別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

月の光

2005-07-27 | 夢見鳥

 このごろ蛙が帰っても、出迎え大騒ぎするのはrugbyぐらいなものだ。

 しかし、その日は違った。今や遅しと待ち受ける管理人が「見せたいものがある、きっと驚くよ」とやけに愛想がいい。それに、日頃あまり動じない彼が、目を輝かせている。期待に胸がふくらんだ。 
   …去年の夏のことである。

 「この中だよ、見る?」 差し出すビニール袋から、青い葉が透けて見えていた。
口を開くと、うす水色の銀杏の葉を2枚並べたような形が、ジャンボ機のようにゆっくりと静かに移動した。これは 葉っぱじゃない!! 
 生まれて初めて見る生き物に、どぎまぎする蛙。

 とくべつ大きな蝶だろうか? しかし、毛深い触覚は蛾のようだ。 
 あわいエメラルドグリーンは、月の光を思わせる。天鵞絨のような葡萄色の縁取り。見事におしゃれだ。 
 肩のあたりに二つ、裾にも眼のような紋がある。

左右の長さ10㎝以上あろうか。怖がってばかりいられないと、調べてみる。
 その名を、オオミズアオ(大水青)という。 みずいろ、水の青。すてきな名前だ。夜行性。 学名は Actias artemis で月の女神アルテミスに由来する。開張80~120㎜。
 アンズ、コナラ、ザクロ、モミジなど広葉樹を好む。これは雌だとわかる(雄は触覚も大きく幾分ジミである)

 翅がすこし傷んでいる、それで薔薇の根元に休んでいたわけだ。
 よくぞ、いらしてくださいました。つくづく眺めれば なんと美しく、
なんと神秘的なこと!

 しばらく観察し、そっと土に降ろした。夕餉の仕度にかかると、いつの間にか、いなくなっていた。
 あれ以来、夢を見ているような気がします。妖しい光を帯びて
佇むすがた、月よりの使者?  いいえ、妖精のようでした。 
 一度逢ったら、ぜったい忘れません。


 
 美しいひとでした。 
 ドビュッシーの「月の光」を聴きながら、よく思い出します。

 

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設計図

2005-07-23 | 別所沼だより
深緑を映す別所沼    
  
 風信子ハウスは、昭和13年夏、立原が追分で設計した結婚後の新居と転地療養をかねた小住宅だった。
 以下に 立原道造・愛の手紙(小川和佑)より引用します。

 神保光太郎の紹介で、彼は浦和市別所沼(現さいたま市)のほとりに、この小住宅を建てる計画を立て、10月末、長崎に出発する前に水戸部アサイとともに、別所沼の土地を見に行っている。

 当時としては先駆的なワン・ルーム設計、きわめて斬新なものであった。   「…でも一部屋では困る時がなくって……」
 とアサイは設計図を見ながら、女性らしい心の動きを見せて立原にたずねたそうだ。
 「そういう時は、そう、この中間に可動性のある中仕切りをつける」
彼は無造作に答えて、設計図に書き込みをした。アコーデオン・プリーツの発想である。

 その風信子ハウスは雑木林を開いた南向きの空間、水の畔に建つはずだった。水戸部アサイとの新婚生活を夢想していた。
   
         -☆-

 現在、ハウスは沼の反対側に建っている。主はもういない。設計図通りであったなら西側の窓から、今はこんな景色を眺めたにちがいない。
 いよいよ緑が深まってきた。メタセコイアには、うすいエメラルドグリーンの実が付いている。 午後4時過ぎ。 
 曇り日の公園に、夏休みの黄色い声がこだまする。
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くわばら

2005-07-21 | 犬のブロンコ・ダン

 その日も朝ぐもり、茹だるような暑さだった。
夕方、涼しいときを選んで、ラグは散歩に出る。おきまりコースは三通りくらいあるが、どれも先導できるほど熟知している。

「いってらっしゃい」 いつものように見送った。
 10分もしないうちに、「クッ、クッ クーン」
「キャン、キャン」 玄関のあたりが騒がしい。

 

いま出たばかりじゃない、絶対よその家だと決めてかかる。

 それでも止まず。 ここ開けて!と、必死に叫んでるんだ。 
 おそるおそるドアを開けると、小さな彼がぶるぶるしながら待っていた。
  「どうした? 父さんは?」  「…・・・…?・・」
  「おいて来ちゃったの?」 「…!!・・!」

 待てど暮らせど夫は帰らない。一体、どうしたのよ! 何があったの? 無口な犬では埒があかない。

  しばらくして連れがヨレヨレになって戻ってきた。
 rugbyに代わって言うことには

 靴ひものほどけを直す間にいなくなったこと。何度も名を呼び、草むらやいつも通る道を、必死に追い、探し歩いたこと。
 「なんだ、真っ直ぐ帰ったのか」 と苦笑する。
 rugbyは素知らぬ顔で、ぴちゃぴちゃとミルクなんか飲んでいる。

 思えば、車が行き交う大通りを二つも横切ったことになる。 綱をひきずり、猫ぐらいの犬が横断する姿を想像すると、「よくぞ、ご無事で」 
 蛙は目頭が熱くなるのだった。
 
 追っかけ、稲妻がやってきたことは言うまでもない。
 犬は舌をだらんと出して、ハアハアしながらひたすら祈る。涎で床がびしょびしょだ。
  蛙も一緒にくわばら、くわばら。 雷、大っ嫌い!
 
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風知草

2005-07-20 | 自然や花など

風知草の花が咲いている  まるで糸のような みどり花  
かすかなそよぎにも  驚いたように揺れる   
有るか無きかの風を知る      

    風知草女主の居間ならん   虚子   
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朝ぐもりに注意!

2005-07-19 | 犬のブロンコ・ダン
 
きのう梅雨明けした。朝からモワッと蒸している。きまって午後になると晴れてくるんだ。 そんな朝ぐもり(朝曇)を横目に、
 『世の中に、わぅー たえて 雷のなかりぃせば… 大嫌い! 』 とrugbyが言う。
 それはねえ…

 庭で遊んでるときだった。出し抜けに息づかいも荒く、歯の根も合わずといった感じで飛びついてきた。目がすわり、はあはあと、ただごとでは無い。 こちらは何がなんだか訳が分からない。
 へえ! お前にもこわいものがあったのかい? 
 庭に、そんなの住んでたかいな? と呑気である。

 人には分からない電磁波を、テレパシーで捉えられるのか。嫌いな音波も即座につかまえる。遙か山向こうのそれだって、キャッチできるらしい。  

 ひとが変わったような彼は 「さあ、上がろう! 速く! 速く!!」と、敷居に足をかける。放っておいたら、泥足で上がり込んでしまった。
 膝に無理矢理とび乗って、がたがたと震えながら、かじり付く。涎まで垂らしている。 こんなに気に入られたって、なのである。 その頃になってやっと、蛙にも小さく雷鳴が聞こえてくるのだった。 

 ご先祖がよほど怖い目にあったんだね。しっかりDNAに組み込まれ受け継がれている。
 蛙には何の前触れもなく、彼だけがそれを察知してパニックになる。猪のごとく突っ走る。散歩先でも、勝手に公園をぬけ、猛スピードで車道に出てしまう。危険この上ない。輪禍で命をおとす仲間を何度も見ていた。

 近所には、鎖を引きちぎり逃亡したものさえある。3日間、音沙汰なくて諦めていたところ、保健所から連絡があった由。引き取りに行くと、顔をくちゃくちゃにして飛びついてきたそうだ。目もくぼんでやつれ、哀れだったそうな。 翁丸かい? 主人に再会し、心底うれしそうだったと、涙ぐんで話していた。

 ゴロゴロにビックリ仰天、飛び出したものの、雷雨の中をさまよい、家も分からなくなったのね。線路を越えてさらに西へ、余所の庭に潜んでいたところを保護された由。それは優しくしていただいて。 それでも元の家を忘れず、物思いに沈んでいたとか… 

 夏本番! 雷の季節である。
 それは太鼓や、爆竹の音でも同じ。何度遭っても慣れません。
 夏祭りや花火大会は、ご遠慮したい。 
 
 こうして、朝ぐもりの季節は、じつに恐ろしいのである。
 今は聞こえないから、平和なんだ。rugの心はのどかなるらし~

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武相荘

2005-07-14 | アートな時間


   武相荘をたずねたことがあった。 
 鶴川の駅から、夏の日盛りに15分も歩くと滝のように汗はながれた。
 なだらかな傾斜をいき、母屋を望む。

  手前の案内所に、たしか桶だったと思うが、咲きかけのアーティチョークが無造作に活けてあった。
 はっとした。紅紫の大振りで品のいい美しさは、亡きあるじの感性にかさなる。こだわりの着物や帯、仕覆をみた。
 いまもこの日の、緑に囲まれた茅葺き屋根の家と、モダンな迎え花を鮮やかに思い出す。

 日本橋高島屋で 
  美しい「もの」の魂と語り合った人「白洲正子とその世界展」をみた。
 「人」や「もの」、万物の本物はなにかを問われる。能、骨董、手紙、師や友、白洲次郎にまつわる品々。かくれ里では、そこに立ってはじめて分かる風土や歴史を見せ、銀座「こうげい」着物のことなど。愛車ベントレーXT7471もロビーで見られた。

 とくに呼び継ぎの器に惹かれた。「ぼくの発想の泉であり理想この上ない君に」こう書いた次郎と正子は、絶妙のバランスで引き立て合っていた。
  人は枯れていくもの その時(今が)一番良い… 今が美しい… 
正子の言葉がよみがえる    
     ※ Oさんありがとうございました

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桐の実

2005-07-13 | 別所沼だより


 桐の木に 桐の花が咲いて
 桐の木の 実がなった  
   桐の花とカステラに掲載した桐の花の今の姿。

  手にとれば桐の反射の薄青き新聞紙こそ泣かまほしけれ  白秋  

  昭和五年三月三十日(日) 道造十五歳の日記には 
   「白秋全集読む 
   「桐の花」の哀慕調、すてきだといつも感心する。  
   あの境地を口語調でゆきたいもの」     
    と、記している。  

   わがゆめはおいらん草の香のごとし雨ふれば濡れ風吹けばちる
   顫へ易く傷つき易き心あり薄らあかりにちる花もあり   いずれも「桐の花」より

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道造が見た別所沼 

2005-07-10 | 別所沼だより


 ヒアシンスハウスに入ると、詩集やら設計図が展示されるなかに
 大正時代の沼写真があった。
 道造はその畔に週末住宅をつくろうと夢みた。

  当時を映す白黒コピーは、葦がおい繁げり静寂そのもの。
 じっと見てると、彼の詩の世界がますます美しく思われる。
 
   モノクロのなかに 

- 七月は 水絵具のヴァーミリオンのにほひ -  (立原道造 眞晝)





 夜来の雨もあがり
歩道のモントブレチアが
鮮やかだ

 グリーンの中の この色
ひときわ目を惹く






 アガパンサスも
 黒塀をバックに
 いよいよ清く品がいい
  まさに知的装い。

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らぐびーの日曜日

2005-07-05 | 犬のブロンコ・ダン
 帰省中のたこさんとのお約束のために… 
お楽しみrugbyの日曜日 はじまり!はじまり!

 rugby7ヶ月目…
 ボール投げて! 何度でもせがむ。疲れを知らないのだ。グランドのはるか向こう、疾風(ハヤテ)とはこのことか、走る姿はサラブレッドのよう。
 体中にみなぎる緊張感! 腿の筋肉は波打って、細い足して、小さいながら競走馬のごとき華麗さ。ほれぼれする。
 この一瞬を描けたらなあ、何度も思った。

 夏がきて、散歩がてら不惑クラブにお伴する。そこで離したからたまらない。相手は ド、ド、ドン。ドシ・ズシン! 巨漢のおじさま方である。
まるで○の弾丸! 失礼!
 「あらあら、やめて! いっしょに戦えないよぉ  足、踏まれちゃうよ」

 「言ったって聞かないよ~」と、しましまソックスの間を縫うようにくぐり抜ける。あざやかだ。日頃の修練ね。
 ばて気味のみなさんを尻目に涼しい顔。
 輝くような笑顔?で 「やったよ、母さん… はあは! たのしい!」といちいち報告にくる。単に父さんのゆくえを捜すだけかも知れないが。みんなが見てるじゃない、と思いつつ内心誇らしいのである。えぇ、親馬鹿になりました。
 これまで他の飼い主を見るにつけ、ああはなるまい!と堅く決めていたのですよ。全くね。

 こうしてrugbyはクラブのマスコットになる。毎日曜は車に乗って、意気揚々と大学のグランド通い。学生対不惑、お前はどっちに入るんだい?
 大型犬以上の運動をして、満足このうえない。
 午後は睡魔と戦うこととなった。

 蛙の週末はサッカー少年団に取られ、rugbyは退屈だった。ちょうどよかった。父さんといっしょのクラブは至福のとき。大活躍したが、残念! 写真はない。
 どうぞ、ご想像ください。
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七月は

2005-07-01 | 自然や花など

   
      七月は鉄砲百合 
   烏揚羽がゆらりと来て
   遠い昔を思はせる

   七月はまた立葵 色とりどりの
   また葡萄棚  蔭も明るい
   彼方の丘の松林
   松の香りに蝉の鳴く   

    - 中略 -

 

 

           まて しばし      
          烏揚羽がゆらりと来て
           艶(エン)な喪服をひるがへす 

                    ( 七月は鉄砲百合   三好達治)

 

          -☆-

  揚羽の描写がきれい! 
  一緒に写真撮りたかったね 
  うちには 幼虫が居る
  気がつけば はや文月  ご無沙汰いたしました

  七月ばかり、いみじう暑ければ、よろづの所開けながら夜も明かすに…                                    枕草子 

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