9月11日

 パスカル・キニャール/高橋啓訳『アプロネニア・アウィティアの柘植の板』を再読した。
 
 表題作は、ローマの貴婦人の随想集(と、歴史事情について)
 ローマ帝国終焉を前にした貴族たちの頽廃、処刑や略奪に絶えない時流に対するアプロネニアの優雅な無関心に、なぜか惹かれてしまう。貴婦人の矜恃なのか、ただ疎ましさから目を背けていただけなのか
 忍びよる死への不安を少しでも忘れている為に、日々の記録を事細かく残すことで防波堤のようにしていた…というキニャールの視点に、どきっとした。虚無に向かって踏みとどまろうとする、足場としての日記(それは脆いものでしかなく、それでも書かずにはいられない)

 “とても長いもののうちに幼年期を入れよう。/柘植の木立。/(略)/老い。/海亀。/死んだ人の死。/不眠。/烏。/長続きしないもののうちに、不死の神々と非の打ちどころのない作品を入れてもよかったのでは。/長続きしないものから、愛は外すべきだ。”

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