温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

アイスランド クヴェラヴェトリル(Hveravellir)温泉、そしてF35号キョルル(Kjolur)走破

2011年08月11日 | アイスランド
今回の旅行で大いに参考にさせていただいたのが「アイスランド観光文化研究所」。このサイトを読んでいればガイドブックなんて買う必要もないように思われるほど詳細な説明が記述されているのですが、内陸部に関する箇所を読んでみると、

人間の居住を一切赦すことのないアイスランド内陸部ハイランド地帯への旅行は、決して忘れることのない経験になるだろう。氷河と、樹木のまったくない山々を背景に、荒涼とした砂漠と緑の草地、そして広大な溶岩大地が織りなすコントラストが地の果てまで続く。無機的な世界に滝や露天の温泉が砂漠の中のオアシスのようにアクセントを添えている。
しかし、この壮大な自然は多くの危険をも含んでいる。ガイドを伴わないこのエリアへの旅行には、事前の十分な情報収集と準備が要求される。極一部の地帯を除いて、内陸部の山道は橋のない川がほとんどで、ごつごつした砂礫地帯が多く、一般の乗用車や平地用のバスでも入り込むことはできない。44インチ(約145cm)もの大きな車輪を装備した4WDのスーパージープやマウンテンバスのみが進入を許されるのだ

というように、はじめに誘惑しておきながら、後半で脅かすような警告の文言が並べられており、行ってみたいけど一人じゃ不安で無理なのかもしれないと、旅行計画時には内陸部への立ち寄りを半分諦めておりました。しかしこの文章を読み進んでゆくと、F35号「キョルル(Kjölur)」というルートに関しては、

このルートの途中には川や滝があるが、橋梁が施されている現在では大概の車輌での通行が可能である。

という一文が記されているではありませんか。私が借りる車はSUVですから、余程ひどい天気でなければ多分大丈夫だろうと判断し、実際に走破してみることにしました。なぜこのルートを選んだのかといえば、魅惑の内陸部を走行しながら南部から北部へ短絡できることのみならず、途中にクヴェラヴェトリル(Hveravellir)という温泉があって露天風呂で入浴できるからなのです。


【9:00 ロイガルヴァトン(Laugarvatn)付近の農家民宿"EfstiDalur"出発】
(地図)

この宿については既に記事にしていますので、宜しければこちらをご覧ください。

【9:10/30 ゲイシールの売店】

開店まもない売店にてお昼用のサンドウィッチやジュース・水などを購入。F35号を北上する際、もし給油が必要ならば、ここが最終のGSです。


ゲイシールやグトルフォスなど、ゴールデンサークルの名所を通過。運転席からちらっと見たら、まだ朝早いので観光客の姿もまばらです。
まだこの辺りの35号はちゃんと舗装された道なのですが・・・

【9:45 未舗装路突入】

グトルフォスから数キロ北上したあたりで遂に未舗装路となりました。ここから約190kmにわたる長距離ダート走行のはじまりです。


辺り一帯は生命の息吹がほとんど感じられない、礫ばかりが広がる荒涼としたモノトーンの大地。その中でニョロニョロと蛇のような筋を描いているのがF35号。道路というより、礫砂漠の上の轍を踏み固めただけ、といっても過言ではないような感じ。


この日は朝から生憎の雨天。舗装路なら問題なく走れますが、砂利道は当然ながら路面が泥濘と化し、凸凹だらけの道路には水たまりが連続するため、泥しぶきを浴びて車体はたちまち全身泥パック状態になってしまいました。
しかも標高が高くなるにつれて、雨雲の中に突っ込むような形になり、濃霧のため視界が悪くなっていくばかり。この時点で半分泣きそうな私。にもかかわらず、ミラーを覗くと、後ろから一台の車が「テメェ遅ぇんだ、とっととどけよ」と言わんばかりに車間を詰めて煽ってくるではありませんか。視界不良のため後続車に譲るポイントがなかなか見つけられず、しばらく煽られ続けながら、ようやく適当な場所を見つけて退避したのですが、なんとその車はSUVでもジープでもなく、スバルのインプレッサでした。インプ乗りはどこでもアグレッシブな人が多いみたい…。
なお、この辺りで一か所、渡河地点がありました。でも川幅は狭いので、大して気にはなりませんでした。


【10:15/30 氷河湖クヴィータゥヴァトン(Hvitarvatn)】
(地図)
 
しばらく走っているうち、霧がたまに薄くなると左手に乳白色の湖が見えてきました。「アイスランド観光文化研究所」によれば、

左手にヨーロッパで2番目に大きなラングヨークトル氷河(950平方㌔)が創り出した氷河湖クヴィータゥヴァトンへ到着。湖の西にはアイスランドで2番目に大きい氷河ラングヨークトル(標高1355m)が聳え、湖にはラングヨークトル氷河から崩れ落ちた氷塊が漂う。湖の傍には平らな草地クヴィータゥルネスが広がる。ここにはツーリスト用のハットがあり休憩がとれる。

とのことですので、避難小屋の前に車を止めて辺りを歩いてみましたが、この天気じゃ何らの眺望も得られませんでした。晴れていればきっと湖の向こうに美しい氷河を望めたに違いありません。景色を楽しみにしていたので残念です…。私は雨男だから仕方ないかぁ。


車に戻って北上を再開。人家なんて皆無、草すら生えない不毛の荒れ地が果てしなく広がっています。月面ってこんな感じなのかしら…。日本では決して出会えない景色ですね。雨が降っているのに植物が自生できないのは、この大地を覆っているのは目の粗い礫ばかりであり、雨水が礫の隙間から急速に地中深くへ入り込んでしまうため、地表付近で水分を保持できないからなんだそうです。


でも所々で草が生えている個所もあり、そこではヤギが草をはんでいました。こんな荒れ地で生きていけるんですから、相当鍛えられた屈強なヤギなんでしょうね。

 
荒野の中をひたすら北上。お昼に近づくにつれ、徐々に霧が薄くなり、雨脚も弱くなって、天候が回復基調になってきました。画像では道路の幅員は狭隘であるかのように見えますが、実際にはSUV程度ならちょっと気を付ければ問題なくすれ違えるほどの幅が確保されています。ただしバスなどの大型車両が相手ですと徐行あるいは一時停止を余儀なくされるかも。


【11:45 クヴェラヴェトリル(Hveravellir)到着】
地図

ちゃんと前進できているのか、もしかしたら同じところを堂々巡りしているのではないかと疑わしくなるほど、似たような不毛の荒野がひたすら続く道を走っていると、グトルフォスから約90kmの地点で前方に突如として三叉路が現れ、その真ん中には黄色い道しるべが立っていました。右へ折れるとこのままF35を北上して1号線のアークレイリー方面へ、左はクヴェラヴェトリル(Hveravellir)へ、とその道しるべは示していましたので、ここを左折します(というか直進に近い感じ)。
分岐から数キロ西へ走るとやがて小屋が目に入ってきます。ここが今日の第一目的地であるクヴェラヴェトリル。小屋には軽食コーナーの他、トイレ(有料)があります。到着したのがちょうどお昼時だったので、小屋の中はランチを求める観光客でギッシリ。

さて私がここを訪れた目的はただ一つ、温泉露天風呂(現地ではpoolと表現されています)に入ることです。入浴は有料で、300KRを軽食コーナーにて支払います。なお300KR支払えば入浴の他、トイレも利用可なんですが、あくまで自己申告制ですから、特にトイレに関してはちゃんと支払っている人がはたしてどれだけいただろうか…)。

 
この一帯は国内屈指の地熱地帯となっており、いわゆる日本の地獄谷のような感じで、あちこちから熱湯がボコボコと湧いています。温泉ファンとしては、いきなりお風呂に入るのではなく、その源泉を自分の目できちんと見ておきたいので、早く入浴したいという心を抑え、まずは地熱地帯を見学することにしました。
看板の下には自転車が停めてありますが、あのF35を自転車で走破する屈強な人間が意外と多いんです。山がちな日本では考えられないほどヨーロッパではサイクルスポーツが盛んでして、私も以前ドイツやオーストリアなどで人里から遠く離れた田舎を運転中に、小学校低学年と思しき子供を連れた親子が自転車でツーリングしている光景を目にしてビックリしたことがありますが、そんな自転車熱はここでも同様でして、老若男女を問わず、車体の両側にバッグをぶら下げて荒野をひたすらツーリングする逞しい人々に多く遭遇しました。欧州人の体力ってすごいですね。

 
地熱地帯には木道が整備され、訪問者はその上を歩いて散策することができます。


地面から温泉が湧出する光景は、いつどこで見ても温泉好き人間の心を興奮させてくれます。お湯が迸る様のみならず、その周辺の成分析出(石灰華)も立派です。

 
噴気孔の中でも面白かったのが、富士山を小さくさせたような形状のもので、成分の析出が綺麗な円錐を形作っており、硫黄で黄色くなったてっぺんから勢いよく音を立てて水蒸気や硫化水素ガスを噴出させていました。またその奥には青白い色のお湯を湛えた神秘的な湯溜りもあり、雪渓が美しい遠方の山々と絡めて眺めていると、絵画のような素晴らしい景色となり、ずっと見ていても飽きることを知りません。


地熱地帯を一周したところで、いよいよ入浴することに。木道入り口付近に軽食コーナーとは別の小屋が建っており、その傍に入浴できる浴槽が用意されています。その小屋は鍵が掛かっているため入室不可。でもこの小屋以外に付近には建物はありません。従って、水着への着替えは車の中で済ますか、ちょっと離れた軽食コーナーの小屋に隣接したトイレ(シャワーあり)を借りるか、あるいは浴槽の傍で青空の下、すっぽんぽんになって更衣するかのいずれかになります。でも前2者は、浴槽からちょっと歩かねばならず、この時の外気温はたった9℃しかありませんから、寒風ふきすさぶ中を水着一丁で移動するのは結構つらく、このため多くの入浴客は浴槽の傍のウッドデッキにあるベンチに荷物を置いて、老若男女を問わず、公衆の面前ですっぽんぽんになって着替えていました。ものぐさな私も勿論この方法で着替えましたが、一応着替えポンチョみたいなものを持参していたので、完全全裸になるような事態は避けられました。

 
同時に20人は入れそうな大きさの浴槽は、余計な設備が一切なく、開放感も眺望も抜群。周囲には可憐な高山植物の花も咲いています。お湯は先ほど見学した源泉からホースで引いています。

 
湯口のホースは2本あり、一本はぬるいお湯が常時投入され、もう一本は激熱のお湯が不規則に出たり止まったりしています。湯船の温度は37~38℃くらいですが、激熱の源泉が流れ込む時には一気に40℃以上まで上昇します。火傷するのでなるべく湯口のホースには近づかないように。


実際に入ってみました。浴槽はかなり深く、身長165cmの私が直立すると胸のあたりまでお湯に浸かります。また石灰が自然に浴槽をコーティングしちゃっている上に、苔が生えているため、槽内はとっても滑りやすく、足元には十分な注意が必要です。お湯はほぼ無色透明ですが若干濁り気味で、湯中には苔の小さな破片が漂っています。はっきりとした硫黄由来のタマゴ臭と味が感じられ、浴槽のみならずお湯自体の浴感もヌルスベ感の強いものとなっています。計測し忘れてしまいましたが、多分アルカリ性だと思います。
大自然の絶景に囲まれた開放感あふれるこの露天風呂、湯加減も長湯向きなので、いつまでも入っていたくなりました。いや、どうしても長湯したくなる事情が…。というのも、7月下旬なのに外気温が9℃しかなく、しかも山の強い風が吹いているので、このお湯から出るとメチャクチャ寒いのです。入浴客はお湯から出ると、あまりの寒さにみんなギャーギャー騒ぎ、小刻みに震えながら大慌てで着替えていました。そんな様子を見た私は、大和男児の意地を誇示すべく、湯上がりも慌てることなく寒風に耐えながら泰然と着替えたのですが、やはり付け焼刃の意地はすぐに刃こぼれしてしまうらしく、その後まもなく頭痛と悪寒に襲われてしまいました。あぁ情けない…。


【12:55 クヴェラヴェトリル出発】

湯上がりにサンドウィッチを頬張った後、再びF35号に戻って北上を再開です。


天気はとっても変わりやすく、この頃には気持ちよい青空が広がり始めました。荒野の向こうには雪渓を載せた青い山脈が連なっています。あまりの美しさに、車を止めて夢中でカメラのシャッターボタンを押しました。


たまにヤギが道を塞ぐことも。ここは慌てないでヤギが通り過ぎるのを待ちます。
走れども走れども、灰色か茶褐色の砂礫の荒野がひたすら広がるばかり。もしこの世の果てがあるのならば、それはこの地を指すのではないのかしら…。


【13:40/50 展望台】
 
やがて進行方向右手に湖が見えてきました。ブランダ水力発電所のダム湖です。このダム湖を見下ろす展望台で小休止。


湖畔の丘で走ってきた道を振り返ってみました。道は遥か彼方へ伸びており、その先は地平線の奥へと消えています。こんな道を一人で走ってきたのか…


この一帯に広がる荒野は「オイズクールヘイジ荒地」と称するんだそうです。


この展望台で止まっていたのは、いずれもSUVで、左からスズキ・トヨタ・日産(私の車)。ここは日本じゃありませんよ。本当に笑っちゃうくらいにこの道は日本のSUVだらけでした。


展望台からしばらく走ると、ロックフィル式ダムの真上を走行して、川の対岸へと渡ります。


この辺りまで来ると、ダム関係の車が往来するためか、未舗装ながら今までよりも路面状態が良くなり、80~90kmで飛ばしたくなるほどのコンディションが続きました。右手に緑の山の稜線が続くようになり、一部区間で舗装路も現れ、やがて牧場が広がるブロンドゥダールルに到着。クヴェラヴェトリルからブロンドゥダールルまでは70km強。ここでF35号は終了しますが、更に732号、731号と進んで、緑に覆われた牧歌的な景色の中を走っていきます。

【14:30 1号線との合流地点】
14:30、遂に1号線(環状道路)との交差点に到達しました。1号線は走りやすい舗装路面。アスファルト舗装のありがたみを実感しました。これにてキョルル走破達成!
壮大かつ荒々しい大自然の絶景を延々と走ることができ、この上なく貴重な体験となりました。こんな感動的な道を運転できたなんて、本当に幸せです。


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