私はあまり鉱泉の沸かし湯を好かないのですが、千葉県の房総半島には個性的な鉱泉があちこちに点在していると聞いたので、食わず嫌いをやめて行ってみることにしました。今回の行先は君津市の上総亀山周辺です。地元の観光協会では上総亀山に湧く3ヶ所の温泉を「参温泉」と称してアピールしており、上画像のようなパンフレットを作成していますので(パンフなのになぜか有料50円)、これを参考に3ヶ所すべて巡ってみました。まずはじめは温泉ファンの間で隠れた人気を有する七里川温泉です。
当地へのアクセスには自家用車や高速バスが便利ですが、私はあえてJR久留里線で終点の上総亀山を目指しました。
動労千葉のストライキによる運休が毎春の風物詩のようにもなっているこの久留里線は、その動労の影響なのかわかりませんが、とても東京近郊とは思えないほどローカル感の強い非電化路線で、国鉄時代の気動車がいまどき珍しいタブレット閉塞によってのんびり走っています。また軌道回路が無いため、車両にGPSを積ませることによって、運転指令が列車の位置を把握するという新旧渾然としたスタイルも、この路線ならではの特徴。
往路に乗った列車はキハ37とキハ38の2両編成。いずれも現在では久留里線でしか見られない車両ですね。キハ37には後付けの冷房が搭載されていますが、八高線からのお下がりのキハ38は21世紀の今日でも非冷房を貫き通しているので、猛暑にもかかわらず今回は敢えて非冷房のキハ38へ乗車し、窓を全開にして昔懐かしい列車の風情を堪能しました。昔は冷房がある車両の方が珍しく、みんな夏になると窓を全開にしていたもんです。車窓には夏空と青田が広がり、稲の青い匂いが車内に入ってきます。一部の早生の田んぼでは既に穂がこうべを垂れていました。列車の速度はMAXでも40km/h程度。頑張れば自転車でも追い抜けそうなほど緩慢なスピードです。
しかしながら、この久留里線も今年度の特殊自動閉塞化を皮切りに、ATS-P導入、キハE130による車両更新などが予定されており、昔ながらの鉄道風情も風前の灯となっているんだそうでして、その情報を耳にしたからこそ、今回は久留里線のお世話になったわけです。
木更津から1時間強で終点の上総亀山に到着。一応有人駅です。
駅前からは君津市コミュニティーバスに乗り換えます。便によっては七里川温泉まで行くバス(「風っ子号」)もあるのですが、たまたまこの時は七里川温泉行が来ない時間帯だったので、その手前まで行く黄和田車庫行(「せせらぎ号」)に乗ることのしました。バスといっても車幅の広いハイエースです。料金は200円均一。おつりはないので事前に小銭を用意しておきましょう。運転手さんに支払方法を聞くと「先払いでも後払いでもどちらでもいいですよ」とのこと。なんて長閑なんでしょう。乗客は私と地元のお爺さんの2人だけ。
駅から約15分で終点の黄和田車庫に到着。路線バスの車庫というより、昭和30年代からそのままのガレージや、あるいは納屋という感じがします。バス停から夏空のもとを先へ進みます。なおこの道は単なる田舎道ではなく、れっきとした国道465号線なのであります。
途中の分岐を右へ曲がって県道81号「清澄養老ライン」へ。
清澄養老ラインの沿道には今時珍しい現役の炭焼き小屋がありました。
黄和田車庫から歩いて10分ちょっとで七里川温泉につきました。正面では番をしているおとなしいワンコがお出迎え。
玄関脇には非加熱の源泉が流されているお湯汲み場があり、デカいボトルを手にしたお客さんが次から次へと汲んでいます。白い綿状の付着物がユラユラしていることからもわかるように、鉱泉水からはゆで卵の黄身みたいな匂いと味、そして弱い苦みとえぐみが感じられました。浴用のために加温するとこれらの知覚は若干弱くなりそうですが、匂い味とも強いので、お風呂での浴感も期待できそうです。
玄関には客の靴が散乱しており、玄関ホールに設置された炉端から上がる煙のため館内は朦々としています。昼間から酒と炉端焼きですっかり出来上がった客が、ロビーの椅子にけだるそうに腰かけており、私のような一見さんはたちまち不安に駆られるような、ちょっとハードルが高そうな雰囲気が漂っています。
ただでさえ狭い廊下にいろんな食品(売り物)が陳列されているので余計に狭く、とても雑然とした館内です。その廊下の途中にロッカーあり。廊下の奥にはカラオケルームがあるらしく、ダミ声のおばちゃんが欧陽菲菲の『ラヴ・イズ・オーヴァー』を大音響で唄っていました。1曲100円らしい…。食堂手前を右に曲がって階段を上がります。
階段の上には「天然硫黄泉 源泉かけ流し湯」と誇らしげに記されています。
玄関や廊下の雑然さから想像するに、脱衣所も惨憺たる状況かと覚悟していたのですが、いざ入ってみると意外にもシンプルでごくごく普通の造りでした。衣類や荷物は籠に入れます。
まずは内湯へ。洗い場にはシャワー付き混合栓が4基。ボイラーが古いのか、カランから出てくるお湯はやや重油臭い感じがします。浴槽は平行四辺形で5~6人サイズ、浴槽内は手前と奥の長辺サイドにそれぞれ段が設けられています。お湯はわずかに黄色を帯びた透明で、ゆで卵の黄身のような味と匂いが明瞭です。湯口の金属バルブは硫化して真っ黒に変色していました。加温されているものの、浴槽の切り欠けからしっかり放流されており、間違いなくかけ流しです。館内表示によれば加温以外、加水・消毒・循環いずれも該当なしとのこと。なお浴感はツルスベでも引っかかりでもない、あまり特徴のないものでした。
露天風呂へは脱衣所を経由し、階段を上って向かいます。
露天風呂の浴槽は2つあり、いずれも四阿がかけられています。画像は手前側の浴槽です。この浴槽に張られたお湯は内湯と異なり黄色が強い透明で、匂い味ともに特徴はなく、タマゴ感が全く感じられなかったのですが、それもそのはずで、これは鉱泉ではなく、井水を沸かしたものなんだとか。
もうひとつの浴槽には内湯同様、タマゴ感を帯びた源泉が使用されています。本当はこちらの画像も撮影したかったのですが、さすがに源泉使用のお湯は人気があって常に何人か入浴しているため、全く撮影できるタイミングに恵まれませんでした。露天源泉槽は4人サイズ、赤茶色のタイル貼りですが縁は木材が用いられています。かすかに白濁しているようにも見えるお湯は、長湯向きの湯加減で、竹の湯口から加温源泉が投入され、縁の切り欠けからちゃんとオーバーフローしています。
訪問時にいた先客の常連さんは四街道から通っているそうで、なんと5時間近くもここで湯浴みしているんだとか。その常連さんに「ここにはヤマビルがいるから気をつけな」と脅かし文句で手荒い歓迎を受けながら、私も入浴仲間に加えてもらいました。いまは浴槽前に板塀が立って視界が遮られているが、かつては何もなく、とても眺めがよかったんだそうです。とはいえ現状でも付近の山々の稜線がはっきり眺められ、開放感も良好、とても静かでいい雰囲気です。
私は平日に訪れたのですが、週末になると大混雑でイモ洗い状態になるんだそうです。この時でもかなり多くのお客さんがいましたから、休日はどうなってしまうんでしょう…。
内湯も露天もなかなか良い雰囲気で、お湯も千葉県にしてはかなり良質。しかも沸かし湯なのに放流式の湯使いを実現しているのは立派です。玄関や廊下・食堂まわりの雑然とした雰囲気さえなければ、皆さんにお勧めしたいところなんですが…。
温泉法上の温泉(温泉法第2条別表の総硫黄とメタケイ酸と炭酸水素ナトリウムの項による)
16.0℃ pH7.9 /min(動力揚水) 溶存物質0.69g/kg 成分総計0.69g/kg
ナトリウムイオン152.0mg/kg(74.63mval%)、炭酸水素イオン272.9mg/kg(51.12mval%)、硫化水素イオン1.1mg/kg(0.31mval%)、チオ硫酸イオン0.5mg/kg(0.10mval%)、遊離硫化水素0.2mg、メタケイ酸61.2mg/kg
JR久留里線・上総亀山駅から君津市コミュニティーバスの「風っ子号」で終点「七里川温泉」下車(「せせらぎ号」黄和田車庫行でもOK。その場合は当ページの上述参照)
千葉県君津市黄和田畑921-1 地図
0439-39-3211
9:00~22:00 第1・3水曜定休
800円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★