(また「美術学校」の夢を見た。こんなに続けて同じような設定の夢を見るのは生まれてはじめてのことである。私はよほどこの問題を重要視しているに違いない。実際にそのとおりであることを自覚はしているのだが。夢占いも必要ないほどにわかりやすい私の夢は、目が覚めている私にとってとても印象的で反省を促すものではあるが、その展開は意外性に乏しく面白味がなくなったようにも思える。まあ、スペクタクルな夢は別口で見たらよいのかもしれないけれど。でも、夢を選んで見ることはなかなかに難しい。)
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放課後の講堂に残って、私はひとりで作業をしていた。とても焦っているのだが、思うようにはかどらない。
そこへ女の先生がやってきて、黒板に白いチョークで三つの枠の中に可愛らしい小さな男の子と女の子が遊んでいる絵をお描きになる。黒い画面がどんどん白く埋められてゆく。私は目を離すことができなかった。
女の先生が猛然と描いておられるところを見ていると、別の男の先生も講堂へやってきた。その先生は私の席まで歩いてきて、
「ああ、君はあの作品の……」とおっしゃった。私は先日提出した短い連作アニメーションの出来のことを思い出して、とても恥ずかしくなる。しかし、先生は別に怒っても呆れてもいないようだ。ただ、私個人と作品とをセットにして覚えているというだけなのだと思う。この男の先生は妙に迫力のある人なので、私はひそかに恐れていたのだが、私が思っていたようには恐ろしい人でないことが今になって分かった。アニメーションに関する色々な面白い話を、とても朗らかなようすで話してくださった。
そうこうするうちに、女の先生の黒板の絵が仕上がったようだ。女の先生が講堂の左手にあるスイッチを押すと、白いチョークで描かれた三つの絵が、それぞれに動き出した。黒板だと思っていた黒い画面は、今はスクリーンとなっている。先生が描いた部分だけが時々白くぴかぴかと光りながら、終わることなく男の子と女の子が走ったり笑ったりしている。私はすっかり驚いてしまった。男の先生は喜んで、拍手を送っていた。
「どうして、いつの間にお描きになったんですか。こんなに長いアニメーションになるだなんて、私はちっとも思わなかったのですけれど」
女の先生は、意外そうに私の顔をご覧になり、
「だって、前から少しずつ描きためておいたんですよ。さっきようやく仕上がったのです」
そうだったのか。私は、本当に恥ずかしくなった。
前期課程が終わって成績表をもらった。はじめてもらう成績表の見方が分からなかった。表の上のほうに「5」と書かれていて、その下にも細かく数字が続いていた。とても息苦しい。
一番最後の段に「35/150」と書かれてあった。私は150点満点のうち35点だったらしい。だいたい予想していた通りだったので、驚きはしなかった。私の後ろに座っていた二人は、一人は髪の長い女の子で、もう一人は誰だかわからなかったが、どちらかが自分は25点だったと嘆いていた。私はその人よりも少しだけ点が上だったことがわかったが、何の慰めにもならなかった。どうしてよいのやらさっぱりわからなかった。
成績表の右側の欄には、私の作品に対するアンケート結果のようなものが示してある。同じクラスの学生の意見がいくつか、その学生の筆跡そのままに複写されている。
「線に勢いがない。動きもない」
「フランス語が鼻につく」
「話に展開がない」
誰の意見なのか判別できるものもあったが、どれも的確だった。私はいよいよ焦りはじめる。どうしたらいいんだろう。どうしたら。どうしたらいいんだろう。どうしたら………。
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(「フランス語が鼻につく」というのはどういうことなのか、起きてから考えると少し妙な気もするが、夢のなかではとても納得していた。多分、私の半端なヨーロッパかぶれのようなところを、自分でも苦々しく思うところがあるのだろう。焦りに焦った私は、このあと池袋の地下の薄明るい女子トイレで女子高生にかつあげされ、暴行を受けた。ぼろぼろになった。ここからはもう関係のない次の夢へと移行しかけていたのだろうが、トイレの床にぶっ倒れるところで目が覚めてしまった。
目覚めて一瞬は気持ちが落ち込んだような気もしたが、夢のなかでもう十分に焦っていたので、それ以上焦ることもないだろうとも思った。自分に足りないものが何なのかは夢で数え上げたので、起きている間はそれに対処するだけでいい。夢を見ているときとは違い、起きている私には少なくとも「どうしたいか」くらいはわかっているので大丈夫なはずだ。
二重生活というものに憧れた私だが、思っていたのとは違う形ではあるがこれも二重生活かもしれないと思う。)
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放課後の講堂に残って、私はひとりで作業をしていた。とても焦っているのだが、思うようにはかどらない。
そこへ女の先生がやってきて、黒板に白いチョークで三つの枠の中に可愛らしい小さな男の子と女の子が遊んでいる絵をお描きになる。黒い画面がどんどん白く埋められてゆく。私は目を離すことができなかった。
女の先生が猛然と描いておられるところを見ていると、別の男の先生も講堂へやってきた。その先生は私の席まで歩いてきて、
「ああ、君はあの作品の……」とおっしゃった。私は先日提出した短い連作アニメーションの出来のことを思い出して、とても恥ずかしくなる。しかし、先生は別に怒っても呆れてもいないようだ。ただ、私個人と作品とをセットにして覚えているというだけなのだと思う。この男の先生は妙に迫力のある人なので、私はひそかに恐れていたのだが、私が思っていたようには恐ろしい人でないことが今になって分かった。アニメーションに関する色々な面白い話を、とても朗らかなようすで話してくださった。
そうこうするうちに、女の先生の黒板の絵が仕上がったようだ。女の先生が講堂の左手にあるスイッチを押すと、白いチョークで描かれた三つの絵が、それぞれに動き出した。黒板だと思っていた黒い画面は、今はスクリーンとなっている。先生が描いた部分だけが時々白くぴかぴかと光りながら、終わることなく男の子と女の子が走ったり笑ったりしている。私はすっかり驚いてしまった。男の先生は喜んで、拍手を送っていた。
「どうして、いつの間にお描きになったんですか。こんなに長いアニメーションになるだなんて、私はちっとも思わなかったのですけれど」
女の先生は、意外そうに私の顔をご覧になり、
「だって、前から少しずつ描きためておいたんですよ。さっきようやく仕上がったのです」
そうだったのか。私は、本当に恥ずかしくなった。
前期課程が終わって成績表をもらった。はじめてもらう成績表の見方が分からなかった。表の上のほうに「5」と書かれていて、その下にも細かく数字が続いていた。とても息苦しい。
一番最後の段に「35/150」と書かれてあった。私は150点満点のうち35点だったらしい。だいたい予想していた通りだったので、驚きはしなかった。私の後ろに座っていた二人は、一人は髪の長い女の子で、もう一人は誰だかわからなかったが、どちらかが自分は25点だったと嘆いていた。私はその人よりも少しだけ点が上だったことがわかったが、何の慰めにもならなかった。どうしてよいのやらさっぱりわからなかった。
成績表の右側の欄には、私の作品に対するアンケート結果のようなものが示してある。同じクラスの学生の意見がいくつか、その学生の筆跡そのままに複写されている。
「線に勢いがない。動きもない」
「フランス語が鼻につく」
「話に展開がない」
誰の意見なのか判別できるものもあったが、どれも的確だった。私はいよいよ焦りはじめる。どうしたらいいんだろう。どうしたら。どうしたらいいんだろう。どうしたら………。
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(「フランス語が鼻につく」というのはどういうことなのか、起きてから考えると少し妙な気もするが、夢のなかではとても納得していた。多分、私の半端なヨーロッパかぶれのようなところを、自分でも苦々しく思うところがあるのだろう。焦りに焦った私は、このあと池袋の地下の薄明るい女子トイレで女子高生にかつあげされ、暴行を受けた。ぼろぼろになった。ここからはもう関係のない次の夢へと移行しかけていたのだろうが、トイレの床にぶっ倒れるところで目が覚めてしまった。
目覚めて一瞬は気持ちが落ち込んだような気もしたが、夢のなかでもう十分に焦っていたので、それ以上焦ることもないだろうとも思った。自分に足りないものが何なのかは夢で数え上げたので、起きている間はそれに対処するだけでいい。夢を見ているときとは違い、起きている私には少なくとも「どうしたいか」くらいはわかっているので大丈夫なはずだ。
二重生活というものに憧れた私だが、思っていたのとは違う形ではあるがこれも二重生活かもしれないと思う。)
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