福田の雑記帖

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本 三浦哲郎著 「白夜を旅する人々」 新潮文庫 1989年 奇跡の人と共通する風土

2021年10月02日 06時12分07秒 | 書評
 作家、三浦哲郎氏は1931年八戸市生まれ、2010年東京で没、満79歳であった。早稲田大学へ進学するも次兄失踪のため帰郷、中学助教諭となる。1961年(昭和36)『忍ぶ川』で芥川賞を受賞。不幸な女性、故郷青森の風土を背景とした貧しい人々を描いた。
 『白夜を旅する人々』は、一家に遺伝する病気を描いた壮大な私小説。著者自身の兄姉たちは必死に生きようとしても叶わず、滅んでいったが兄姉たち一人一人の足跡を鎮魂の思いでたどった作品。


 本書は10数年前に友人に勧められて読んでいた。今回、原田マハ著「奇跡の人」を読むにあたって種々の共通点があることに気づき、電子化した書籍の中から引っ張り出し懐かしく再読した。
 共通点は主人公の一人の名前が両者とも「れん」、舞台は昭和初期青森県の田舎、貧しい中で裕福な家庭に育つ。田舎特有の古い風習に苛まれることなどである。兄弟たちは、自らの身体を流れる血の宿命に脅え、昭和初期における地域の閉鎖性が次第に家族を追い詰めていく。

 三浦氏の兄弟歴:6人兄弟の末子として生を受ける。長兄 -1937年に失踪。次兄 - 1950年に失踪。長姉 - 先天性色素欠乏症で弱視、1938年に服毒自殺。二姉 - 1937年19歳で津軽海峡で投身自殺。三姉 - 先天性色素欠乏症で弱視、琴の師匠となり家計を支えた。
 同胞のうち、残ったのは、病を持ちながらも琴の師匠として生きた3番目の姉と末子である三浦氏のみ。6人中4人が不本意な人生を送った。

 作者は私小説を書くことで、その血の問題、運命と向き合い続けた。死の作品、「忍ぶ川」をはじめ、氏が末弟として導き出した一つの解答が、本作であった。静かに抑えた表現で書かれ、同胞達への鎮魂歌となった。

 東北の生活は厳しい。吹雪、風の音、馬そりの鈴の音や方言が、美しい文章で綴られ、登場人物が話す方言は東北出身の私の心に温かく響いた。

 家族とは何なのだろう。家族は、支えにもなってくれるけれど、うっとうしく、つねに心にからみつく鎖である。三浦氏は時代と地域と家族の問題をわが身をの思いを削りながら教えてくれる。
 この作品を書くのは、著者にとってどれだけ苦しいことだったかと思う。自伝的物語として言葉で紡ぎ上げていったことで家族との別れに一定の結論を導くことができたのだろう。
 美しい文章。文章に魅了されつつも、内容は家族のあり方、心身の欠陥、死者の弔い、現実の重さ等、深く深く考えさせられた。

 いずれ誰でも家族と死別する。
 死別に際して十分納得して別れを惜しむことなどあり得ない。見送る自分として消化不良の部分は必ずある。私の場合もそうだった。父母を送り、兄も送った。いずれももっと言っておきたかったこと、聞いておきたかったことを残したまま逝ってしまった。私は3人への鎮魂を兼ねて、私の立場から3人の人生を振り返り小文として纏めた。一方通行の意見であるが、私はこの作業を通じて先に逝った3人と"現世では"訣別できた気がする。
母を語る
自伝 特別編 父を語る 
自伝 特別編 「兄を語る」

 そういう意味を込めて、三浦氏が兄弟への想いを込めてまとめた『白夜を旅する人々』は私の心に沁みてくる作品である。

 

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