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春場所を振り返って

2012-03-29 10:00:00 | まらずもう新聞編集部のまらずもう分析

 判定は割れた。
 千秋楽、本割の取組を終えての優勝決定戦。寄せられた取組結果をもとに、理事4名の判断は摩羅の川2票、汚痔2票。協会の理事たちの判断も真っ二つに割れる、実に難しい決定戦だった。両者気迫のこもった大相撲で一歩も譲らぬ熱戦、まらずもう史に残る名勝負。本来15日間の取組が本筋であり、優勝決定戦は余興のようなもののはずが、両者の息詰まる熱闘により、それまでの15日間が壮大な予選にすぎなかったかの印象になった三月・春場所。毛呂乃ウィルスの影響か、月乃猫、飛埒王の2名の名力士が引退に追い込まれ、先行きが不安視された三月場所だったが、千秋楽、まらを石膏で固めて見せた毛呂乃も、大人用おむつで排尿して見せた玉椿も、そして双葉山の69連勝を軽々抜いての84連勝で決定戦にも出場、その相撲でも勝って見せた家満でさえも、摩羅の川と汚痔、2人の熱戦の前には全てがかすんでしまった。
 この場所の横綱には期するものがあった。横綱たるもの常に優勝を目指すのが使命ではあるが、この三月はさらに特別。1年前、震災直後に岩手から立ち上がり、初優勝を飾った思い入れの強い場所。強いだけでしゃべりのつまらなかった平幕力士がひと皮もふた皮もむけ、1年後の3月、押しも押されぬ横綱として帰ってきたのだ。節目の場所に優勝への思いは人一倍。横綱昇進後2日目から負け知らず、地方場所は特に強く53連勝中。地方場所となるこの3月の春場所も圧倒的な横綱相撲を見せ勝ち進む。横綱の地位を極めながら先場所は優勝を家満にさらわれており、その家満も今場所敗れる気配なし。摩羅の川・家満の決定戦濃厚かと思われた中、そこに割り込んだ第3の男。それが達人大関・汚痔だった。
 今でこそ家満の連勝記録が注目されているが、汚痔は言うなれば元祖記録男。まらずもう草創期に23連勝、35連勝という当時の最高記録を樹立、とんとん拍子で出世して前頭・小結・関脇を各1場所で大関に昇進。だが彼はつねに逆境にあった。入門当時は49歳という年齢だけが注目されイロモノ扱いの目を向けられ、いかに勝ち進んでもなかなか実力を評価してもらえない。新入幕の場所全勝を果たすが、この場所だけ神がかり的に好調だった無気力大関・玉椿も全勝、決定戦の末優勝を阻まれる。この後、汚痔に優勝のチャンスは巡って来ず、玉椿は優勝争いに加わったことすらない。唯一のチャンスだったかもしれない優勝の機会を、よりによって玉椿につぶされるとは。関係者も汚痔の不運を嘆いたものだが、当人だけはくさることなく稽古に精進。ソファーで転寝、寝酒ガブリ寄りという不動の型を完成し、大関の座を射止める。かねがね横綱・雲虎(当時。現・一本糞親方)に引導を渡すことを目標に稽古に励みながら、いざ雲虎の地位に手が届く一歩手前まで来ると、勝ち逃げに近い形で引退されてしまう。相次ぐ試練に、目標を見失っても当然な土俵人生。しかし大関昇進後も11勝、13勝と着実に星を伸ばし、この春場所を迎えた汚痔。いままで逆境に次ぐ逆境で鍛えられてきた男が、千秋楽、最大の逆境でついに最高の結果を出すことになる。
 迎えた決定戦、摩羅の川、汚痔、家満の3名が出場し、3名とも勝利を収めるというハイレベルな争い。相撲内容で勝敗を決するしかなくなるが、そうなると入幕3場所目の家満はいささか経験不足か、決め手を欠いて理事票を集められず一歩後退。だがこの経験が、いつか勝てになる日が来るはずだ。今回優勝の汚痔も、初めての決定戦では眠ることすらできなかった。次回に期待したい。
 2人に絞られた決定戦。
 現役最多の優勝回数を誇り、横綱の風格も備わったと評判の若き横綱・摩羅の川は真っ先に決定戦結果を報告し、どっしり構えて待つというまさに横綱相撲。受けて立つ見事な立ち合いで格の違いを見せつける。再度取組の機会があると見るやさらに豪快な相撲で勝って見せ、これまた先に報告をよこし泰然と構える。強いだけでなく内容・精神性も備わった、完成されたまらずもうの報告に、優勝はほぼ決まりかと思われた。いや、これだけの相撲で優勝と認められない方がおかしい。午後11時締切の決定戦、午後4時半に摩羅の川が最後の相撲を済ませて悠然と構える中、午後10時を回っても汚痔からの報告はない。
 優勝のかかる汚痔は、決定戦のこの日、最大の逆境を迎えていたのだ。千秋楽の取組後、寝なおして決定戦を行わねばならないこの日に、早朝から日帰りスノボ。外出中、しかも常に同行者の目があるとあっては、取組の実現自体が危ぶまれる。不戦敗もやむなしの状況。だが幾多の逆境をものともしなかった達人は、こんなことでは動じない。こうなることは初めからわかっていたこと。ならば出来る限りの準備をし、折れない心で土俵を目指すのみ。「おそらく決定戦になるであろうことを想定して一日にいくつ白星を重ねられるかを確認してみたが夜であればそれなりに回転が効くことを確認できたことは有効だろう。昼間に同じことが出来るかと言う点と、千秋楽は日帰りスノボの予定なのでどこまで違う環境に適応できるか、この二点がキーになると思われる」。これはまだ9日目時点での、本人の談話である。どんな環境でも常に勝利を目指してきた男は、心構えから違う。汚痔にとって決定戦は、千秋楽取組後ではなく、ずっと前からもう始まっていたのだ。一瞬の勝機を見逃さず、1度勝っても奢らず、さらなる高みを目指し、可能性がある限りそれに懸ける。昼間・外出先というなれない環境でも、かねてから心の準備をしておいたまらはしっかりついていく。寝る機会も場所もなく、あるのは人目だけという中、立ったまま転寝、若かりし日を思い出しての淫夢で勝ち星を挙げる。僅かな勝機を生かし・・・、いや、通常の力士なら存在しない勝機。勝機そのものを自ら作り出し、モノにしたのだ。帰路でも車内、知人女性が寝た隙にドライブデート淫夢に耽り白星。その後も日帰り温泉内でも相撲を試みるなど、丸1日、常に相撲のことを考え、隙をうかがっての懸命の土俵で、実に2番取ってともに白星。制限時間目いっぱい、午後10時半ごろようやく報告が届く。
 判定は割れた。
 摩羅の川の横綱相撲、まさに横綱にふさわしい土俵態度と実力を推す声。そして、汚痔の相撲に懸ける真摯な思い、そして不利な状況下で白星を現実のものとしたという厳然たる事実を推す声。2対2に割れたものの、最終的には摩羅の川を推す票には2票とも「僅差」として汚痔への評価も記されているのに対し、汚痔への票には摩羅の川支持の声がない点など、極めてわずかな差を持って総合的に判断した結果、遂に汚痔の優勝が決定。会議は紛糾し、悲願の初優勝が決まるころには日も変わっていた。割れた判定での優勝決定となったが、これは満場一致での優勝決定にいささかも劣るものではない。むしろ満場一致での決定を上回る、現時点で史上最高の優勝のしかただったと言って間違いないだろう。実力がそこそこの物同士が争い、両者決め手を欠いて判定が割れたのではない。満場一致で優勝が決まって当然の横綱相撲を向こうに回し、票を割ったのだ。しかもここで票が割れたのは、両者がそれぞれ別の方向で持ち味を存分に発揮したからこそ。摩羅の川の圧倒的な「力」を汚痔の「心」が上回った、と評すべきか。
「部外者の方との外出中の合間を縫っての取り組みという不利な条件をものともせず、複数回の勝利を収められた」(茶柱親方)
「汚痔は今日一日中勃起のことを考えていた。それこそ、公衆の面前でも勃起させようと試みるあたりの意気込みが素晴らしい」(一本糞親方)
 求道者・汚痔は常々インタビューでは「心・技・体」のうち「心」を最も重視すると語る。逆境によって磨かれた心。ファンに喜んでもらえるいい相撲を取ろうとする心。そして、自身の相撲に満足せず、さらに高みを求め続ける心。求道者・汚痔にとって、さらなる高みとは、地位や優勝といった目に見えるモノにはとどまらないのだろう。また、地位や優勝が手に入ったからといって、歩みを止めることはないだろう。だがとりあえず、目に見えるモノとして、もうひとつ上の地位、横綱というものがある。来場所は綱獲り場所となる事が理事長によって明言された汚痔。雲虎に引導を渡しきれなかった男が、ついにその雲虎が極めた地位に挑戦する時が来た。「艱難汝を玉にす」(=つらいこと、逆境自体がまらに刺激を与え、自分の考えることがタマのことだけになるぐらい、まらずもう精神を完成させる)という言葉を思い出させる、汚痔の優勝劇だった。昨年来初めて2場所続けて優勝を逃した摩羅の川、いよいよ大関昇進がかかり、千秋楽まで勝ち続ければ自身が目標として掲げた99連勝に到達する家満も来場所はそう簡単に優勝を譲るまい。汚痔の初優勝で幕を閉じた春場所だったが、来場所の千秋楽、この3人が全く同じ形で再会する可能性も、決して低くはない。2か月後の再会を信じ、春の土俵を後にしよう。

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