別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

大丈夫!!

2006-03-31 | 向き合う

 病室までみえた訪問看護ステーションのおふたりに 母は起きあがってきちんと挨拶した。

 「まあ! 表情もしっかりしているし… お元気ですね」と蛙に耳打ちする。 驚いたようだ。
誇らしい! 91と聞けば、かなりのおばあさん。しかし話はきちんと通じる。
 認知症は無いのだから。 

 「きょう… 先生に 家族は退院するって言ってますが こんなんで大丈夫ですかって聞いたんです。 そしたら、だいじょうぶ! 大丈夫って…」と お客の顔をみつめながら微笑んだ。
 手にした資料を見ながら、トイレも一人でいかれますね。おふろも…。
 すると母は ズボンの裾をひきあげ脛を出し、一.二、一.二と屈伸して見せた。
 「あら! それなら 大丈夫!!」
 黄色いカーテン仕切りの部屋に みんなの笑い声が響いた。 不安が消えていく。

 心づよい助っ人さん これからどうぞよろしくおねがいします。蛙も頭をさげました。
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しあわせね

2006-03-30 | 犬のブロンコ・ダン
 
  しゃしんに写った 3人ぐみ

    どのこが rugby… だろうね

  うちにくる前は 

    くまちゃん て呼ばれていたんだって

   見てるだけで しあわせね

    
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堰のながれ

2006-03-29 | 向き合う

きのうは 『いえに帰るのは 不安…』 と答えた。
 毎日、それとなく、どのように話したらいいのか迷いながら続いていた。
手術もない。 改善したと思えないのに何を言うかと緊張する。 毎度の話に耳を貸さなかった。

 主治医の薦めもあるし、自宅でようすをみてみよう。これまでどおり痛みもなく過ごせるようにできる。家で別の先生に診てもらう、もっと快適になるよう訪問看護で、好きなもの食べて。 ハイビジョン見ようね と誘う。

「今言ったこと分かるよね 退院するのよ」 『わかった』 きょうは簡単に応じた。 『TV見てたら 老舗の和菓子が出てきて美味しそうなの ぜんぶ食べたいって思った』 「いろんな花も咲くよ いっしょに見よう」
 
 堰き止めていた水が、急に流れだした。 思うことがあったのか。
庭で山吹が咲いていた。 母のへやの目の前で、たった一輪だけ。 撮ってきたのをモニターで見せた。
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咲き初めし

2006-03-27 | 向き合う

 市が指定する居宅介護支援事業者のなかからたった一カ所を選ぶ。こちらの意にかなう所を捜すのは思いのほか大変だった。ここぞと思うところに電話をし面談をかさね、やっと探しあてた。

 理想のかたちができそうだ。
本日、クリニックのN医師に会う。 会社を抜けだし、1時間以上電車に揺られ弟も臨んだ。 

 診察の合間を縫って 約束どおり誠実に対応してくださった。 実績もあり、医師、薬剤、介護が一体になっている。 話には説得力もある。HPも閲覧し納得のいくところ。 
「病院ではできない医療を提供し、患者さんの満足とQOLの向上に応える」 力づよく響いた。 弟も喜んでくれた。夕方のメールには「姉の言う通りこれ以上の所は、もう無い様な気がします。ここまできちんと冷静に進捗させてきたことの成果であり感謝して居ます」とあった。

    -☆-

 痛みがなければ いつもとおなじ。 咲き初めしさくらかな。 白い顔にほのかなほのかな紅を浮かべ、やわらかな表情。つかの間、安堵する。

しかし、きょうは反対側も痛むと言っている。
 ふたりそろって見舞えば元気もでる。 庭に咲いた山吹、カワラナデシコ、木瓜、椿の写真。新聞の料理面、相撲の記事など置いてくる。「新聞! なつかしい!」 よろこんでいた。 彼女の気持ちを、帰宅に向けるほうが難問だ。 治して帰る気でいる。

桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命イノチをかけてわが眺めたり  岡本かの子歌集「浴身」
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言えない

2006-03-26 | 向き合う

 休日は面会も多い。向かいのベッドが賑やかだ。 見に行くとカーテン一枚の仕切りのなかで昼食もとらず本を読んでいる。
 「食べたくない、痛くてたべられない」 食事は残してあった。
 「美味しくない 味がない 」

 「あのひとは足、こっちの人は目。 でも痛いところがないからいい」
 「ねえ、見るたび 痩せた?」 
 「ピンクの頬で元気そう、綺麗だよ… 」 あとが続かない。 

 「こんなに迷惑かけて、 お父さんにいいこども持った たくさん世話になったって 伝えるからね」 なに言うの  よくなるんでしょ
 きのうは弟も来て 母はちょっと痛いよと言いながらも上機嫌だった。ぱっと華やいだ雰囲気になった。 きょうはナーバスになっている。
 
 それでも写真をたくさん持ってきたので いつもの明るさになる。 Mさんが裏側にたのしいコメントをつけていて、異国のあざやかな風景と幼子の表情が多いに慰めてくれている。つかの間、痛みもうすらぐようだ。
 これが届いたころ随分見たはずだったが、初めてだと言う。それならそれで良かった。新鮮で楽しさも増すのだろう。

 おなじ症状も家族に甘え、なれたところで過ごせば気がまぎれる。 喜びだって見つかる、そのほうが幸せなのかも知れない。うちなら融通がきく、嘘のような時間もあるのだから、昼食が2時でも3時でもかまわない。
 
 治る、信じて入院した。 軽い鎮痛剤だけで施す術がない。本人以外が重大なことを決めていいのだろうか。 人格の否定  しかし、言えない。 おおらかだが、かなり繊細な病人の性格からして。 ここに来てますます鋭敏になっている。
 ひとの生死を預かる重さ、厳しさにふるえる。 帰宅を勧めても納得できないままだ。

  苦しい選択に堂々めぐりしている。    2006.3.18
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向きあう

2006-03-15 | 向き合う

 17日から。それは本人も納得ずみ。それが少し早まった。きのう、人生初めての入院をした。
 「rugが待ってるから、早く帰ってあげて…  家のほう、よろしくおねがいします」 そう言った。 すでに本を読み始めている。 目を上げずにきっちりした声が返ってきた。 さすがだ。
 娘は湿気った顔を見られずにすむ。  

 ゆうべ眠れなかった。 ここ1ヶ月ばかり添い寝をしていた。痛まないか、トイレはうまくいっただろうか。 夜中に4.5回は起きていたから。 気落ちしてないか。 あれこれ巡った。

 ラジオ、目薬、先生のエッセイや佐藤愛子の読みかけなど持って、きょうも見舞った。彼女はどことなく佐藤愛子に似ている。四角っぽい顔だと思う。佐藤さん、ごめんなさい。どちらも明るい いい笑顔であたたかく包まれる。

 部屋がきのうと変わっていた。 すでに昼食をすませウトウト始めているところ 「おかあさん、来・た・わ・よ」と耳元に告げる。
「わあ 来てくれた。遅かったじゃない」 上気した顔をほころばせ 夕べはよく眠れて。食事もみんな頂いて。 こちらの方は90歳、そちらの方は80代と、事情聴取の成果を挙げる。「私が一番おばあさんだね」と続けた。
 すごい! 新しい環境に順応している。まるで女学生の合宿のように昂揚していた。

 TVカードやイヤホンを求めておいたのにTVはみない、本が面白いと言う。 家でも新聞を私より熱心に読んでいた。 頭はすこぶる元気なのだ。

 これから、治療がはじまる。どうぞ穏やかに過ごせますように。 ストレスも少なく快適に過ごして欲しい。 まだrugのことさえ伝えられない。 これからたくさんの嘘をかさねていくのだ。  
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消息

2006-03-10 | 犬のブロンコ・ダン

 あれからrugは Lucas に所属、サッカーをしているらしい。 ありそうな話。

 父さんに連れられおじさん方とラグビーをしていたが、ここは元来サッカーの街、今ごろその夢を叶えたようだ。 少年団に誘われたこともあったっけ。 

 絵のなかでボールさばきも鮮やかな彼は、ぜったいrugにちがいない。面長をちょっとゆるめて、耳にみなぎる緊張感、シュートのタイミングも、ヘディングする時の上目遣いもそっくりです。 ほんとうに山本さんはrugをモデルに制作したと考えられる。

 お店でカードをみつけ、これをrugbyへ。 そう思ってほほえんだやさしい友だち、たのしいプレゼントをどうもありがとう。 母さんも元気になります。

     写真 「Team Lucas」 エッチング、グワッシュ  Yoko Yamamoto
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春一番

2006-03-06 | 犬のブロンコ・ダン

 きょうrugbyは、陽気な風に乗って本当の母さんのところへ帰りました。兄弟にも会っています。 心配しないでね。 

 18年と76日、 たくさんの元気や笑顔、勇気をもらいました。里のIさんに連絡すると「ながい間、可愛がってくださってありがとうございます。しあわせな犬でした… 」とおっしゃられた。
 なんだか、rugbyがそう言っているように思えて、ふぁーっと涙があふれた。

 ラグビー君 こちらこそ、 たくさんの幸せをありがとうね。 最後までほんとうに賢くていい子でした。 ありがとう。
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別所めぐり

2006-03-03 | 別所沼だより

 一年間 別所のほとりを歩きました。撮った写真は何千枚。 数えていませんが、とくに
道造の心をうつしたと思えるものだけ、ご高覧いただきました。 
 これほど美しいところだったと、発見することばかり。いつも楽しみでした。 つたないコメントで、さいたまの別所沼を多くのかたに知っていただく、若くして逝った詩人の魂を、すこしでもお伝えできたでしょうか。
 のこりは宿題にして。 きょうの別所は寒いですね。 梅もちらほら。
 救命具の隙間から覗いてみました。
           
           ☆

 『僕は詩が書けない。言葉はなぜかうも少く小さく、僕に思はれるのか。そして、そのすくない言葉さへ、全く余分に思はれた。僕のいひたいのはおそらく一行であらうか、と思はれた。その一行によつて、一行一行があつまり、一篇の詩となるのであつた。しかし、僕は、一行のことをひきのばし、一篇とするのであつた』昭和10年5月17日 立原道造 

 「余分に思はれる」言葉を消していって、最後にのこる一行。
「一行のことをひきのばし、一篇とするのであつた」
 気持ちの芯のところ、核となるもの、エッセンスをだいじに引きのばす。凝縮されたひかる一行のなかから、イメージはさらに拡がります。
 立原道造様  ゆたかな時間をありがとうございました。これからもどうぞよろしく。  
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