別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

遊びの美術

2006-01-31 | アートな時間

 県立近代美術館で企画展 「木村直道+遊びの美術」を見ました。
遊びの精神と美術の関わりがテーマです。

 想像するのは楽しい。まして創造は楽しく面白いものだ。 
 仮想し、幻想・空想をかさね、鉄くず、ガラス、金属、鍬、シャベルなどが、木と組み合わされバレリーナや、ヘリコプター、ライオン、モグラもできた。 
 捨てられたものが全くちがうものに生まれ変わっていた。 
 
 自らの彫刻をスクラップ(scrap/廃材)とスカルプチュアー(scrapture/彫刻)をかけ合わせたスクラプチュアー(scrapture)と呼ぶ 木村直道(1923-1972)は 廃材を利用した彫刻を制作。奇抜な発想とユーモア溢れる作品は遊び心いっぱいで、それらは価値あるものに変身していた。
 
 彼のことば 「見方によって角度によって物の価値を転換させる。かえると言うことは、よい意味での遊びです。想像性がわいたときはほんとうにうれしいものです。昭和44年10月26日北海タイムス」 から ものの価値はひとつじゃない、ひとの魅力も と考えた。発想の転換、身のまわりに起こしたい。

 モグラをモチーフにした作品は砂鉄が効果を発揮していた。
「磁石と磁気を帯びた金属でおおまかな骨格をつくり、その上から砂鉄をかけてモグラの体毛を見事につくりだしています 美術館ニュースより」

「シンバルを叩く男(バックミラー楽団)」は思わず吹き出してしまいました。グレンミラー楽団と言わなかったところが味噌。 ほんとうにバックミラーはシンバルとして利用されていた。

 「10人の枢機卿」 これは折りたたみ傘を利用。傘を巻く前の状態を思い浮かべてみるとよい。赤い傘を半折にして柄を持つとしよう。 布は枢機卿のカーディナルレッドのマントのようだし、折り曲げて飛び出した骨のてっぺんに、待ち針のように丸いものを付ければ頭にみえる。かくて円陣を組む枢機卿が現れる。 肩から裾へながれる美しいライン、赤のいろと小さな頭、印象に残った。
  
 ほかに江戸から現代まで
 歌川国芳「人をばかにした人だ」 滑稽な錦絵に添えられた詞書きは「人のこころはさまざまなものだ。いろいろ苦労してやっと一人前になった」と顔のなかに何人ものひとがかたまっている! 
アルチン・ボルトの果物でできた顔を思い出させる。
 マルセル・デュシャンのモナ・リザ 〈L.H.O.O.Q〉 他にジャン・アルプ 「ヘソの上の二つの思想」 
 山東京伝 「はさみ松魚カツオ」 等々  詳しくはこちらへ 作品の写真が何点か見られます
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ラジオが好き!

2006-01-30 | 自然や花など

 この時季、餌台をめがけ野鳥がやってくる。 ヒヨドリ、雀はもちろん、シジュウカラ、メジロ、カワラヒワ、シメ、 季節を追ってツグミ。 はらぐろは困るけど アカハラだって来ます。
 ミカン、林檎、向日葵のたね、ピーナッツなど置いている。
鳥の種類により、食材の好みも変われば食べ方も異なっている。 

 向日葵を好むのは、シジュウカラ と カワラヒワ。 衣裳もそれぞれ個性的なら、食べるようすも全くちがう。  シジュウカラは
 枝のうえに、種を横向きに寝かせ、両端を両の足でおさえる。両手だったかも知れない。 とにかく殻の上からつついて穴をあける。
一心不乱の突貫作業、頭を振りおろしては、中の実をついばんでいる。粉々にして食べるようだ。

 一方、カワラヒワはちょうどラグビー(ここは犬ではなく、スポーツ)の、ゴールキックのボールのごとく種を立てて置き裾を両足でつかむ。そのてっぺんを嘴でぱちっと割って、殻を二枚にして落とすのだ。
実ミは大きいままそっくり食べられる。
 その器用なこと、みごとである。それぞれの文化に目を見張る。

 夕食づくりはラジオとともに。 楽しいきまりである。 先日 聞いたはなし。
 生物心理学の岡ノ谷一夫氏によれば、十姉妹ジュウシマツを観察していて、鳥の歌にも文法があることが分かったそうだ。いくつかのフレーズをルールに基づいて並べ、歌っている。それは文法であると。

 一音節は攻撃するときや、餌をねだるとき。 
 オスはメスに求愛するために鳴く、 トリュリ トリュリ チ チ チ チ フィ。
 さえずりは親から学ぶもので、父親の鳴き声を息子は脳に焼きつけておく。(ヒトで言えば)中学生くらいで試してみる。 …かわいいね、おもしろい。 

 実験したり、修正しながら、やがて師匠と同じように鳴けるようになる。 色んな音を順番に並べ、組み合わせを複雑にすることで、素敵さも増すのだ。 父親がうまく歌えばその子どもも同じように上手い 
…なるほど。
 
 十姉妹の文法は各個体により違いがあり、複雑な歌をうたうものと、そうでないグループとでは、巣作りの材料運びまで時間も倍以上ちがう。
 …資材も多く凝った造りか  一芸に秀でると多芸に …余力も生まれるのかな。

 さて、ヒトの言葉は左脳でつくられる。ことりの鳴き声もおなじで左の脳でできる。
 小鳥の歌からヒトの言葉へ。さえずりの文法を調べるうちに、言語の起源にたどりつくはず。 
 どうやって言葉は生まれたか
 …興味が湧く。 ひとのことばができる過程が分かるらしい。言葉がなかった頃、ひとも鳥とおなじように歌やダンスでディスプレーしていた、プロポーズもこんなだったと仮説が立つ。

 ラジオは、いつもたのしい想像をふくらます。蟋蟀の話もそうだった。
くらしに直接、役立たないかも知れないが、こういう話が 蛙はすきだ。

 そう言えば
    NHK第一  11:33~   私の本棚   (月~金)
    「おばあちゃんと孫の心を結ぶ50通の手紙」 <全10回>
            【著】清川  妙   【朗読】香川 京子
               佐竹まどか       黒川 芽以

 今日は五回目でした。あと五回も残っています。11時30分、短いニュースの後すぐ。
 その日のニュースにより時間は、ずれます。 手紙のせかいがまた一段と、ふくよかになりました。 
想像力たくましくなる ラジオが大好きです。 母の付き添いで半日、帰るとラジオが待っていました。 
  また先生に会えました。  
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音なき声

2006-01-22 | 自然や花など

 音もなく降り積む雪、しづけさのなかにある白い声、雨戸を開けぬうちから雪とわかる。 乱舞し奏であう声なきメロディー、ときおりグラスのふれあうおと、梟の羽ばたき、ふるえながら車輪の沈む音がする。静寂のなかにある声を愛する。 一片ヒトヒラのかそけき音 朧なる声を愛する。

           -☆-

 雪後、時ならぬ蜩の声を聞いたのは 北原白秋 
   聴覚も視覚もとぎすまして聴こえる声をお届けします。 

      雪後の声
 
   蜩カナカナが啼いている、あ、月夜の
   雪明かりの中ウチ、
   なんとしたことだ、あの
   時ならぬ刻みは、声音コワネは。

   あまりのこの閑シヅけさ、
   遠さ、幽カスけさ、
   あ、また金の線が弾ハジける


 豪雪地帯の皆様にはお見舞い申し上げます。 なさけない雪かきを、きょうは独りで行います。 
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天からの手紙

2006-01-21 | 自然や花など
 
   それは マザーグースの真っ白な綿毛のようなてがみ
     
           ☆

     汚れつちまつた悲しみに
     今日も小雪の降りかかる
     汚れつちまつた悲しみに
     今日も風さへ吹きすぎる

     汚れつちまつた悲しみは
     たとへば狐の革裘カハゴロモ
     汚れつちまつた悲しみは
     小雪のかかつてちぢこまる
        (汚れつちまつた悲しみに… 中原中也より抜粋)


  雪はげし抱かれて息のつまりしこと     橋本多佳子
  降る雪のかなたかなたと眼があそぶ    皆吉爽雨
  雪降れり時間の束の降るごとく        石田波郷



 あとからあとから かぎりなく  舞いながら  飛びながら  霰のように  花のように
 ことしはじめての手紙が届いた  鴨の翼にも 積もったろうか  
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特に…らしい

2006-01-20 | 犬のブロンコ・ダン


  日向で眠りこける犬も、 寝ながら尾をふったり、 前足で宙を掻くようなしぐさをする。 耳をぴくぴくさせたり、 吠えるときもある。 きょうは大きな相手にひるんだか、うなされている。 追われているらしい、 悲鳴に近いものだ。   犬も夢を見る。

  rugbyがきて間もない頃、中国がえりの友人から聞いたはなし。

 都市で犬にあわなかった。 あれは食べられちゃったのよ。
   こちらが仰天するのもかまわず 

 『あそこでは、犬を連れたひとがくると 『まあ、美味しそうな犬ですこと』 って挨拶するの。 おいしいか、いくらするのか それが問題なのよ』 
 『日本のように 『可愛いワンちゃん』 なんて言わないの!』 と続けた。 話したくて仕方がない。

 そして 『とくに…』 で、 身を乗り出して 
『黒い犬がいちばん美味しいんですって…』 と 念を押す。 腰を抜かして 「嘘でしょ!」 と叫ぶのを待っている。 あのころは聴力抜群の彼にも聞こえたはず、 奇妙な趣味のそのひとが浮かんでくる。

              ☆

 視力の落ちたrugby は 冷たく、しめった鼻を押しつけて 「あ、母さん  ここにいたの」 と確かめる。 かわいさ余って、おまえを食べることは絶対しないからね、 安心してと山姥は思う。 背を丸め、ちぢまる寝姿は、やはり100歳。 夢は枯れ野を駆けめぐる。 どうせ見るなら、 いい夢であれ。

  たしか去年、 かの国でもペット犬を飼うひとがふえたと報じていた。 食の習慣はまだあるらしい。 
すさまじきもの、昼ほゆる犬に、異文化を加えよう。 祭祀や薬効に関係があるらしい。 

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こころ動く絵

2006-01-17 | 別所沼だより


 昨日の別所。 RINPAと見まがう、 水かがみに寒々と木々がゆれ、幽玄の美をみた。 風が吹くと 水面はおっとり笑みをうかべ、 入り日を溶かし水晶の割れたるごとくおもしろし。 心が動く、こんな絵が描きたい。

 墨のなかにさまざまのいろを探して飽きることがない。 細い落ち葉の錆朱が、微かにおしゃべりをする。 
 どなたの絵画か  葦手をさがした。 
  
 いままで色を使いすぎ、 このモノクロに惹かれる。 

 

 

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雨上がる

2006-01-15 | 自然や花など

     臘梅のつやを映しぬ薄氷        龍雨
     臘梅の咲きうつむくを勢ひとす     爽雨
 

 曇っていても 吹き荒れていても かならず 晴れる日がきます  
 どうぞみなさま  おたいせつに 
 
 夜来の雨も上がり 臘梅がいっせいに咲いている  馥郁たるかおり 透ける花びら
  みんな好き  春はもう 動き始めています
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春となり

2006-01-13 | 自然や花など

 こっそり 今ごろ弾けたジャスミンの種  
  莢のなかで 紐のように畳まれたパラシュートが
   ねじれて重なる  
  
   マジシャンの手つきで  ひとつ ふたつと引き出した 
    咲くようにぱっと開いた落下傘 15もあった 

  絹糸か ほそい玻璃のようだ 
   
            

               
 8月から12月まで まるで隠元みたいに だまって下がっていたのです
  頬にあてれば羽毛のよう やわらかであたたかく 

    春隣りひよこ抱く日がよみがえる

  孵卵器のなかのヒヨコと 懐かしい思い出。
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「純金の心」 から 

2006-01-10 | 別所沼だより
 
     はじめてのものに     立原道造

     ささやかな地異は そのかたみに
     灰を降らした この村に ひとしきり
     灰はかなしい追憶のやうに 音立てて
     樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた

     その夜 月は明アカかつたが 私はひとと
     窓に凭モタれて語りあつた(その窓からは山の姿が見えた)
     部屋の隅々に 峡谷のやうに 光と
     よくひびく笑ひ声が溢れてゐた

     ――人の心を知ることは……人の心とは……
     私は そのひとが蛾を追ふ手つきを あれは蛾を
     把へようとするのだらうか 何かいぶかしかつた

     いかな日にみねに灰の煙の立ち初ソめたか
     火の山の物語と……また幾夜さかは 果して夢に
     その夜習つたエリーザベートの物語を識つた

            -☆-

 春の使者 supikaさんからいただいたコピー「純金の心」を読んだ。 先生の一言に響きかえしたところもすばらしいが、研究論文とも言うべきそれは、深く考察された魅力的な一文であった。立原道造に40年ちかく傾倒しているSさん、中学2年の頃、はじめて出合い、

 『道造の詩は、理屈抜きで体にすっと入ってきた感じだった。むき出しの感情をおしつけない… 品のよい音楽みたいな言葉が、水彩画のような明るく透明な景色を描き出す。その音楽に、謎めいた破調の楽節が用意されている。それも魅力だった。その日々から、三十数年。道造の姿を追い続け、今もますます、のめり込んでいる』 と書いている。

 にわかファンの蛙はたくさんのことを教えていただきました。 以下に、S.Fさんのエッセイ 「純金の心」 水曜日のすみれ草 13号から一部分をご紹介します。
            
            -☆-

 60年前でも、『現実感がない』 『言葉遣いが舌足らずで稚拙だ』と、批判され
 中原中也においてはフランスの宮廷詩人に模して『御婦人向け』とまで評していた。しかし〝中原中也賞〟第一回受賞者となった立原。
 
 SONATINE NO1 「はじめてのものに」は、道造初めての詩集「萓草に寄す」に載っている。この詩集について堀辰雄は

 『君は好んで、君をいつもいっぱいにしている云い知れぬ悲しみを歌っているが、君にあって最もいいのは、そのいい知れぬ悲しみそのものではなくして、寧ろそれ自身としては他愛もないようなそんな悲しみをも、それこそ大事に大事にしている君の珍しい心ばえなのだ。そういう君の純金の心をいつまでも大切にして置きたまえ』 (夏の手紙-立原道造へ 昭和12年9月「新潮」) と述べている。

 また『脆い美しさをもった、世にも優しい詩を書き続けているためにはよほど詩作に強い信念を持っていなければ到底不可能なことではないか…』 堀辰雄 「中原中也賞推薦の言葉」とあった。

 つづいてSさんは、詩の第四節、三行に、はめこまれた古典とその心をみごとに解き明かし見せてくださっていた。 全文をご紹介できなくて、とても残念です。
 万葉講座にも在籍されたが、言葉もほとんど交わさずにいた。 たった一度、ヒアシンスハウスの完成を報告し、地図をさしあげたと思う。同人誌の編集長として忙しく、欠席するようになり以後お会いしない。

 Sさん、すてきな贈り物をありがとうございます。おなじ思いにつながれてお福わけをいただきました。 せめて 道造が愛した別所の四季を、お贈りいたします。
            
            -☆-

 supikaさんもお会いしたことがありません。60年も学ぶ方たちとつながれる日々。 師とともに、かけがえのない存在、そして時間です。 蛙は大間に合いで始めたばかり。
 
 教えてくださった片山廣子の燈火節、図書館に予約しました。 古典のなかの人や歌、室生犀星と親友の芥川龍之介、松村みね子(片山廣子)、堀辰雄から立原道造へ、 
 supikaさんやSさんがおっしゃるとおり、みんな繋がっている。
 これからも 「詩歌の森へ・芳賀徹」 楽しみに分け入りたいと思いました。  
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微笑み

2006-01-07 | 犬のブロンコ・ダン

 イヌも笑う。笑ったかのように見える。 山だって笑います。あざ笑ったりしないでくださいね。鬼も、膝だって。
 薄ら笑いやせせら笑い、ちょっと微妙ですね。複雑な気分!

 花笑みにも、たくさん会えますように。 あなたのその微笑みも、花笑みというのですって。 添えてくださる、あたたかさやユーモアのこもる言葉も、すてきです。 

 今年の年賀状は、これを使いました。嵯峨人形で江戸時代のものです。
いいお顔、 口元が rugbyにそっくりです。  
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三つ星

2006-01-05 | 犬のブロンコ・ダン
 ゴー、ゴー、遠く鈍くひびく音。 見ると南南東にオレンジ色のライトを点滅させ、機影がまさに三つ星を捉えるところだ。 オリオンが腰につけたベルトの辺り。

 冬空に雄々しく立つ狩人。 午後10時、きょう最後の用足しにでるrugbyについて庭に出る。 冷たい空気が頬にいたいほど。 右手にこん棒を振りあげ、左手に獅子の毛皮を持ち、美しい姿で立っている美男子オリオン。 フー、息が白い。

 rugbyのおかげで得した気分だ。 気温は0度くらいか。 独り占めの天空show、いい気持ちだ。 ひときわ大きな一等星の、左上がペテルギウスで、右下がリゲルだって。

 365日、日に7回ぐらい、用足しを教え、そのたび庭に出して付き合う。 おかげで草が生えない。長生きの秘訣は水をたくさん飲むことだろうか。と言いたいくらいよく飲み、それゆえ、何度もそとにでる。泥んこ足を洗う。蛙の手は荒れ放題! 人前に出せない! さあどっちを取るかって、
 いまさらねえ。 ほかは、五つ星だもの。
 
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見ぬ世の友

2006-01-04 | 別所沼だより

   あひみての後のこころにくらぶれば昔は物を思はざりけり  権中納言敦忠 拾遺集

 十五歳の日記から、やがて
 『 「後のこころに」 は立原道造の詩集 『萱草ワスレグサに寄す』 のなかで 「のちのおもひに」 と、さりげなく色を変えられている』    (清川妙著 人生をたのしむ言葉 海竜社)より            


      のちのおもひに  立原道造    

    夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
    水引草に風が立ち 
    草ひばりのうたひやまない
     しづまりかへつた午さがりの林道を

    
    うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
    ――そして私は
    見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
    だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

    
    夢は そのさきには もうゆかない
    なにもかも 忘れ果てようとおもひ
    忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

    
    夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
    そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
    星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう
             
                 -☆-

  「人生をたのしむ言葉」のなかにあるエピソードが心を捉えた。
 エッセイ教室の生徒、Sさんが紹介される。彼女は立原の熱心なファン。 「のちのおもひ」 には 「あひみての後のこころにくらぶれば… 」 の歌を踏まえていることを知っていた。
  先生はSさんに 「立原の作品には、古典が深い影を落としているはず… 調べてみたらおもしろい…」 と軽い調子で言われたそうだ。

 主婦のSさんは ひとり燈火のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とする  やるぞ!ときめて 「はじめてのものに」 の中にはめ込まれた古典のルーツ探しをした。
  研究資料を読み、付箋を貼り、メモをし、さいごは徹夜で原稿を書き上げた。 その姿を思うと、Sさんをわが同志という思いで、うれしさに昂揚し祝福した。 と、あった。
  それは 「純金の心」 と題したエッセイになった。 二段組六頁の研究論文である。 同人誌のなかの、このエッセイを読みたくなった。 「水曜日のすみれ草」 を探しています。 

 こつこつと勉強を続け、好奇心を絶やさずに。 いつも教室で聞く言葉。 二十年も、三十年も学ぶ人もいる。 学びの熱気に包まれる教室、 思い立ち、その山裾に出てきた蛙は、なんと幸せなことか。 たくさんの刺激に満ちている。

 ひとり燈火トモシビのもとに文フミをひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる  『徒然草』 第十三段 

  ずっとつづけよう。 まだ見ぬ友に会いに行こう。  ますます時間が足りないなあ…

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感受性

2006-01-03 | 別所沼だより
 
  昭和五年一月三日(金) 曇ったり晴れたり  

     …中略…

 夜は、かるたをとる。たまらない位に、胸にぴんとくる歌がある。「あひ見ての」「なにはがた」しみじみと胸に迫る。十時過ぎまで皆と笑ったりなんかしながらも心の中では、泣きたいようにさみしくて、Hのことが頭をかすめるのだった。お湯から出て、何もしないで、目頭の熱くなって来るのをおさへかねて、ひとりで坐って居た。Hの家へ遊びに行きたい。   立原道造
                -☆-
 
 メタセコイアの葉が落ちて木の間隠れにヒアシンスハウスが見える。道造十五歳の日記を読んだ。
 それは 芳賀徹著 「みだれ髪の系譜 -立原道造の手紙から」のなかで

『繊細な感受性、などという陳腐な評語をバンソウコウのように貼りつけてしまうだけではもったいない、もっとしなやかで、貴重な生命感情と、切々として深い生への希求が全体をつらぬいている』 

と言われていたが、日記はその片鱗をすでにうかがわせるものだった。歌のいみを深くとらえていた中学生に感動を覚える。 枯れ葉が水面を覆い、沼の下はかくれて見えない。
その底にある心を蛙にもとらえられる日は来るのだろうか。

 あひみての後のこころにくらぶれば昔は物を思はざりけり  権中納言敦忠 拾遺集
 難波潟短き蘆のふしの間もあはでこの世を過ぐしてよとや  伊勢・藤原継陰の娘 新古今集 

やがて、権中納言敦忠の一首は 詩集『萱草ワスレグサに寄す』のなかで「のちのおもひに」と、さりげなく色を変えられている
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