福田の雑記帖

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渡辺淳一著 「富士に射つ」 文春文庫 1972年(1) BOAC機墜落事故関連作品

2019年12月10日 06時15分41秒 | 書評
 1966年(昭和41年)春の日本の空は異常であった。
 ■ 2月4日 全日空ボーイング727型機羽田沖に墜落、133人全員死亡。
 ■ 3月4日 カナダ太平洋航空ダグラスDC8型機羽田空港で着陸失敗炎上、64人死亡、8人重軽傷。
 ■ 3月5日 イギリスBOAC機ボーイング707型機富士山麓に墜落、124人全員死亡。

 わずか1カ月の間に、東京を中心とする限られた空域で、これだけの大惨事が連続して発生した。しかも、みな大型ジェット機である。世界的に見ても前例のない惨事であった。
 これらの大惨事については、柳田邦夫著「マッハの恐怖」(1971年フジ出版)に詳しく記述されている。

 私は大学入学後、堰を切ったように読書の世界にのめり込んだが、ほとんどが古典や現代の文芸作品が中心であった。私は柳田邦夫著「マッハの恐怖」によってノンフィクション、ドキュメンタリーの世界にも領域を広げて読みあさることになった。その中でも巨大システム、原子力発電、巨大建築などに関するものが多かったが、とりわけ航空関係の領域が多かった。
 
 なぜ航空機か、と考えてみると、あんな重い飛行機がなんで飛ぶのかなど原理的な興味、機体、特にゼロ式戦闘機、YS-11、コンコルド、ジャンボなど最新鋭の航空機に関する興味、さらに航空機を支える管制などの運航システム、安全システムなどに対する興味など、興味の範囲は尽きることはなかった。世界中で生じた大きな航空機事故についての文献は積極的に収集した。150冊以上も求めていると思う。

 私は医師になって患者の命に責任を負うことになってその責任の大きさに慄いたが、そうは言っても患者は自分から見てあくまでも第三者であって、その命の推移・変化を冷静に観察できたが、自分が同時に巻き込まれるわけではない。一方、パイロットは事故の際に乗客と運命を共にすることになる。この点から私はパイロットの心理にも思いを馳せ、自らの問題として自分の考えに反映させようとしてきた。

 私はいま終活をかねて書籍を電子化している。やっと古い蔵書にまで手を広げているが、その中に本書があった。購入していたものの、おそらく時間がなくてそのまましまったにしておいたらしい。

 渡辺淳一氏の著作は随分読んだが、航空機事故を扱った作品があることは失念していた。これを見つけ、数日で一気に読み切った。氏は、1966年(昭和41年)3月5日の124人全員死亡したBOAC機事故で、ゴルフ場でパラシュートを目撃したあと強度の不安神経症に陥った中年の患者とその治療を担当した主治医を巡ってのエピソードを綴った作品として完成させた。私の興味と一部一致していることで親しみを感じた作品である。
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