(写真) 「春の伊良湖岬」(再録です)
4日前に私の本HPに掲げた、表紙のイラスト風景に関連し、もう一度ふるさと伊良湖岬の話題を取り上げます。いや今回は、三島由紀夫と絡めてしたためてみました。
上のイラスト風景を改めてご覧下さい。伊良湖水道の真中に浮かぶ島があります。神島です。神島(地元ではその形から亀島ともいう)は、三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台となった歌島といった方が納得する人が多いかも知れません。
「初枝!」と叫ぶ信治に、「その火を飛び越してこい」と求める初枝。この初枝を映画では吉永小百合や山口百恵らが演じました。陽光と生命の輝くギリシャ神話のようだと絶賛された、三島由紀夫の作品の名場面です。しかしそのまばゆいばかりの人間讃歌をしたはずの作家三島由紀夫は、後日、肉体に関して幾つもの衝撃を世間に与えて、死んでいきました。
一つは、1970年の市ヶ谷の、自衛隊クーデター未遂事件での割腹自殺です。いや、もっといえば「フライデー」に載った、介錯をされた後の、胴体のそばに置かれた生首の威圧性です。生命の礼賛などといった青春小説風の表現をあざ笑うかのような、私たちと社会に対する嗜虐的な問いかけがそこにはありました。
もう一つは、4年前に横尾忠則や石原慎太郎知事らの酒の席に加わった時、その彼らから私が直接に聞いた三島由紀夫の異形の姿です。三島と極めて親交の深い人たちの会話であるだけに、その内容はかなりリアリスティックであったといえます。
「石原さん、ひょっとして三島さんはあなたに嫉妬していたのではないですか?」
「そう思う。ヨットやサッカーなど当たり前にスポーツに入り込んでいた僕に、虚弱な彼は動揺したと思う。だから、無理してボディビルかなんかで肉体を改造しようとした。その結果が、あの使い物にならないハリボテのような肉体だったんだ」。
「そういえば、丸山明宏と三島由紀夫はデキていたんですかね?」
「いや、それはない。最初は『あなたの背後霊に2・26事件の某大尉がいる』等といわれ、丸山明宏に傾倒していく。がやがて煩わしくなって敬遠した。彼は同性愛者だったけれど、ホモであることを恥じていた」。
ここ数年、故郷に帰り、伊良湖の浜辺から神島を眺めるとき、私には三島由紀夫に関するこのやりとりがどうしても頭に浮かぶのです。そして彼が、自然物たる肉体さえも、「虚構」という世界の中での道具として演出したことを改めて思い知るのです。「虚構」こそ真実であり、あるいは「虚構」こそ真実あらしめたいとする三島の願望。天才作家の天才作家たる所以と言いながら、自壊という言葉を思わず想起してしまうというものです。潮騒は、時に人の心を小さく騒がせるようです。
とくに丸山明宏とのくだりはなかなか面白そう。こんどゆっくり聞かせてください(笑)。
市ヶ谷での割腹自殺のことはよく覚えています。昭和45年11月ですよね。私は高校二年生でした。ちなみに、フライデーはまだ創刊されていません。確かあの衝撃的な写真は新聞に掲載されたのでは?