種村季弘 編 (河出文庫)
《収録作品》
ロカルノの女乞食……ハインリヒ・フォン・クライスト
廃屋……E・T・A・ホフマン
金髪のエックベルト……ルートヴィッヒ・ティーク
オルラッハの娘……ユスティーヌス・ケルナー
幽霊船の話……ヴィルヘルム・ハウフ
奇妙な幽霊物語……ヨーハン・ペーター・ヘーベル
騎士バッソンピエールの奇妙な冒険……フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
こおろぎ遊び……グスタフ・マイリンク
カディスのカーニヴァル……ハンス・ハインツ・エーヴェルス
死の舞踏……カール・ハンス・シュトローブル
ハーシェルと幽霊……アルブレヒト・シェッファー
庭男……ハンス・ヘニー・ヤーン
三位一体亭……オスカル・パニッツァ
怪談……マリー・ルイーゼ・カシュニッツ
ものいう髑髏……ヘルベルト・マイヤー
写真……フランツ・ホーラー
《この一文》
”それから二人は、都会の貧しい雪が薄く降り積もった街路を歩いていった。高い建物の谷間になった街路で、薄く霜のおりた電線の針金の真中に、二、三個星が出ていた。その星は電線の間に捉えられた楽譜記号のきらきら光る点のように見え、地上で屈辱を強いられる天井の光の、無限に厳しく苦痛にみちたメロディーをあらわしていた。
―――「死の舞踏」(カール・ハンス・シュトローブル)より ”
”ところが現実は、禁断のひそやかな空想を味わった廉でまことに手きびしい罰を下すのだ。この種の人間はそもそもがいかなる俗事をも企ててはならぬ、家を建てたり、国債を買ったりなどしてはならぬのだ! ――地上ばなれのした瞑想に耽ってさえいれば、失望もそれほど激甚ならずともすむではないか!
―――「三位一体亭」(オスカル・パニッツァ)より ”
途中までしか読んでいないのに、すっかり読みおえたと思って放置してありました。あるいは、やっぱり読みおえていたのだけれど、内容を忘れてしまったのか、後半はまるで初めて読むような新鮮さでした。真相は分かりません。いずれにせよ面白かったから、それでよいのです。
クライストやホフマンの作品は、正直「またこれか」というくらい、あちこちのドイツ小説集に収められているもので、どうやら定番中の定番であるもよう。「騎士バッソンピエールの奇妙な冒険」(ジョジョっぽいですね)も、どこかで読んでいました。
ですが、その他の作品については私は初見のものばかりで、たいそう興奮いたしました。
「金髪のエックベルト」は童話風の美しい描写ながら、かなり暗い内容です。問題作ですね。妙な味わいがあって、とても面白かったです。
「オルラッハの娘」は、少しだけ『尼僧ヨアンナ』を彷佛とさせるオカルトものです。なんとも不気味なんです。これは怖かった!
「幽霊船の話」は、まあありきたりと言えばありきたりのお話ですが、アラビア風の幻想をうまく描いているので、とても楽しく読めました。印象的なお話です。
「こおろぎ遊び」以下の作品は、いずれも「ええッ!? それで、つまり!?」という読後感です。わりと現代の物語なのでしょうか。分かるような分からないような結末でしたが、どれもたいへんに面白かったのはたしかです。迫力がありました。
このなかには気持ちが悪かったものもありまして、「カディスのカーニヴァル」などはたいして怖くもなさそうなのに、妙に不気味でした。
祭りの夜に、切り株が広場を歩き回り……という内容で、私は《歩く切り株》と言えば映画『黒猫白猫』(エミール・クストリッツァ監督)にも登場するメルヘンでファンシーなイメージが脳裏をよぎったのですが、この作品では恐ろしげなものでした。ああ、なんだか気持ち悪い。
「ものいう髑髏」はちょっとユーモラスで良かったですね。
それにしても、ドイツ小説はいつ何を読んでも、どこか秋のような感じがするのでした。
《収録作品》
ロカルノの女乞食……ハインリヒ・フォン・クライスト
廃屋……E・T・A・ホフマン
金髪のエックベルト……ルートヴィッヒ・ティーク
オルラッハの娘……ユスティーヌス・ケルナー
幽霊船の話……ヴィルヘルム・ハウフ
奇妙な幽霊物語……ヨーハン・ペーター・ヘーベル
騎士バッソンピエールの奇妙な冒険……フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
こおろぎ遊び……グスタフ・マイリンク
カディスのカーニヴァル……ハンス・ハインツ・エーヴェルス
死の舞踏……カール・ハンス・シュトローブル
ハーシェルと幽霊……アルブレヒト・シェッファー
庭男……ハンス・ヘニー・ヤーン
三位一体亭……オスカル・パニッツァ
怪談……マリー・ルイーゼ・カシュニッツ
ものいう髑髏……ヘルベルト・マイヤー
写真……フランツ・ホーラー
《この一文》
”それから二人は、都会の貧しい雪が薄く降り積もった街路を歩いていった。高い建物の谷間になった街路で、薄く霜のおりた電線の針金の真中に、二、三個星が出ていた。その星は電線の間に捉えられた楽譜記号のきらきら光る点のように見え、地上で屈辱を強いられる天井の光の、無限に厳しく苦痛にみちたメロディーをあらわしていた。
―――「死の舞踏」(カール・ハンス・シュトローブル)より ”
”ところが現実は、禁断のひそやかな空想を味わった廉でまことに手きびしい罰を下すのだ。この種の人間はそもそもがいかなる俗事をも企ててはならぬ、家を建てたり、国債を買ったりなどしてはならぬのだ! ――地上ばなれのした瞑想に耽ってさえいれば、失望もそれほど激甚ならずともすむではないか!
―――「三位一体亭」(オスカル・パニッツァ)より ”
途中までしか読んでいないのに、すっかり読みおえたと思って放置してありました。あるいは、やっぱり読みおえていたのだけれど、内容を忘れてしまったのか、後半はまるで初めて読むような新鮮さでした。真相は分かりません。いずれにせよ面白かったから、それでよいのです。
クライストやホフマンの作品は、正直「またこれか」というくらい、あちこちのドイツ小説集に収められているもので、どうやら定番中の定番であるもよう。「騎士バッソンピエールの奇妙な冒険」(ジョジョっぽいですね)も、どこかで読んでいました。
ですが、その他の作品については私は初見のものばかりで、たいそう興奮いたしました。
「金髪のエックベルト」は童話風の美しい描写ながら、かなり暗い内容です。問題作ですね。妙な味わいがあって、とても面白かったです。
「オルラッハの娘」は、少しだけ『尼僧ヨアンナ』を彷佛とさせるオカルトものです。なんとも不気味なんです。これは怖かった!
「幽霊船の話」は、まあありきたりと言えばありきたりのお話ですが、アラビア風の幻想をうまく描いているので、とても楽しく読めました。印象的なお話です。
「こおろぎ遊び」以下の作品は、いずれも「ええッ!? それで、つまり!?」という読後感です。わりと現代の物語なのでしょうか。分かるような分からないような結末でしたが、どれもたいへんに面白かったのはたしかです。迫力がありました。
このなかには気持ちが悪かったものもありまして、「カディスのカーニヴァル」などはたいして怖くもなさそうなのに、妙に不気味でした。
祭りの夜に、切り株が広場を歩き回り……という内容で、私は《歩く切り株》と言えば映画『黒猫白猫』(エミール・クストリッツァ監督)にも登場するメルヘンでファンシーなイメージが脳裏をよぎったのですが、この作品では恐ろしげなものでした。ああ、なんだか気持ち悪い。
「ものいう髑髏」はちょっとユーモラスで良かったですね。
それにしても、ドイツ小説はいつ何を読んでも、どこか秋のような感じがするのでした。
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