別所沼だより

詩人で建築家 立原道造の夢・ヒアシンスハウスと別所沼の四季。
     

共有する時間

2006-04-27 | 向き合う
 
雨戸を開けると、冷気が室内をうかがうように入ってきた。 晩春の湿った空気も、なぜか心地いい。 

 「雨なの?」 背後で母の声がした。 強いくすりで朦朧かと思うがそうでもない、意識はしっかりしている。ベッドの中で雨の匂いに気づいている。 そのことがうれしい。

 きのうストレッチャーに乗せられクリニックに入ったのは11時30分、IVHの手術、鎖骨のすぐ下から細い管を入れ先端を上大静脈にとどめてある。これで通常よりも高濃度の点滴ができるらしい。術後レントゲンにてその位置も確認された。シリコンの細い管には安全弁まで附いている。血液の逆流を防ぐという。 医学の進歩におどろくばかり

 帰宅は3時近く、休む間もなく訪問看護がくる。輸液バックの交換や、アラームの対処法など、今夜から家族が困らぬだけの指導をうける。一度に覚えることばかりで心底つかれた。 昼食もとれなかった。

 点滴設備一式、2週間分の薬剤、栄養剤など大荷物になった。弟がいてほんとに助かった。忙しいのに片道2時間もかけ毎週来てくれる。わたしにはできないことだ。

「姉の手伝いとちがう。こうしてかかわっていたいだけ… こういう時間がだいじなんだよ。 気にしなくていい、 いつも任せたままなんだから 」と頼もしい。

 いつもながらエンドレステープの話がつきない。 面白くて弱った。待ち時間も愉しく過ぎた。なんとおしゃべりな子だろう。ビジネスで鍛えたか。
 姉弟とはいいものだ、それは大人になって分かるもの。 結婚しそれぞれの家庭でちがうものを見てきた。 方向は少しずつ変わってくるが、いざと言えばすぐ力になれる。
 母を真んなかにして 昔に戻った。 
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西瓜

2006-04-23 | 向き合う
 
 微熱 心拍の異常 安全に不安があった。 きのう、はじめての訪問入浴かなわず。 
 本人に自覚はないがだいじを取った。 蒸しタオルで拭くことはしても これまでシャワーを一度したきりだったから残念だ。 喜んで欲しかった 

 ☆ 「西瓜が食べたい…」  
  一口サイズをフォークにさし いつかあなたにしてもらったように 口元に運ぶ 
  おちょぼ口をゆっくり開くすがた ひな鳥のよう 母がとても愛しく思えた

 ☆ ほの明かりのもと瞳をこらし 「わたし… 命のかぎり 生きたいと思う…」
「お父さんの分もね」 胸が熱くなるのを 必死で隠した 

 ☆ 「もうすこし 元気になったら 来てもらう…」 そう言って お見舞いをことわっている。  ほんとうに 願っています

 ☆ 肖像画に寄せられたコメントについて
  「わたしに似てて よかったの?」「もちろん! 当たり前よ」
   「そう…… 」 弱々しい微笑  その心根も継げればいいけれど…

           -☆-

  「西瓜図」絹本着色(部分)  北斎 
 あふれる水分を吸って 張りつく半紙  金気を帯びた汁の滲み  鎮まる種も蠢くよう 果肉の赤味 仕切る繊維 堅い皮と縁側のいろ みごとな質感 冷たい刃物 包丁の重さ  
 画狂老人卍筆 80才  克明な写実 気迫に圧倒される     参考 西瓜図(全体) 
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花の繪を

2006-04-20 | 向き合う
 本日、看護も往診もなく少しのんびりできる。俄にひとの出入りが多くなり、落ち着かない2週間余を過ごしてきた。

 穀雨と言うけれど、南側のガラス戸にふきつけている牡丹は雨に弱い、花には気の毒な降りだ。いつもは傘をさしかけ養生したが、今年は蝦蟇さんも諦めムード。
 
 これが咲くとマネの絵を思う。白いシャクヤクの花など卓上に置き描いていた。さりげなくてのびやかで好きな絵。 牡丹は日本画風だが、いつか、いつかと思いばかりで実現しない。そのうち花が終わる。きょうこそマネを真似るチャンスだ。 花を並べ1時間ほどキャンバスに向かう。

 このところ絵も休んでいる。しばらく描かないとかきかたを忘れる。絵も文章もおなじ。何をどうするか、すっかり初心になって戸惑う。さて、どこからはじめたらいいか、迷う。 誠に不思議である、何十年続けていても。
 継続こそ力、次なる意欲も生まれる。 
    
            -☆-

 きょうは余り痛まない。 描きかけを枕元に見せれば「牡丹らしくなったね」とうれしそうだ。こちらもしあわせになる。 けれど完成にはほど遠い。 

 新聞で特集が組まれ、おなじクスリ、看護、診断、心的ケア。経過。患者に寄り添う家族。その思いに共感する。まるで我が現状かと思うほどの掲載ぶり。

 「おっ! 油臭い」という蝦蟇にも見せる。「花のボリュームが足りない!」 いまや磨きのかかった門前の小僧は痛烈だ。 穏やかじゃない蛙。 下手でも褒められたい! 
 blogでくせがついたのだ。

 一枚の絵で いつになくゆるやかな時間になった。 
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さがしもの

2006-04-17 | 向き合う

          緑を見てさえ  哀しくなった
         生気にみちて 妬ましくなる
            おびただしい葉の つないだ力
                  生命力が かなしく映る

         赤児のような仕草で まかせるひとの
           ちいさな声が追いかけてくる
          ゴメンネ…  アリガトウ…  ごめんね…
            こんなことまでさせて…

 
         影をみても悲しくなった  目をそむけるんじゃない
          ひとは死ぬために  生きるのだから

        壁に寄ると こころが痛む
         先のことは考えまい
          直視するのは   今という時    目のまえのこと

        青天に佇み 何かをしても     ときめかない
           あなたの笑顔だけ   さがしています         

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うつつ

2006-04-10 | 向き合う

 
      守れるのは わたしだけ 
     
       叫びたい衝動にかられ
        駆け出したいと 揺れながら 
          生きているあかしを さがしてる   

      食べる 飲む 排泄 苦痛 眠る 微笑み くしゃみ 手をつなぐ あたたかい 
      喜ぶ 悔しがる 時を計る 手許の鏡 髪をすく

       たすけるごとに  あなたは
        ありがとう… を言う
         夢ならぬ さかんな生のあかしを ごらんなさいと

                  -☆-             

     プロジェクトは  はじまったばかり
  7日専門医によるセカンド オピニオン これまでの厳しい状況判断が覆ることはなかった
     9日介助バー取り付け 10日介護認定調査  (火・金)訪問看護 (水)往診 
     弟の支え 姪の応援 蝦蟇さんの協力 子供たちの声援
        … 蛙はひとりじゃない    
     
    あすの万葉講座もお休み  とっても残念!!!  友だちに 会いたいな 

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科学する

2006-04-05 | 向き合う

 車は緩やかに花のトンネルを抜ける。 わあ! 綺麗! ため息混じりのうららかな日和。 開け放しのルーフから花びらが舞い込む。 笑顔が戻った。
 そのまま、これからお世話になるクリニックへ。 検査を受け、点滴をし3時に帰宅したのは、きのうのこと。

 夜中3回起きたが、 3週間ぶりの我が家でぐっすりねむった。  
 きょうから週2回の訪問ケア 雨の中ご苦労さま。
 体内酸素量、血圧、脈拍など測る。事務手続き、痛み緩和の呼吸法、軽い体操指導を含め1時間かけた。
 ほかに週1回の往診がある。 緊急には24時間対応が家族を安心させている。 

            -☆-

 医療は科学だ 実感する。 身体のなかは見えない、それをさまざまの測定により画像により状態がかなりわかる。 薬剤しかり、介護の技術から、心のケア、何もかも科学だとおもう。

 むかし、成績はべつにして、どちらかと言えば理数が好きだった。覚えてないが、大学は理系に進んだ弟に教えていたと、今ごろになって知る。 そんなこともあったかなあ。
 化学実験のおもしろさ。 現象すべてが理論で証明される快さ、物理も好きだった。 もう一度言う、成績は良くない。 しかし 愉しい授業を用意した先生も好きだった  
 … 桜のきせつに思いだす 

            -☆-

 介護、最大の難関は母の入れ歯。 以前から、体温を感じる抜け殻のようで嫌だった。それも総入れ歯。魂が乗り移ったような生々しさ。何気なくはずしてあると、身震いした。 
 見るのも触るのもためらわれた。

 今は 素直な気持ちで 毎食後 ていねいに磨いている。 清掃も科学… 
自分でも驚くような変化をみる
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桜いろ

2006-04-03 | 向き合う

 花の雨は  強風に変わった  風速31.4メートル 
 花びらが くるくる転がりながら吹かれていく  欄干にしがみついて写真を撮った  
 見沼通船堀の桜並木  花大根のあかるい紫がポイント 水を道を桜いろに染めてながれる
   

  退院は あした  自宅へかえる道すがら 車のなかでお花見する
   どうか やさしい春風が そっと背中を押しますように
    しとやかで 優雅な花が  彼女をなぐさめ 微笑みくれますように

               -☆-

         大いなるさくらを廻り陽の移る   秩父
         天辺に水あるごときさくらかな   麦草
 
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