別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

三時草

2005-05-31 | 自然や花など

 おやつの時間をおしえる花
 お向かいさんから戴きました
 ちょうど三時に咲きそめて
  
 多肉植物を思います。なんだか花もそれらしく
 水牛の角みたいな葉が密集
 ほそい花びら刷毛のよう 

   ちょっとインタビューしましょう

 薔薇の管理人さんは?   花火のようです 
 90歳の女性のかた 何に見えます? 
   時計いらずの きらきら貝殻草みたい  
  ちがうわ、それはカサカサ 麦わら菊?
 シャンプーしたてのrugby君は? おやつはカステラがいいwan

 黄昏て 花はまぶたを閉じていました ほんのり紅をさして。 
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アイドルの座

2005-05-27 | 犬のブロンコ・ダン
  話を前にもどそう

 四ヶ月頃から。耳はろうそくの炎のような形で立ち上がり、かすかな音にも反応した。まるでパラボラアンテナだ。キャッチした音に沿い、寝ていても向きがすこしづつ変わる。熟睡はないらしい。

 TVの音量にも左右されず、室内にいながら門が開いたのがわかってしまう。さすが感度よし!
 アンテナは野鳥のさえずりを拾い、猫の進入をとらえた。お菓子の缶を開ける、袋をやぶる、ゆで卵をむくかすかな音、キュウリを刻むおと。おどるように、どこにいても跳んでくる。

 嗅覚たるやおそるべし、サッシやドアの向こう側にいるひとが家人か、そうでないか区別する。見えなくても関係ない。河原で石を投げる。何百、何千という石ころの中から、たったひとつ 主人が放ったそれを探し出すという。ひとの何千倍、何万倍だというのも聞いた。
 
 すっかり成犬の姿だが、スリッパはぼろぼろ、ソファーに穴をあけ、やんちゃぶりが目立ってきた。
 外出から戻ると態度がおかしい。叱られる前に、きっちり自己申告だ。そこは偉い! ほんとは偉くない誰かさんにも聞かせたい。
 いつもなら声を裏返し、飛びついて「はあ、はあ… お帰りなさい」が盛大につづく。たとえ短時間でも。

 まずは迎えに出ない。奥で、なんかよそよそしい、伏し目がちに固まってふるえる。かわいそうな犬です、と演技する。
やっぱりね! 決まって何事かおきている。

 呼んだって出てこない。
 「よし!!」の一言をひたすら待っている。
それがまたいじらしくみえるのだから、困りものです。

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夏の準備

2005-05-25 | 自然や花など
 
あの向こうに ほんものの夏があるのね


   植木鉢のふちに
    テッポウユリの葉脈のあいだに
      ノウゼンカズラのひげの先に

   風知草のそよぎのなかに
    夏は息をころして隠れているね
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再会

2005-05-24 | 犬のブロンコ・ダン
    話はとんで…

 Iさんにラグビーの成長を、見ていただこう。11月約束の日、
 千駄ヶ谷の明治記念公園は途中から雨になった。
 
 車を降りると、とおく足下に小型犬がいる。母さんだ! 何となくふっくら、顔立ちも柔らかい。
 ラグよりひとまわり小さい。4キロぐらいかな。こちらは、とびきり大きかった父に似て、いまや6キロもある。
           
            -☆-

 母さんは愛しげに黙って見ている。忘れていない目をした。けれど「ぼくは犬じゃない、あんただれ? やだよ」と言っている。
 「知らない 知らない!」と逃げまわる。

 そして 「お母さん… どうしよう?」という風に、こちらを見あげ訴える。確かに目がそう言っている。(すでに家族の誰とでもこころが通じていた。こちらの言うことも、ほとんど理解できた)

 綱をひいてそばによると「がうー 」と一蹴。威勢のいい声して震えてる。及び腰がとても可笑しかった。  
 母さんはうらめしそうにIさんの後ろにかくれる。ごめんね、なんだか申し訳ない。9ヶ月ぶりの親子再会は何のドラマもなし。
 期待しつつやって来たけど…

 雨は激しくなり真冬の寒さをつれていた。この日ドッグショウがありトイマン♂の部、出場たった二頭中一位になる。笑われちゃうわ。興味はまったくなかったが、実家のご主人Iさんのために面目躍如。トロフィーをもらい写真も撮られた。



よそ見をするラグビーと みつめる母さん

     ~。:`,~ ~。:`,~ ~。:`,~ ~。:`,~ ~。:`,~

 おいらは、いつも仲間に入れない内気な犬さ… それは今も変わらない。
 人だと思いこんでいるらしい。
 けさは勝手口のたたきに落ちた。段差30センチあまり。下で呆然としている。抱き上げると ト・ト・ト・ト、はやがねのよう。
びっくりしたね、お前も私も。 とつぜん姿が消えたんだもの。 
 視野は狭くなり慣れたところだけ、弱まった嗅覚と光をたよりに歩ける状態。
声は大きく食欲もあり。小さくなって疲れがみえる寝顔にあわれをもよおす。がんばって!
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窮屈になった上着

2005-05-20 | 自然や花など

  昨年のこと…

 晩夏、梔子の枝にひっかけた、花びらのようにうすいものをはじめて見ました。
  窮屈になった上着…   乳白色の剥片に転写された鱗模様 五ミリほどの手までしっかりわかる。こわごわと、やがて嬉しくなりました。からびた細いゆびさき  まるで蕊のようです。

 調べると、  「 ヘビはくつ下をぬぐように  (…なんて愉しい)
一度にすっかりぬぎすてる 」 「 とかげは皮膚を破りとるようにして ぬいでいく。指先の皮がむけないままだと 骨折してしまう 」
 いずれも児童書(ビジュアル博物館 爬虫類 同朋舎)(どんな生きもの はちゅう類偕成社より)

  なまなましい写真を見て 気絶しそうでした。  

 長雨がようやくあがった すばらしい晴れの昼さがり、しめった土いろの五㎝くらいのトカゲが現れた。近くの石のうえでは母親がときどき手を結んだり、開いたりしながら、秋の陽を満喫というかんじで温まっています。
 とてもあわい萌葱と浅黄に、うすいマゼンタを散らしたようなシックな装い。近づくと、じっと動かない。緊張しているようす。全身からぴりぴり伝わってくる。こちらもどきどきしながら目を合わせた。
  おどろかせてゴメン!

 マンスフィールドは 「 トカゲは眼で物音に聞き入っている 」といったけど、うんうん、ほんと…とうなづきました。「 …それから私が眺めているのに気がついて、念入りにウインクしたと思うと… 」 なんて書いている。 そんな彼女の手紙がすきだ。

 そして 今朝、桔梗の葉のうえにみつけました。
月明かりのもと? 朝露にぬれながら? 人目を忍んで? 着替えは厳粛に行われたにちがいありません。
 こころやさしい彼のことは、スピルバーグのE・Tにもかさなりました。手まで似ていますから。
 写真は ルネ・ラリックのペンダント どれもすてきだ。
  右端がトカゲ  胸元でゆれるトカゲは ちょっとゾクゾクする
上着を ご覧になりたい方はこちらへ どうぞ!
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沼のほとりに

2005-05-18 | 別所沼だより

  ヒアシンスハウスを建てるところは別所沼
 そこには立原道造が慕う詩人・神保光太郎が住んでいた。

 沼のほとりに石碑がある。自筆の詩が刻まれていた。

   沼のほとりをめぐりながら
   神をおもふ
   水面に映るひとひらの雲
   羊の孤独
         神保光太郎 「冬日断章」孤独より

 以下に 「埼玉の文学 ― 現代篇 ―」より引用します。

 神保光太郎(1905~1990)(山形県生れ)は昭和9年12月から、平成2年に84歳で亡くなるまで、半世紀以上にわたって浦和に住んだ。薔薇と別所沼をこよなく愛した詩人である。戦後は日本大学芸術学部の教授をつとめるかたわら、埼玉の各種の文化的な活動に関わり、その発展に大きな役割を果たしている。具体的には、埼玉詩話会会長、埼玉文芸懇和会会長、「文芸埼玉」初代編集委員長、多数の校歌等の作詞などである。それらの功績により昭和39年に埼玉芸術文化賞を受賞、また53年(73歳)には勲3等瑞宝章を受けている。
  
 「和服姿で散歩するのをよく見かけましたよ」
   とガイドの女性は話す。
スケッチに通った頃、お会いしていたかも知れないのだ。詩人の交遊をはやく思い出していれば、と残念におもった。

  手紙の一節がうかんでくる。

 …別所沼のふじや、アンゴラ兎は元気ですか。桜草の野原へはいらっしゃいますか。浦和の町も、もう夏ですか。…けふは日曜日なので誰かになつかしいたよりを書きたくて誰にしようかしらと心の中をさぐりました。それもたのしい心のあそびでありました……       
   神保光太郎様         立原道造

 沼のほとりでカルガモに会う。ひな鳥のいそがしい食事を
ぼんやりながめた。
沼は百万年前にできたらしい。
 風薫る五月、さわやかに今日も変わりない。

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刷り込み

2005-05-13 | 犬のブロンコ・ダン

 ホトトギスやカッコウではないが、刷り込みが起こった。どうやらrugbyは、「おかあさんだ!」と学習したらしい。顔を脇のしたに入れて安心して眠る。ときおり目玉を動かしている。内側にちいさなぐりぐりが伝わった。

 わざと、大きくふかく息をしてみる。当然、母犬もどきの胸やおなかが動いて彼に伝わる。
すると「フーッ」と肩をあげ大きく吸ってはく。くりかえすたび、応えるようにそれは続いた。きっと母犬のあたたかさと、なつかしい息づかいを確かめていたに違いない。

 毛が短いせいか、すごい寒がり。かわいそうなくらいぶるぶる震える。以後、ヒーターの前にしっかり陣取り動こうとしなかった。

4月(生後3ヶ月過ぎ)あたたかくなって初めて外に出る。不安気なあしどりで地面をあるいた。何もかも珍しい。月面着陸の飛行士のように、ひょいひょいとバランス悪くはねるように歩いた。土の感触を愉しそうに確かめた。
 
 rugbyはときおり顔をあげ、目をほそめ、ひかりに向かった。鼻をひくひくさせる。うららかな陽差しを、そのにおいを、花の香を感じているようだった。嬉しそうだ。生きるよろこびを共有する。それほど大げさに思ったのも忘れがたい。
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薔薇ノ木ニ

2005-05-12 | 自然や花など
 
       薔薇二曲    北原白秋

      一
    薔薇ノ木ニ
    薔薇ノ花サク。

    ナニゴトノ不思議ナケレド。    
                   
      二               
    薔薇ノ花。
    ナニゴトノ不思議ナケレド。
                  
    照リ極マレバ木ヨリコボルル。
    光リコボルル。
     (詩集 白金之独楽)


 詩を読んで、薔薇の木に薔薇の花が咲く。当たり前のことが、何と不思議なことかと想いなおす。照りかがやくようなひかりをこぼし今年もつるばらが咲いた。芳香つよい、種類も、名前もわからないが、たのしく不思議を見ている。
 開花日 2003 5/12 ・2004 4/29 ・2005 5/8
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響く鼓動

2005-05-07 | 犬のブロンコ・ダン

 家にきて10日たった。
 すっかり慣れてのびのびしてる。ブルーの瞳だ。

 1日目は家事もしごとも手につかず抱いてたっけ。胸に抱くと頭を脇の下につっこんで眠る。やわらかく温かい。鼓動がつたわる。こちらが息をふかく吸い込むと、答えるように「フーッ」とながい息をした。

 下におろすと直ぐに鳴きだす。
 甘い子育て、このままじゃきっと、手に負えなくなる。
 とにかく小さい、かわいい! 
心を鬼にして躾をはじめる。そそうしたら匂いを嗅がせ、「ここはいけない!」とおしりを叩く。何度か繰りかえしトイレをおぼえる。まちがえば、叱られることが解ったようだ。

 ついつい失敗。そんな時は先まわりする、椅子の隙間にもぐりこむ。こちらの手が届かないことを計ったように。賢い!
 呼んでも出てこない。からだを縮めうしろむきの背中が、実に申しわけなさそうにしている。とにかく目を合わせない。まわり込み間近にのぞきこんでも視線をそらす。
 おやつを見せても、断固! こらえる。

 なおさら愛しさが増すのだった。
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ラナンキュラス

2005-05-05 | 自然や花など
盆栽祭りで買った黄色い小さな花。風に揺れるさまは、まるでキンポウゲのよう。名札を見ればラナンキュラスとある。ふつうはダリアほどの大きさだ。

 HP季節の花300でしらべると
ラナンキュラス ・金鳳花(きんぽうげ)科。
  似てると思ったらやっぱりそうか!  
・学名 Ranunculus asiaticus
  Ranunculus : キンポウゲ属 asiaticus :アジアのRanunculus(ラナンキュラス)は、ラテン語の「rana(蛙)」が語源。カエルがたくさんいるようなところに生えることから。

 豆のようなラナンキュラスは、花びらがたくさん重なって風に吹かれる風情も愛らしい。

 キンポウゲと言えば赤毛のアン。金色のキンポウゲと野バラの冠を帽子につけて意気揚々と日曜学校に行くシーンが思い出される。
 ことしも花之江の郷にキンポウゲ(butter・cup)の群れを見に行こう! ちいさな、ちっちゃなデミタスカップで、蜂が蜜を吸うところ…






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凝縮の美

2005-05-04 | 自然や花など

  大宮盆栽村で3日から5日まで、世界の愛好家や観光客でにぎわう「大盆栽祭り」が行われる。毎年楽しみにでかける。

  小さいなかに宇宙を感じる。 長い時間と広さがつたわる空間、 大自然が凝縮されて詰まっていた。  樹齢250年、300年の松。 100年の楓。 風格あるうつくしい姿に感動しふるえる。 何代も受けつがれ守り育てられるいのち。くりかえされる四季をかさねていく、 圧倒される。

 下草がそよぐブナ林もある。 虫にでもなって直中にあるような感覚になる。  陶板、 苔玉皿、 豆鉢の専門店、 山野草、 花卉、 苗木、 肥料。 剪定ばさみ。何でもそろっている。 ブログで知った雪餅草も、 シラーペルビアナの花も見られて幸せ。
 紅花大根草とラナンキュラスを買う(直径1センチくらい、黄色い花が豆菓子のよう)。 こんなかわいいのは珍しい。  モダンな盆栽もあり若者もたくさん来ている。 盆栽四季の家、 蔓青、 留芳藤樹、 寛楽、 清香園等の各園が自由に見学できる。

       

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桐の花とカステラ

2005-05-03 | 別所沼だより

 あわい紫と黄色、よく似合う。すきな取り合わせだ。この配色でおしゃれしたいとおもっている。襲の色目では表に黄、裏に浅葱をあわせて「青枯(あおがれ)」というそうだ。白秋は桐の花のいろとカステラのいろを、よく調和すると書いている。

 万葉集にもおなじ色がある。
  巻八・1444 高田女王(たかたのおおきみ)の歌
 ☆ 山吹の咲きたる野辺(のへ)のつほすみれ
     この春の雨に盛りなりけり 
すみれの紫と山吹の黄色、春の雨にその色もさえざえと目に沁みる。いろの対比が美しい

白秋のエッセイを読みなおす。
 「桐の花 序文 27.V.10」のなかで、桐の花とカステラの時季と謳いあげ、『桐の花が咲くと、冷めたい吹笛(フルート)の哀音を思い出す。(略)…食卓の上の薄いフラスコの水にちらつく 桐の花の淡紫色と、その曖昧のある新しい黄色さとがよく調和して、晩春と初夏とのやはらかい気息のアレンヂメントをしみじみと感ぜしめる。』

 白秋は、この時季のカステラは妙に粉っぽく見えてくる、と言っている。それを曖昧な黄色と表現したと思う。今日とおなじ、爽やかな陽がふりそそぐテーブルのうえ、フラスコの水にきらめきこぼれる桐の花の淡い紫色と、皿のカステラ。なつかしさがこみあげる風景。
春から夏への移ろいのとき、桐の花に会いたい。

 別所への道すがら町中にはもうない、とあきらめつつ上ばかり見てあるく。近所では持てあましたご主人が切ってしまったし、公民館の前のもなくなった。2本とも南側にあったせいか大きくじゃまになったのだ。

 高台の校庭に、とおく、たかく、うす藤色がゆれている。腕をひろげた枝先は街路のうえまで伸びていた。なんとしても見上げる場所。風にふかれる花を写した。うまく撮れるか。
 落ちていた花を拾うと、ほそながいラッパのようなかたちで、あまい香りがした。
 
 別所では菜の花と花大根がならんで咲いてたし、タンポポのまわりでオオイヌノフグリが遊んでる。かえり、紫露草とエニシダを発見、どれもこれも桐の花色とカステラの色。
 ほんとによく似合う。
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思いがけない喜び

2005-05-01 | 犬のブロンコ・ダン

 わかれ際の 「犬はお好きですか?」
「えぇ、好きです。むかし飼ったことがあります」
たったこれだけの簡単なやりとり。
 夫と、仕事がらみで知り合ったI氏の会話である。

 話しはこれだけで終わらなかった。
 
 翌1988年1月31日、陽気なチャイムが鳴った。
おもてに大柄で柔和な紳士が立っている。
「犬を連れてきました」
 何も聞いてない。突然のことで、家族はあっけにとられている。
それらしき荷物もなく玄関に入ってきた。

 やがて上着のポケットにさわり視線を集めると、まるで手品師のようなあざやかさで、取り出したのはオモチャのような子いぬ。
 片方の手のひらにちょこんと載せてみせた。

 わあ、かわいい! ぬれたようなつぶらな瞳がじっと見つめる。
くんくん鼻を鳴らしてる。ちっちゃいのがうごいてる! 
何かまさぐるようなしぐさ。いとしさに釘付けになる。
 犬は好かないと言ってた母まで夢中になった。

 「ほら、こんなに延びるんですよ。」と首周りをつまんでみせる。
皮膚はずるずると自在にうごいた。狭いところに潜りやすいためだ。ご先祖はネズミを捕っていたらしい。

 世話をする暇もないし。高額なペット犬のことも耳にしていた。
お金を出してまで飼う気持ちもないな… しかし、
それを言えるだろうか。
 家族は顔を見合わせ、目の前のやんちゃな瞳と心の中で格闘していた。
 
すると「良かったら差しあげます、世話していただけますか?」
 「もちろんです。よろしいんですか」
またまた、唐突なご厚意をお受けしたのである。
 
 Iさんにはいつもびっくりさせられる。
いきなり庭箱を贈られ、カナリアを飼うことになってしまった、昔のことも思い出す。
 
 トイマンテェスター・テリア 
(ブラック&タン。短毛。成犬でも3.5キロ) 
なまえはホクセン・リバーズ・ブロンコ・ダン
 こうして新しい家族は、みんなを虜にした。
 あまりに長い名前、愛称Rugbyに決める。
思いがけない小さな贈り物は、家族をしあわせにし、一つにまとめる大きな力をもっていた。
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