このごろ蛙が帰っても、出迎え大騒ぎするのはrugbyぐらいなものだ。
しかし、その日は違った。今や遅しと待ち受ける管理人が「見せたいものがある、きっと驚くよ」とやけに愛想がいい。それに、日頃あまり動じない彼が、目を輝かせている。期待に胸がふくらんだ。
…去年の夏のことである。
「この中だよ、見る?」 差し出すビニール袋から、青い葉が透けて見えていた。
口を開くと、うす水色の銀杏の葉を2枚並べたような形が、ジャンボ機のようにゆっくりと静かに移動した。これは 葉っぱじゃない!!
生まれて初めて見る生き物に、どぎまぎする蛙。
とくべつ大きな蝶だろうか? しかし、毛深い触覚は蛾のようだ。
あわいエメラルドグリーンは、月の光を思わせる。天鵞絨のような葡萄色の縁取り。見事におしゃれだ。
肩のあたりに二つ、裾にも眼のような紋がある。
左右の長さ10㎝以上あろうか。怖がってばかりいられないと、調べてみる。
その名を、オオミズアオ(大水青)という。 みずいろ、水の青。すてきな名前だ。夜行性。 学名は Actias artemis で月の女神アルテミスに由来する。開張80~120㎜。
アンズ、コナラ、ザクロ、モミジなど広葉樹を好む。これは雌だとわかる(雄は触覚も大きく幾分ジミである)
翅がすこし傷んでいる、それで薔薇の根元に休んでいたわけだ。
よくぞ、いらしてくださいました。つくづく眺めれば なんと美しく、
なんと神秘的なこと!
しばらく観察し、そっと土に降ろした。夕餉の仕度にかかると、いつの間にか、いなくなっていた。
あれ以来、夢を見ているような気がします。妖しい光を帯びて
佇むすがた、月よりの使者? いいえ、妖精のようでした。
一度逢ったら、ぜったい忘れません。
美しいひとでした。
ドビュッシーの「月の光」を聴きながら、よく思い出します。