昨年、亡くなられた作詞家の星野哲朗氏の代表的な演歌に「風雪ながれ旅」があります。歌手は北島三郎ですが、北島にとってもこの曲は代表作になるだろうと思われます。
30年も前のヒット曲でイワン・アサノヴィッチもまだ30代半ばのころでした。カラオケでは少し謡いにくい曲で、イワン・アサノヴィッチは謡わなかったけれど良く聴いて知っているという曲でした。
従って詩の意味も朧気(おぼろげ)な理解で、雪国の中をさまよう年端もいかない、それだけに強烈な男女の恋唄だという程度の理解でした。「♪ 泣きの十六 短い指で 息を吹きかけ 超えて来た ♪」と厳冬の中の恋路を謡っています。
イワン・アサノヴィッチが中学生の時、国語の教師が古今和歌集の一句を紹介しました。「五月まつ 花橘(たちばな)の 香を嗅げば 昔の人の 袖の香ぞする : 読み人知らず」という句でした。
中学の教科には古典はありませんでしたから、授業の合間に教師自身の「五月」と「初恋」の想い出に関連した話しをしてくれたものだと思います。大柄なゲジゲジ眉でだみ声の教師には、恋の想い出などとうてい似つかわしくない話しだったので、反対に良く覚えていたのかも知れません。
「風雪流れ旅」は続けて「♪ 三味が折れたら 両手を叩け バチが無ければ 櫛でひけ ♪」と謡いますが、星野哲朗氏は壮絶な恋の逃避行の中に強烈な音楽への執着・情熱を一組の男女に見いだしていたのかも知れません。
「♪ 通い妻だと 笑った女(ひと)の 髪の匂いも なつかしい アイヤー アイヤー ♪」と何故かは分かりませんが、はかなく散った若き男女の恋の結末が謡われ、男がそれを偲びます。
♪ 髪の匂いも なつかしい ♪ の一節には古今和歌集の「 昔の女(ひと)の 袖の香ぞする 」が重なります。
演歌「風雪ながれ旅」に見る若き男女の恋路は星野哲朗氏の純愛のメッセージだったのかも知れません。