北極海を眺めながら露天風呂に入ってみたい。そんな願いを叶えるべく、スカーガフィヨルズル(Skagafjörður)というフィヨルドにある、辺鄙な海岸を目指しました。まずはヴァルマフリーズ(Valmahlíð)で環状道路1号線から75号線に入り、北部アイスランドでは2番目に大きい規模を有する漁業の街ソイザゥルクロゥクル(Sauðarkrókur)を通り過ぎてから、街はずれで右折して748号線へ。この748号線は未舗装路ですが、意外と走りやすい道で、ところどころにある凸凹さえ気を付ければ60~70kmで走れます。
748号線はスカーガフィヨルズルの海岸に沿って北上します。とっても壮大な景色が広がっています。沿道の草原では多くのヤギが放牧されていました。風は強いものの、フィヨルドの海面はとっても静か。
748号線の始点から約13km辺りで目の前の視界が開け、道路が果てる平たい海岸のどん詰まりには一軒の小屋がポツンと佇んでいました。この小屋が今回の目的地。沖にはビーフのフィレステーキみたいな形状の島が浮かんでいます。この世の果てを思わせる、絵葉書のような美しい景色ですね。
748号線始点から約14km、ソイザゥルクロゥクルから約20分で、今回の目的地"グレッティスロイグ(Grettislaug)"に到着しました。レイキル(Reykir)という名前の小屋に入ると、おばさんが応対してくれ、「プールに入りたい」と申し出て500KRを支払うと、プール(露天風呂)はここからちょっと先の防波堤手前にあるから、近くまで車で行ってちょうだい、着替えはキャンプサイトの前にある黒い小屋で済ませてね、楽しんで行ってね、と笑顔で教えてくれました。この小屋では露天風呂の管理のみならず、小型船舶による沖合の周遊、宿泊、キャンプ場利用なども受け付けているそうです。
周遊船が停泊する小さな入り江。この前に車を止めます。
船着き場の手前には芝生が広がるキャンプ場が設けられており、キャンプ場利用者のためにトイレなどが建てられています。そのWCは先程おばさんが話していたように外壁が黒く、屋根には芝生が載せられていました。外壁の色やこの芝生によって周囲の景色にうまく溶け込んでいます。この芝生屋根はどうやらアイスランドの伝統的な建築様式のようでして、おそらく寒さ対策ではないかと思われます。
おばさんの指示通りにこのWCで着替えてもよかったのですが、いちいち移動するのが面倒なので、車内で済ませちゃいました。
これがお目当ての露天風呂です。砂利敷きの海岸に大小の浴槽がひとつずつあるだけの、極めてシンプルなものです。
残念ながら岩組み防波堤の阻まれて外洋は見えませんが、山の稜線や入り江が望め、周囲には他に人工物も無いため、とっても開放的です。
お風呂の傍に立っている看板には「横のBOXに料金を入れてください(でも箱は見当たらなかったけど…)、料金は500KR、8:00~23:00が入浴可能時間で、夜の入浴は禁止」と書かれていました。
まずは大きいほうの浴槽に入ってみましょう。砂利の海岸を掘っただけの簡素な構造ですが、浴槽の縁や底には岩が敷き詰められ、手すりもあって、結構ちゃんとしています。さっそく足を入れてみると、おぉ、結構温かいぞ!
温度計を突っ込んでみたら、なんと42.3℃もありました。ヨーロッパのお風呂では珍しい高温で、まさに日本人向きですね。当地を訪れてから40℃以下のぬるいお湯ばかりで、ぬるいお湯は長湯できるから良いのですが、やっぱり日本人なら熱い湯に入ってシャキっとしたいものですから、この温度に出会えてとっても幸せです。
ちなみにこの浴槽では湯面スレスレに突き出たパイプからパスカルの原理によって排湯されていますが、肝心の湯口がありません。どうしたものかと湯面を見ていたら、あちこちからプクプク泡が上がってくるではありませんか。そうなんです、ここ足元湧出なのです。湧いたばかりの新鮮なお湯に入れ、しかもその湯加減は42℃だなんて、温泉好きな日本人を歓迎しているとしか思えません。足元湧出なので当然お湯は底から上がってくるのですが、浴槽を歩いていると、たまにかなり熱い湧出点を踏むことがあり、火傷しそうになるので、ちょっと注意が必要かも。
あまりに爽快で素晴らしい湯加減だったので、テンションが上がってしまい、記念に自画撮りちしゃいました。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭(敢えて言うなら、槽内に生えている苔の匂いが少々)、目の前は海ですが、不思議なくらいに塩気が全く感じられず、どちらかといえば重曹的な知覚を有していました。pH9.3ですのでかなりはっきりとしたアルカリ性で、アルカリ&重曹という組み合わせゆえに、ツルスベの強い浴感です。槽内には苔がちょっと生えており、湯中で動くとこの破片が舞い上がりますが、気になるほどではないかと思います。
こちらは小さいほうの浴槽。私の入浴時にも何人かの訪問客がやってきましたが、熱いお湯が苦手な欧州人や子供はこちらを選んでいました。こちらも足元湧出ですが、温度は若干ぬるめの39.2℃。お湯の特徴は大きな浴槽とほぼ同一でしたが、浴槽内には苔や藻みたいなものが底にたくさん沈殿しており、ちょっと気持ち悪かったので、こちらではあまり入浴しませんでした。
浴槽横の岩組み防波堤を上ると、そこからは北極海(グリーンランド海)の絶景が広がっていました。岩は大して高くないので簡単にのぼれちゃいます。大きな浴槽は42℃ですから、長く浸かっているとやがてのぼせてきます。のぼせかかったら、この岩にのぼって海原を眺めながら体をクールダウンさせ、ちょっと寒くなってきたらまたお湯に浸かる・・・、そんなことを何度も繰り返しながら、たっぷり2時間はここでの湯あみを楽しみました。
防波堤も日本のような無機質なコンクリのカミソリ堤防やテトラポットではなく、天然の岩を積み上げたものであるため、周囲の風景にうまく溶け込んでいます。こうした景観と実用性の両立は是非日本でも実践していただきたいものです。
さて北極海を臨むこの温泉はどのくらい北極に近いのでしょうか。GPSで調べるとここは北緯65度52分(西経19度44分)であると表示されました(N65º52.934 W19º44.171)。北極線は北緯66度33分ですから、その差は41分、1分は約1.85kmですから、北極圏まではわずか76km弱ということになります。しばしば北極圏観光の際に利用されるアラスカのチナ温泉リゾートは北緯65度03分ですから、今回訪れたグレッティスロイグの方が北極に近いわけです。では、このグレッティスロイグは世界最北の温泉のなのかといえば、残念ながらアイスランド国内にはまだ北に位置する温泉があるらしく、西部フィヨルドの"Nauteyrarlaug"(N65°55.031, W22°20.505)や北東部のHúsavíkにある"Ostakarið"(N66º03.324, W17º21.079)などはいずれもグレッティスロイグより北で湧出しています。次回のアイスランド訪問時には絶対に両方とも制覇してやる!
それはともかく、このグレッティスロイグは温泉にうるさい日本人でも十分満足できる素晴らしい露天風呂でした。おすすめです。
"Enjoy Iceland"内の紹介ページ
地図
8:00~23:00
500KR
浴槽のみで各種備品類は一切なし
748号線はスカーガフィヨルズルの海岸に沿って北上します。とっても壮大な景色が広がっています。沿道の草原では多くのヤギが放牧されていました。風は強いものの、フィヨルドの海面はとっても静か。
748号線の始点から約13km辺りで目の前の視界が開け、道路が果てる平たい海岸のどん詰まりには一軒の小屋がポツンと佇んでいました。この小屋が今回の目的地。沖にはビーフのフィレステーキみたいな形状の島が浮かんでいます。この世の果てを思わせる、絵葉書のような美しい景色ですね。
748号線始点から約14km、ソイザゥルクロゥクルから約20分で、今回の目的地"グレッティスロイグ(Grettislaug)"に到着しました。レイキル(Reykir)という名前の小屋に入ると、おばさんが応対してくれ、「プールに入りたい」と申し出て500KRを支払うと、プール(露天風呂)はここからちょっと先の防波堤手前にあるから、近くまで車で行ってちょうだい、着替えはキャンプサイトの前にある黒い小屋で済ませてね、楽しんで行ってね、と笑顔で教えてくれました。この小屋では露天風呂の管理のみならず、小型船舶による沖合の周遊、宿泊、キャンプ場利用なども受け付けているそうです。
周遊船が停泊する小さな入り江。この前に車を止めます。
船着き場の手前には芝生が広がるキャンプ場が設けられており、キャンプ場利用者のためにトイレなどが建てられています。そのWCは先程おばさんが話していたように外壁が黒く、屋根には芝生が載せられていました。外壁の色やこの芝生によって周囲の景色にうまく溶け込んでいます。この芝生屋根はどうやらアイスランドの伝統的な建築様式のようでして、おそらく寒さ対策ではないかと思われます。
おばさんの指示通りにこのWCで着替えてもよかったのですが、いちいち移動するのが面倒なので、車内で済ませちゃいました。
これがお目当ての露天風呂です。砂利敷きの海岸に大小の浴槽がひとつずつあるだけの、極めてシンプルなものです。
残念ながら岩組み防波堤の阻まれて外洋は見えませんが、山の稜線や入り江が望め、周囲には他に人工物も無いため、とっても開放的です。
お風呂の傍に立っている看板には「横のBOXに料金を入れてください(でも箱は見当たらなかったけど…)、料金は500KR、8:00~23:00が入浴可能時間で、夜の入浴は禁止」と書かれていました。
まずは大きいほうの浴槽に入ってみましょう。砂利の海岸を掘っただけの簡素な構造ですが、浴槽の縁や底には岩が敷き詰められ、手すりもあって、結構ちゃんとしています。さっそく足を入れてみると、おぉ、結構温かいぞ!
温度計を突っ込んでみたら、なんと42.3℃もありました。ヨーロッパのお風呂では珍しい高温で、まさに日本人向きですね。当地を訪れてから40℃以下のぬるいお湯ばかりで、ぬるいお湯は長湯できるから良いのですが、やっぱり日本人なら熱い湯に入ってシャキっとしたいものですから、この温度に出会えてとっても幸せです。
ちなみにこの浴槽では湯面スレスレに突き出たパイプからパスカルの原理によって排湯されていますが、肝心の湯口がありません。どうしたものかと湯面を見ていたら、あちこちからプクプク泡が上がってくるではありませんか。そうなんです、ここ足元湧出なのです。湧いたばかりの新鮮なお湯に入れ、しかもその湯加減は42℃だなんて、温泉好きな日本人を歓迎しているとしか思えません。足元湧出なので当然お湯は底から上がってくるのですが、浴槽を歩いていると、たまにかなり熱い湧出点を踏むことがあり、火傷しそうになるので、ちょっと注意が必要かも。
あまりに爽快で素晴らしい湯加減だったので、テンションが上がってしまい、記念に自画撮りちしゃいました。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭(敢えて言うなら、槽内に生えている苔の匂いが少々)、目の前は海ですが、不思議なくらいに塩気が全く感じられず、どちらかといえば重曹的な知覚を有していました。pH9.3ですのでかなりはっきりとしたアルカリ性で、アルカリ&重曹という組み合わせゆえに、ツルスベの強い浴感です。槽内には苔がちょっと生えており、湯中で動くとこの破片が舞い上がりますが、気になるほどではないかと思います。
こちらは小さいほうの浴槽。私の入浴時にも何人かの訪問客がやってきましたが、熱いお湯が苦手な欧州人や子供はこちらを選んでいました。こちらも足元湧出ですが、温度は若干ぬるめの39.2℃。お湯の特徴は大きな浴槽とほぼ同一でしたが、浴槽内には苔や藻みたいなものが底にたくさん沈殿しており、ちょっと気持ち悪かったので、こちらではあまり入浴しませんでした。
浴槽横の岩組み防波堤を上ると、そこからは北極海(グリーンランド海)の絶景が広がっていました。岩は大して高くないので簡単にのぼれちゃいます。大きな浴槽は42℃ですから、長く浸かっているとやがてのぼせてきます。のぼせかかったら、この岩にのぼって海原を眺めながら体をクールダウンさせ、ちょっと寒くなってきたらまたお湯に浸かる・・・、そんなことを何度も繰り返しながら、たっぷり2時間はここでの湯あみを楽しみました。
防波堤も日本のような無機質なコンクリのカミソリ堤防やテトラポットではなく、天然の岩を積み上げたものであるため、周囲の風景にうまく溶け込んでいます。こうした景観と実用性の両立は是非日本でも実践していただきたいものです。
さて北極海を臨むこの温泉はどのくらい北極に近いのでしょうか。GPSで調べるとここは北緯65度52分(西経19度44分)であると表示されました(N65º52.934 W19º44.171)。北極線は北緯66度33分ですから、その差は41分、1分は約1.85kmですから、北極圏まではわずか76km弱ということになります。しばしば北極圏観光の際に利用されるアラスカのチナ温泉リゾートは北緯65度03分ですから、今回訪れたグレッティスロイグの方が北極に近いわけです。では、このグレッティスロイグは世界最北の温泉のなのかといえば、残念ながらアイスランド国内にはまだ北に位置する温泉があるらしく、西部フィヨルドの"Nauteyrarlaug"(N65°55.031, W22°20.505)や北東部のHúsavíkにある"Ostakarið"(N66º03.324, W17º21.079)などはいずれもグレッティスロイグより北で湧出しています。次回のアイスランド訪問時には絶対に両方とも制覇してやる!
それはともかく、このグレッティスロイグは温泉にうるさい日本人でも十分満足できる素晴らしい露天風呂でした。おすすめです。
"Enjoy Iceland"内の紹介ページ
地図
8:00~23:00
500KR
浴槽のみで各種備品類は一切なし