私は部下を連れて小隊長の許に行くと、
高橋少尉、は忙しそうに亦改めて小隊を編成し二列に並列させた。
「教官殿、何処へ行くのですか」 と問ふと
「 第二次渡辺教育総監を襲撃に行くのだ 」
と元気で緊張し切った口調で言った。
私も連れて行って下さいと願ふと、
もう編成が終わつたから駄目だと言ふので、
でも と言ふと
兵隊までが今度は自分達の番だからと言ひ
何回も教官に願ったが駄目だつた。
吾々は遠い処で警戒だけだつたので今度は一つ手柄を立てようと思ってのことなのだが、
丁度この時貨物軍用自動車が三台程来た。
之は市川の野重の自動車だ。
高橋少尉、蛭田、長瀬、梶間、木部等二十人程が自動車に分乗して行く。
・・・私も連れて行って下さい
坂井部隊
目次
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・ 齋藤實内大臣私邸 「 襲撃は成功した 」
・ お前たちは一人一人が昭和維新の志士であるゾ!」
・ 「 私も聯れて行って下さいと願ふ 」
・ 安田少尉 「 天誅國賊 」
・ 麥屋淸濟少尉・挫折した昭和維新 1 『 私は無期禁錮 』
・ 麥屋淸濟少尉・挫折した昭和維新 2 『 リストにある人物が現れたら即時射殺せよ 』
・ 「 皆御苦勞だつた、御機嫌よう 」
「兵に告ぐ」
勅命が發せられたのである。
既に天皇陛下の御命令が發せられたのである。
お前達は上官の命令を正しいものと信じて絶對服從をして、
誠心誠意活動して來たのであろうが、お前達の上官のした行爲は間違ってゐたのである。
既に敕命天皇陛下の御命令によって
お前達は皆原隊に復歸せよと仰せられたのである。
此上お前達が飽くまでも抵抗したならば、
それは敕命に反抗することとなり逆賊とならなければならない。
正しいことをしてゐると信じてゐたのに、
それが間違って居ったと知ったならば、
徒らに今迄の行がゝりや、義理上からいつまでも反抗的態度をとって
天皇陛下にそむき奉り、
逆賊としての汚名を永久に受ける樣なことがあってはならない。
今からでも決して遲くはないから
直ちに抵抗をやめて軍旗の下に復歸する樣にせよ。
そうしたら今迄の罪も許されるのである。
お前達の父兄は勿論のこと、国民全体もそれを
心から祈ってゐるのである。
速かに現在の位置を棄てゝ歸って來い。
戒嚴司令官 香椎中將
私達は只々陛下の御為の行動であつて
私達の考へが上に通じないと言ふことは返す返すも残念です
・・・長瀬一 伍長