました。
御食事を遊ばすにも決して神に御挨拶なくしては召あがられしことなく、
君の爲めに御働きになる 武勇の士であり乍ら、
數にも入らぬ私共への御やさしき御言葉、誠に誠に今にも頂きし御言葉は生活の力でございます。
かかる義勇の御方なればこそ、
神様が相澤様を御選びになられましたのかも存じませんが、
世上の風評を御あび遊ばさるる御心中如何ばかりで居らせらるるかを御推察申上げます。
唯々この上は神に祈り居る私で御座ゐます。
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二 ・二六事件秘録 ( 一 ) から