ロード・ダンセイニ 荒俣宏 訳(ちくま文庫)
《あらすじ》
一人の年若い旅人が、魔法使いの<森の家>を探し、山中をさまよい歩いていた。彼の城の財政は、もはや魔法に頼らねばならないほどの状態で、錬金術の神秘と影を代償にした取り引き、それが最後の切り札だった。しかし、彼の探し求めるその魔法使いは、恐るべき黒魔術の徒であったのだ!
静寂にして華麗、透明にして妖美な虹色の世界が、ケルト民族特有の<黄昏の想像力>を駆使して描かれる、20世紀最大の幻想作家の傑作。
《この一文》
” こうして影がまた伸びはじめたとき、他人の偏見と陽射しをさえぎってくれていた樫の木蔭から出たかれは、堂々と道をくだりだした。今はだれに見られても平気な影に、安全を保証してもらって。それにしても、こんなに頼りない護衛に身をまもってもらえるとは、考えもしないことだった。近衛の兵にしても、こんなに薄っぺらで、こんなに実体のない伴侶はないと思った。けれどもこのおかげで、世の人は些細なものに大きな値打ちをつけたがるかと思えば、その一方で価値を見殺しにして省みないこともあるという事実を、かれは教えられた。 ”
買ってから、およそ8年。これまでに、途中まで読むこと2回。3度目の挑戦で、ようやく最後まで読むことが出来ました。長い道のりでありました。面白かったのに、何故……。
さて、なかなかロマンチックなこのお話。話の展開が速いので、すらすらと楽しく読めました(8年もかかったくせに……)。森の奥の魔法使いの家。世の中を形成している物質の秘密。宇宙の果てまで飛んでゆく影。謎めいた暗黒の呪文。ロマンです。
主な登場人物は、主人公のラモン・アロンソ。魔法使い。魔法使いの家の<掃除女>(かつての名はアネモネ)。ラモン・アロンソの妹のミランドラ。狩りの途中で、ラモン・アロンソの城へ立ち寄ることになった<影の谷>の公爵。などなど。
面白かったのは、ミランドラと<影の谷>の公爵のロマンス。美しいミランドラは城にお金もないので持参金を用意することも出来ず、仕方なく近所の醜男グルバレスと婚約させられますが、たまたまその時偶然にも、世に権勢を誇り、王のおぼえもめでたい美男<影の谷>の公爵がやって来ると知り、公爵に媚薬を飲ませます。うーん、凄いやり手。ところがこの媚薬がとんでもない事態を引き起こすことになり……。
可哀想だなー、グルバレスは。やる気満々だったのになあ……。
もちろん、主人公のラモン・アロンソの物語もたいへんに面白いです。失った影を取り戻すべく、彼はさまざまな方法を考え出します。そして、彼と同様、魔法使いによって影を奪われた<掃除女>の影も取り戻してやろうと考えるのでした。この二人の結末も面白い。いや、まあ、予想はできましたがね。
そして、物語の結末もたいへんよろしい。最後に魔法使いがそうなるとは思いませんでした。この物語が面白いのは、登場人物のそれぞれがちゃんと自分の価値基準を持っていて、あまり人物を善悪で分けていない感じがするところでしょうか。魔法使いも弟子のラモン・アロンソもミランドラも、自分の利益のために結構好き勝手に行動するところが良いですね。常識的な「善悪」に対しては「そんなものか」という感じで割とドライなのですが、それよりも自分の信念を重視する彼等は痛快です。
というわけで、かなり面白かった『魔法使いの弟子』。面白かったので、ダンセイニ卿のお話をもっと読んでみようという気になりました。
《あらすじ》
一人の年若い旅人が、魔法使いの<森の家>を探し、山中をさまよい歩いていた。彼の城の財政は、もはや魔法に頼らねばならないほどの状態で、錬金術の神秘と影を代償にした取り引き、それが最後の切り札だった。しかし、彼の探し求めるその魔法使いは、恐るべき黒魔術の徒であったのだ!
静寂にして華麗、透明にして妖美な虹色の世界が、ケルト民族特有の<黄昏の想像力>を駆使して描かれる、20世紀最大の幻想作家の傑作。
《この一文》
” こうして影がまた伸びはじめたとき、他人の偏見と陽射しをさえぎってくれていた樫の木蔭から出たかれは、堂々と道をくだりだした。今はだれに見られても平気な影に、安全を保証してもらって。それにしても、こんなに頼りない護衛に身をまもってもらえるとは、考えもしないことだった。近衛の兵にしても、こんなに薄っぺらで、こんなに実体のない伴侶はないと思った。けれどもこのおかげで、世の人は些細なものに大きな値打ちをつけたがるかと思えば、その一方で価値を見殺しにして省みないこともあるという事実を、かれは教えられた。 ”
買ってから、およそ8年。これまでに、途中まで読むこと2回。3度目の挑戦で、ようやく最後まで読むことが出来ました。長い道のりでありました。面白かったのに、何故……。
さて、なかなかロマンチックなこのお話。話の展開が速いので、すらすらと楽しく読めました(8年もかかったくせに……)。森の奥の魔法使いの家。世の中を形成している物質の秘密。宇宙の果てまで飛んでゆく影。謎めいた暗黒の呪文。ロマンです。
主な登場人物は、主人公のラモン・アロンソ。魔法使い。魔法使いの家の<掃除女>(かつての名はアネモネ)。ラモン・アロンソの妹のミランドラ。狩りの途中で、ラモン・アロンソの城へ立ち寄ることになった<影の谷>の公爵。などなど。
面白かったのは、ミランドラと<影の谷>の公爵のロマンス。美しいミランドラは城にお金もないので持参金を用意することも出来ず、仕方なく近所の醜男グルバレスと婚約させられますが、たまたまその時偶然にも、世に権勢を誇り、王のおぼえもめでたい美男<影の谷>の公爵がやって来ると知り、公爵に媚薬を飲ませます。うーん、凄いやり手。ところがこの媚薬がとんでもない事態を引き起こすことになり……。
可哀想だなー、グルバレスは。やる気満々だったのになあ……。
もちろん、主人公のラモン・アロンソの物語もたいへんに面白いです。失った影を取り戻すべく、彼はさまざまな方法を考え出します。そして、彼と同様、魔法使いによって影を奪われた<掃除女>の影も取り戻してやろうと考えるのでした。この二人の結末も面白い。いや、まあ、予想はできましたがね。
そして、物語の結末もたいへんよろしい。最後に魔法使いがそうなるとは思いませんでした。この物語が面白いのは、登場人物のそれぞれがちゃんと自分の価値基準を持っていて、あまり人物を善悪で分けていない感じがするところでしょうか。魔法使いも弟子のラモン・アロンソもミランドラも、自分の利益のために結構好き勝手に行動するところが良いですね。常識的な「善悪」に対しては「そんなものか」という感じで割とドライなのですが、それよりも自分の信念を重視する彼等は痛快です。
というわけで、かなり面白かった『魔法使いの弟子』。面白かったので、ダンセイニ卿のお話をもっと読んでみようという気になりました。
『ハウル』も原作を読みたいと思いつつ、まだ読んでません; いそがしいなあ。
荒俣氏の解説によると、ダンセイニは様々な幻想作家に多大な影響を与えたらしいので、そのあたりの作品にも触れてみたいものです。
以前『ハウルの動く城』を見ていて『魔法使いの弟子』に似た話だなあと思いました。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの原作を読んでないので何とも言えませんが、もしかしてダンセイニの影響があるのではないかと思ってるんですが。
ダンセイニは最近出た『ダンセイニ幻想短編集成』4巻が決定版です。どれも面白いのでオススメですよ。