「古ヨリ 狡兎死而走狗烹 吾人ハ即走狗歟 」
ずる賢い兎 ( 陸軍にとっての敵 )が弱まれば、
それを追いかけた猟犬 ( 青年将校運動 ) は、必要なくなり、
煮て食べられる運命となった
村中孝次
いろいろと娑婆からここに來るまで戰ってきましたが、
今日になって過去一切を靜かに反省して考えて見ますと、
結局、私達は陸軍というよりも軍の一部の人々におどらされてきたことでした。
彼等の道具に、ていよく使われてきたというのが正しいのかも知れません
もちろん、私達個々の意思では、あくまでも維新運動に挺身してきたのでしたが、
この私達の純眞な維新運動が、上手に此等一部の軍人に利用されていました。
今度の事件もまたその例外ではありません。
彼等はわれわれの蹶起に對して死の極刑を以て臨みながら、しかも他面、事態を自己の野望のために利用しています
私達はとうとう最後まで完全に彼等からしてやられていました。
私達は粛軍のために闘ってきました。
陸軍を維新化するためにはどうしても軍における不純分子を一掃して、擧軍一體の維新態勢にもって來なくてはなりません。
われわれの努力はこれに集中されました。
粛軍に關する意見書のごときも全くこの意圖に出たものでしたが、
ただ、返ってきたものはわれわれへの彈壓だけでした。
そこで私達は立ち上がりました。
維新は先ず陸軍から斷行させるべきであったからです。
幕僚ファッショの覆滅ふくめつこそわれわれ必死の念願でした。
だが、この幕僚ファッショに、今度もまた、してやられてしまいました。
これを思うとこの憤りはわれわれは死んでも消えないでしょう。
われわれは必ず殺されるでしょう。いや、いさぎよく死んで行きます。
ただ、心殘りなのは、
われわれが、彼等幕僚達、いやその首脳部も含めて、
それらの人々に利用され、彼等の政治上の道具に使われていたことです。
彼等こそ陸軍を破壊し國を滅ぼすものであることを信じて疑いません。
・・・村中孝次