軌道エレベーター派

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『機動戦士ガンダム00』の「ブレイク・ピラー」は起きるのか?

2017-11-12 12:34:00 | 軌道エレベーターが登場するお話
 前回の『機動戦士ガンダム00』の軌道エレベーター 勝手に検証」に続く、『00』勝手に応援企画であります。前回同様、この記事も宇宙エレベーター協会(JESA)の2009年度会報(年鑑)に特集記事として掲載されたものに、若干の加筆と修正を行ったものです。なお、説明図のイラストはJSEA会員のしのさんに描いていただきました。

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はじめに
 前回考察した『00』の軌道エレベーターですが、2ndシーズン17話「散りゆく光の中で」で、それはもう大規模に破壊されます。
 地球連邦軍の独立治安維持部隊「アロウズ」の専横に怒った反乱兵が、アフリカタワー(AEUのラ・トゥール)の低軌道ステーションに立てこもります。これに対しアロウズは、オービタルリングに設置されたレーザー砲「メメントモリ」で攻撃、ステーション直下のピラーに命中します。
 するとピラーの安全装置が働き、破壊されたか所から下の外装パネルがバラバラに分解して落下。地上付近で戦闘中だったモビルスーツ群は、敵味方分け隔てなく落下する外装パネルを狙撃して地上基部周辺にある市街地を守りました。
 街はおおむね助かったようですが、リニアトレインで地上へ降下中だった一般市民がピラーの自壊に巻き込まれ、約6万人の死者が出たとのことです。この大惨事は、後に「ブレイク・ピラー事件」と呼ばれるようになります。

 『00』特集後編は、軌道エレベーターが実現したとしたら、こんな現象が本当に起きうるのかを検証します。本編の描写は、あくまで物語を盛り上げるための演出と割り切った上で、あえて根性悪く色々ツッコミんでみたいと思います。なお、ここではテレビ放映を「本編」と呼び、このほかは出典をそのつど明記します。


1. 外装パージとリニアトレインの脱線
 まずはブレイク・ピラーで生じた被害状況を、本編や資料を基に概説します。攻撃直後、ピラー末端のバラスト衛星が自動的に放出され、被弾か所から下へ向かって外装パージが始まりました。パージは移動中のリニアトレインを追い越して進行し、ピラーがバラバラになってリニアトレインは宙に放り出されてしまいました。
 これは破損した部分の強度が急激に低下して、そこから下のピラーを引っ張り上げる強度が失われ、全体構造を維持するには下部を軽くする必要があったためです。
 この理屈自体は正しい。しかし、リニアトレインが移動中なのに、パージがそれを上回るスピードで進むというのは、一体どういう設計思想で造られているのでしょう。乗客を乗せた「ゆりかもめ」がレインボーブリッジを渡っている最中に、橋を落とすようなものではないか。いるのか、そんな危険なモノに乗るヤツが!? もっとも、パージしなければピラーごとぶっちぎれて倒れるから、どの道助からなかったでしょうが。
 最終的に、リニアトレインは互いに衝突したり、骨組に叩きつけられたりして「炎と金属片に姿を変えた」そうです(小説版2ndシーズン③403頁)。



2. パージされた外装の市街地への落下
 砲撃は「事後の再建を考慮に入れ(略)骨組みだけは残せるよう出力は抑えて」いたとのこと(同392頁)。確かに、本編17話終盤、かろうじて糸のような中心軸が見えます。外装パージはこれを残すためだったのでしょう。小説版によると、アロウズのグッドマン司令はこの砲撃をするのに恍惚とした快感を覚えていたらしいです。悪趣味な。

 パネルのサイズは縦約100m、横約50m(同402頁)、ピラーの直径は約1km。地上から約10kmまでは無事でした(2ndシーズンオフィシャルファイル Vol.4 28頁)。戦術予報士のスメラギさんが言うには、高度50kmから上は断熱圧縮による空力加熱で燃え尽きるそうです(もっと上ならともかく、地球の自転と同期しているパネルが、たかだか高度50km超から落ちて燃え尽きるというのも相当疑わしい)。ピラーがこのパネルでびっしり覆われているとして、約40kmぶん、単純計算で約2万5000枚弱が落下したことになります。
 それが降ってくる所に市街地を設けるなど、何を考えているのか。。。待避壕くらい設けろよう( ̄□ ̄); それに、すべてビームか何かで蒸発させない限り、いくら下から撃っても細かくなるだけで結局落ちて危険なのでは。。。?
 対流圏では西風が吹いていたらしく、ソレスタルビーイングの母艦「プトレマイオス2」(トレミー)の被害予測では、パネルは最大でアフリカ大陸の西岸を越えて飛んだ可能性があるということです(小説版2nd③407頁)。


3. ツッコミ甲斐あります
 以上、どうにも信じがたいのですが、パネルの材質(Eカーボンでしょうが詳細不明)や重さが不明なのではっきりしたことは言えません。
 何よりツッコまずにいられないのは、トレミーがすぐ予想できる被害を、どうして建造時に考慮できないのかということです。当時のトレミーは、ソレスタルビーイングの頭脳中枢である量子演算型処理システム「ヴェーダ」とのリンクが断たれていたため、ヴェーダに計算を任せず、搭載コンピュータの計算結果だと思われます。
 ああでもっ、スメラギさんの言うことなら信じます!! (*´д`*)ハァハァ

 被害の原因をつくったのはメメントモリの砲撃であっても、リニアトレイン乗客死亡の直接の原因は外装パネルのパージシステムであり、一体どういう設計思想で造ってんだよ、と。さらに、すぐ近くに建ってる塔の外装が非常時にはげ落ちる仕組みになっているというのに、備えもない市街地を設けるとは、何にも考えてない都市計画です。リニアトレイン公社と地元行政府?は、遺族から多大な賠償を請求されるに違いありません。

 こうして見ると、外装パージという機構はひたすら被害を拡大させただけという印象を受けます。結論として、軌道エレベーターに予想される危機回避システムとしては、リアリティはあまりないと言わざるをえません。
 

4. ではどうすべきか
 本編のシステムは、人命より軌道エレベーターの構造維持を優先したものなのは明らかです。
 番組視聴当初は、システムが異常なり暴走なりを起こしたのかとも思ったのですが、これは小説版を読む限り、正常に作動した結果のようです。
 しかしながら、アロウズの意図に関係なく、いくら再建が楽だとはいえ、これだけの犠牲を引き換えにしてしてまで、中心軸のような部分を残す機構にしなければいけないのでしょうか? ましてや、地上との接続が断たれても、バラスト衛星のパージで重量バランスは保たれているうえ、オービタルリングで支えられているのですから、上部は十分に安定しているはずなのです。
 それなのに、人が乗ったリニアトレインを無視してピラーが自壊するなど、業務上過失致死や製造物責任が問われかねない誤りだと思われます。

 ではどうすればよいかというと、代替案は多種多様に考えられるでしょうが、ここでは人命最優先を念頭に置き、一例を提示したいと思います。
 なおスメラギさんを信用し、ここでは上述の約40kmぶんの処置を問題とします。

 (1) 避難場所もない市街地など造るのはいかがなものか
 こんな危険なシステムを持つピラーのそばに、無防備な人口密集地など地上に設けるのはヤバすぎます(代わりに地価が安いのかしらん?)。ピラー周辺を市街化調整区域などにして、開発規制をかけるのが行政の義務というものでしょう。街を造るならせめて地下壕を設けるとか、地下都市などにすべきではなかったでしょうか。

 (2) パージするのはリニアトレイン
 パージすべきは外装ではなくリニアトレインの方でしょう。車両をピラー外に放出し、客室だけを分離してパラシュートが開くとか。。。スペースシャトルのブースターも、高度約46kmからパラシュートで回収していますし(無人ですが)。
 あるいは、せっかく『00』の世界のお話なんですから、疑似太陽炉かGNコンデンサーを積み、パージされたらGN粒子の質量軽減効果を利用して、パラシュートも組み合わせてゆるゆると降りてくるというのはいかがでしょうか?
 あと、ピラーに常駐している人のことも心配ですが、各部に脱出ポッドでも付けておいて、各々脱出してもらうということにしましょう。

 (3) ピラーは下から壊すか、そのまま倒す
 で、強度を失ったピラーはどうするかと言うと、(人の脱出後だとして)外装をパージするにしても、下からならもう少しましだったのでは?
 よくビルの解体工事などで、爆破とともにビルがズズーンと沈むように倒壊する映像を見ますよね。あれは建物内部から爆破していくそうで、下からパージされれば、あのように下に沈み込むように壊れ、パネルが飛び散る心配は少ないはずです。
 当然、地上がガレキの山になってしまいますが、ピラーの真下や周囲(東寄り)にこのガレキが収まる穴を掘っておく。軌道エレベーターは、上から引っ張り上げて支えていますから、真下を空洞にしても、原理的には問題ありません。

5. ピラーを切断する方法
 さらに、恐ろしく乱暴ですが、もっと手っ取り早いのは、中心軸はあえて切断し、自立していられない40km分のピラーを極力安全に、わざとそのまま倒してしまうことだと思います。
 あらかじめ、地上基部から東に、半径40~50kmの扇状の空き地や窪地を用意しておきます。
 ピラーには、コリオリの力で東の方へ倒れる力が働きます。さらに木こりが木の根元を斧で削って倒すように、人工的な力を加えて空き地へ誘導し、ドシーンと倒してしまうわけです。
 ただし、中がスカスカだとはいえ、高さ50kmの柱が倒れてきたら、大気を伝わる衝撃波も、倒れた振動も桁はずれでしょう。ですので、接地の直前に自爆してバラバラになるとかして極力相殺すべきなのは言うまでもありません。
 上述の「空き地」には、水を張っておくといいと思うのですが、「機動戦士ガンダム00 メカニック-1st」を見ると、アフリカタワーの近くにうってつけの場所があります(21頁)。

 ビクトリア湖です。東西300kmを超える大きさですので、ここにピラーを倒しちゃいましょう。
 これでも被害が出ることは免れないでしょう。しかしここで言いたいのは、「もしもの時はこのように壊れます」という事前の認識があるに越したことはないということです。おのずと対処もマニュアル化して、地上側でも体制が整うと思うのです。少なくとも、パネルが大陸全土に落下するよりましですし、このような壊れ方なら、周囲に限定的な市街地をつくることも可能だと考えます。
 もちろん、破壊の規模や方法によっては、どのような手段も歯が立たない「お手上げ」状態もありうるでしょう。本編はそのような位置づけなのかも知れませんが、客観的には人命尊重可能な選択があるように思えてなりませんでした。
 「倒れない」ことばかりにとらわれず、いざとなったら倒れても被害を少なく、という視点で考えることも大切ではないでしょうか。

 以上、ほんの一例ですが、思いつくままに書いてみました。協会ホームページにも書きましたが、『00』における軌道エレベーターの倒壊は、宇宙世紀のガンダムにおけるコロニー落としに並ぶ一大イベントであり、むしろ描いてくれて良かったと思っています。特にCGでパージが進むシーンは美しかったです。
 ブレイク・ピラー事件はあくまでパニックと、モビルスーツの活躍を描くための盛り上げ演出であることは理解しており、あえて無粋を承知で、色々ツッコませていただきました。しかし『00』への愛は変わりません。


参考
TVシリーズ「機動戦士ガンダム00」
小説「機動戦士ガンダム00 セカンドシーズン」③
(角川文庫)
「機動戦士ガンダム00 セカンドシーズン オフィシャルファイル vol.4」(講談社)
「機動戦士ガンダム00 300 YEARS LATER -ガンダム00が描いた300年後の世界-」(講談社)
「機動戦士ガンダム00 メカニック-1st」(双葉社)
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