温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

アイスランド ミーヴァトン・ネイチャーバス(Myvatn Nature Baths)

2011年08月14日 | アイスランド
 
アイスランドの温泉といえば、世界最大の露天風呂「ブルーラグーン」が超有名ですが、北アイスランドにもこれに勝るとも劣らない立派な観光客向けの露天風呂があると聞き、行ってみることにしました。その名もミーヴァトン・ネイチャーバス(Myvatn Nature Baths)。実にストレートなネーミングです。なおアイスランド語では"Jarðböðin við Mývatn"と表記するんだそうでして(私にゃ読めませんけど…)、道路の標識もこの現地語で表記されていますから、自分で行かれる方はそのことを念頭に置かれるとよいかと思います。
場所はミーヴァトン湖畔の観光拠点レイキャフリーズ(Reykjahlíð)から1号線を東進し、約2.7km進んだら丁字路を右折、未舗装の路地を南下してゆけば、その突き当たりが目的地です。1号線の丁字路には上に出したロゴがプリントされた小さな標識が立っていますので、それを見逃さないように。レイキャフリーズから大した距離じゃありませんから、当地の宿泊施設などで自転車を借りてサイクリングしても良いかと思います。

 
不毛な溶岩地形の丘の上に位置するこの露天風呂は、2004年6月に開業した比較的新しい施設で、界隈では屈指の観光名所になっており、訪問時にも駐車場にはたくさんの車がとまっていました。ガラスを多用した建物は明るく開放的で、内部にはカフェテリアも併設されています。

 
駐車場と露天風呂の境には、このような円形の源泉施設があり、熱湯を湧出させながら、濛々と白い湯気を上げていました。地下2500mから汲み上げているんだそうです。


(↑クリックで拡大)
レセプションで料金を支払うとコインを1枚受け取ります。このコインを手にして更衣室へ。
なおレセプション前にはお土産が陳列されていますが、品揃えはそんなに多くありません。でもその中で注目すべきは、無料でもらえる日本語リーフレット。紙面ではこの温泉に関する説明が述べられています。アイスランドでは滅多に日本語を目にしないため、とっても貴重な存在です。ここで記されている内容を要約してみると…

・湯温は36~40℃で安定。
・含有ミネラルが温泉内の不衛生なバクテリアや藻の発生を生育を妨げるので、衛生管理のために化学的な薬剤を使う必要がないのが自慢。
・主要ミネラルを含んでいるので薬効がある。硫黄分を含んだ源泉は喘息や老人性の疾患に良いとされており、ある種の微量元素は肌の疾患に効き目あり。
・湧出口は3か所あり、それぞれ常時50人ほどの客が楽しめる。いずれも地下から垂直に湧出する清潔で汚染されていない源泉である。
・ミーヴァトンの人々は10世紀の植民開始当初より、健康管理と増進のために温泉浴に親しんできた。

などなど。ご覧いただければわかりますが、外国によくある不自然な日本語ではなく、ちゃんとした言葉使いですので読みやすく、また簡潔にまとめられているので、入浴前に一読すると、理解を深めながら湯あみすることができるかと思います。

男女別の更衣室は、まず入口で靴を脱いでから室内へ。客の多さの割にはスペースが狭く、ロッカーは自分の好きな場所を使うことができるのですが、この時はほぼすべてが使用中でして、私はかろうじて残りのひとつを確保することができましたが、後客はロッカーが使えずに途方に暮れていました。なお受付でもらったコインはロッカーの施錠の際に使用します。ロッカー扉の裏にある投入口にコインを入れることにより、鍵が回せる(施錠可能な)状態になります。鍵を開けると返却口にコインが戻ってきますので、何度でも施錠と開錠が可能。帰るときは返却口にコインを置きっぱなしにしておけば、係員さんが定期的に回収してくれます(コインは置きっぱなしにしておいて、という注意書きがあります)。
ロッカーのみならず、シャワーの数も少なく、シャワー前には全裸のお客さんが行列をなしていました。ロッカールームとシャワールームとの間は仕切りがなく床がフラットなので、ロッカールームの床はビショビショ。この国に限らずこうした状況は海外でよく遭遇しますが(台湾はその典型)、その点、入浴文化先進国の日本(やドイツ・オーストリア)はちゃんとしているなぁと感心させられます。
後で知ったのですが、さすがに施設側もこの混雑を放置しているわけではないようでして、メイン棟の下足場から一旦露天風呂側へ出た左側にも別棟のシャワールームが増設されており、そこでも着替えができるようです。

 
おお! 更衣室を出ると目の前には溶岩台地の上に青白く濁ったお湯を湛える広大な露天風呂が広がっていました。本当にデカい! お風呂だけで5000㎡もあるんだとか。露天風呂は3つあり、一番手前はちいさくて目立たず、あまりお客さんもいない模様。3つあるうちで一番湯温が高いため、日本人向きではありますが、欧米人にはちょっと熱すぎるみたいです。中央は36~7℃くらいの長湯向けで、ここにみなさん集中しています。見晴らしの良い奥の浴槽は、広さも一番の規模なのですが、ぬるすぎるためか、ガキンチョお子様以外はあまり利用していませんでした。

 
↑左(上)画像は中央の浴槽から建物を撮った様子。画像ではほとんど移っていませんが、露天風呂のプールサイドには長方形のホットタブがあり、こちらにも白濁の温泉が引かれ、温度も40℃以上あるので、しっかり温まりたい人はこちらをどうぞ(でも結構小さくて、同時に10人入れるかどうか)。またサウナも完備。夏でも外気温度が15℃ありませんから、ホットタブやサウナなど、しっかり温まれる設備はありがたいです。

 
こちらは湯口。火傷しそうになる程かなり熱いお湯が大量に出てきますので、あまりこの付近には近寄らないように。常時熱いお湯が出ているわけではなく、熱かったりぬるかったりと、出てくるお湯の温度にはムラがありました。おそらく人為的に温度管理をすべく、そのような出方をしているのではないかと思います。
浴槽はコンクリや木材、石材などの建材で固められているわけではなく、単に溶岩の土地を掘ってお湯を貯めているだけ、といった感じで、これも敢えてそうすることによって自然な感じを醸し出しているんでしょう。従いまして、整備されていない湯口周りのプールサイドを裸足で歩くと、トゲトゲの溶岩が足の裏に刺さって歩きづらいんです(勿論脱衣所側のプールサイドは歩きやすく整備されていますよ)。また泉質由来のヌルヌルが底に付着しているため、けっこう滑りやすいので、その点もご注意を。

お湯は上述の通り、青白くきれいに濁っており、透明度は50~60cmといったところでしょうか。ツルツルスベスベ感がとても強い気持ち良い浴感で、リーフレットにも書かれていたように、たしかにお肌にはとっても良さそうです。湯面からは硫黄の香りが漂い、とりわけ湯口付近では刺激のある硫化水素臭が感じられます。口に含むと苦みが強く、いつまでも口腔内に残る苦さと渋みが印象的で、これに焦げたような味も若干加わります。

中央の露天の湯加減は先に述べたとおり不感温度帯である36~7℃くらいなので、いつまでも長湯していられます。本当に気持ち良い! 私も2時間ほど入りっぱなしでした。他のお客さんもじっとお湯に浸かって、瞑目しながら静かにリラックスしていました。不感温度帯のお湯は日本人にはぬるく感じてしまうかもしれませんが、この温度のお湯に長く使っていると、副交感神経が働き、精神・神経がリラックスするのみならず、身体の自己回復力も増進されるので、心身の健康にはとっても良いのです。余談ですが、日本人はお風呂が大好きですが、その割には熱いお湯を好む傾向にあり、熱いお湯は交感神経が働いてしまうので、心身の緊張状態を招いていることになります。日本人は温泉資源に恵まれていながら、それをうまく活用していないような気がしてなりません。

ま、私の余計な薀蓄と私見はともかく、このお風呂は本当に気持ちよく爽快でした。北アイスランド訪問の際には、入湯必須です。冬でも夜10時まで営業しているので、運が良ければ露天風呂に浸かりながらオーロラを鑑賞できるかもしれませんね。


6月1日~8月31日→9:00~24:00(最終受付23:30)
9月1日~5月31日→12:00~22:00(最終受付21:30)
大人2500kr、12~15歳1000kr、11歳以下無料
レンタルタオル・水着:各500kr
ホームページ

所在地: Jarðbaðshólar  地図
電話:+354-464-4411
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アイスランド グリョゥタギャウ(Grjotagja) 洞窟温泉

2011年08月14日 | アイスランド
地球の表面はいくつものプレートに分かれており、このプレートが少しずつ動いていることは皆さまご存じの通りです。世界の最高峰ヒマラヤ山脈はユーラシアプレートにインド・オーストラリアプレートが沈み込んだことによる造山運動があのような高い山々を生み出したのであり、また、先日の東日本大震災におけるM9.0の東北関東太平洋沖地震は、北米プレートに太平洋プレートが沈み込む際に蓄積していたひずみが地震発生の原因になりました。
4つの大きなプレートが集中する日本は海洋プレートが沈降する場所ですが、アイスランドはその逆でして、島の中央で地中から大西洋中央海嶺が盛り上がり、北米プレートとユーラシアプレートがパックリ二つに分かれてゆく、地球の裂け目が現れている場所であります。この地球の裂け目の代表例が世界遺産にもなっているシングヴェトリル国立公園ですが、北アイスランドの観光名所集中地域であるミーヴァトン湖周辺にも地球の裂け目を幾筋か見ることができ、その中の一つが今回取り上げるグリョゥタギャウ(Grjótagjá)です。ここには、単に裂け目があるだけでなく、神秘的で素敵な温泉が存在しているらしく、どんなところか自分の目で確かめるため、行ってみることにしました。


ミーヴァトン湖畔の観光拠点の街レイキャフリーズ(Reykjahlíð)から環状道路1号線を東進し、約2kmで右折して未舗装路の860号線に入ります。辺りは地熱の噴気地帯なので、車窓にはところどころで白い蒸気が上がる様子が望めます。道なりに走って2km程進むと、やがて駐車スペースが確保された広場に到着。道の右側には岩の長い壁がずっと向こうへ続いています。まずはここに車をとめてこの岩の上に登ってみましょう。なおここへは車で無くとも、レイキャフリーズから平坦な遊歩道を約2km歩いても辿りつけます。

 
上に登ると、岩がパックリと二つに裂けており、その裂け目が延々と続いています。これこそ地球の裂け目なんですね。地中深くから盛り上がったマグマのパワーがここで二手に分かれ、それぞれ北米プレートとユーラシアプレートとなって少しずつ移動してゆくわけです。ここに立つと地球の神秘に立ち会えたような気がします。

 
常日頃から自己嫌悪に陥っている私は、いつもは自画撮りが大嫌いなのですが、この時は思わず興奮してしまい、地球の裂け目に跨って記念撮影してしまいました。三脚を立てて構図に迷っている私を見かね、ご親切にカメラのシャッターを切ってくださったイタリア人のおばさま、ありがとうございました。なお、これら写真で私は北を向いており、左足(画像右側)は北米プレートに、右足(画像左側)はユーラシアプレートに、それぞれ立っていることになります。
ちなみに、ここで分かれた北米プレートとユーラシアプレートは一体どこで邂逅するのでしょうか。その場所こそ我が日本列島なのであります! 糸魚川静岡構造線で有名なフォッサマグナが両者の境界に当たるんだそうです(糸静線はその西側の縁)。つまりグリョゥタギャウは遠い日本と決して無縁ではないのです。

 
さて、ここでの目的は裂け目を見学することだけではありません。駐車スペースの真ん前に位置する岩の下にはこんな穴が口を開けています。ちょっと中に入ってみましょう。なお傍に立てられている札には落石危険の注意喚起が書かれています。たしかに岩が今にも崩れてきそうな状況ですから、ここから先の行動は自己責任で。

 
岩の口の下には洞窟が広がっており、そこにはコバルトブルーの水が湛えられています。とっても神秘的な雰囲気です。この洞窟内はけっこう蒸し暑く、なぜそのような状況なのかといえば、このコバルトブルーの水に原因がありました。


洞窟内のコバルトブルーの水はなんと温泉なのであります。湯温を計測すると45.3℃。入浴できないこともないのですが、ちょっと熱いですね。洞窟内のお湯をじっと観察していると、どうやら北から南へゆっくり流れているようです。もし源泉が北にあり、そこから単純に流下しているのであれば、下流の方が温度が下がっているはず。そこで、この穴での入浴は諦め、別の場所を探してみることにしました。


駐車スペースから数十メートル南へ移動すると、別の洞窟の穴が開いていました。先ほどの穴は見学する観光客の姿が多いのですが、わずか数十メートル離れただけなのに、こちらの穴には誰も訪れようとしません。ではさっそく中へ。

 
この洞窟内にもコバルトブルーの綺麗なお湯が溜まっていました。明らかに先ほどの洞窟から流れてきているようです。外の光が入ってくるので洞窟といえどもあまり暗くなく、しかも広い空間が広がり、絶妙な岩の配列により、湯面下が段々になっていて、少しずつ安全にお湯に入りやすい構造になっていました。まさに自然の妙であります。

 
温度は43.5℃でした。予想通り、先ほどの穴よりは温度は下がって、日本人には入浴しやすいコンディションとなっています。ついでにpHも計測したら7.8でした。アルカリ泉の多いアイスランドにしては珍しく中性です。この穴にはあまり観光客が来ないので、人目を気にせず行動できるのも嬉しいところ。良い湯加減であることが確認できたので、水着に着替えて入浴してみることに。


最高! その一言に尽きます。日本にも洞窟風呂と称するものはありますが、そのほとんどは人工か、あるいは崖の下を無理やり洞窟に見立てている代物が殆どです。でも、ここは正真正銘の洞窟、しかも地球の裂け目でもあるのです。こんな温泉は他にありますでしょうか。
お湯はやや暗い感じの神秘的な青色透明で、肉眼ではそれほどでもありませんが、ご覧頂いているように画像に写すと外の光の影響で綺麗なコバルトブルーに発色します。芒硝的な匂いとともに、何かが焦げたような香ばしい匂いが漂い、味はほぼ無味。上述のように中性のお湯で、浴感にはあまり特徴はありません(ツルスベでも引っかかるわけでもない)。私がお湯に入ると湯面は小さく波立つのですが、それが岩の隙間に入ると、波と岩がぶつかって独特の音が洞窟内に反響し続けます。色、雰囲気、音、そして地理的特徴、その全てがこの上なく幻想的である、素晴らしい温泉です。


地図  GPSコード:N65°37.586, W16°52.949
無料 野湯につき何らの備品もありません
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