福田の雑記帖

www.mfukuda.com 徒然日記の抜粋です。

富山県射水市民病院の呼吸器外し(3)こういう悲劇をなくそう

2006年03月31日 07時58分56秒 | 医療、医学
 私は今まで高齢者の方を対象に「安楽死」「尊厳死」「良い死を迎えるために」といった題名で講演を10回以上行ってきた。その中では,あの世には地獄はないが、この世に、現代医療の中に、地獄がある、だから、それを味合わないためには、死に臨んだ時に何をして欲しいのか、何をして欲しくないのか、本人の意思で決めることだ、と言い続けてきた。

 私が担当する外来に通院してくる患者で延命治療不要の意思表示をしている高齢の患者は10数名いるが、大部分の方は無症状、体調の良いときの表明で、あまりあてには出来ない。第一、どんな状態の変化を来すのか、それによって対応はすべて異なるし、他の病院に搬送されることもあるだろう。だから、意思表示がある旨のメモを保険証につけておくように、かつ家族の同意を取っておくように、意思表示をしっかり書き留めた書状を用意し置き場を明記しておくように、と言っている。そこまで本気で実行している人はいないようだ。要するに外来主治医の私との間での納得のレベル、話題のレベルで、実際には殆ど役立たないだろう。外来で時折死を話題に対話できているだけでも良いだろう。

 死に臨みつつある患者に、延命となる治療・処置をどこまで行うべきかは明確な指針はない。例え本人の意思表示があっても、疾患によっても異なるし、急な変化なのか、緩徐な変化なのかによっても異なる。人工呼吸器をつけるか否かの判断においては医学的判断が最優先されるべきだが、医師と言えども先を見通せるわけではない。

 医師はやるべきことをしなかった場合には、やり過ぎと判断されるよりも厳しい非難を受けることが多い。だから、患者の急変時等には担当医は当座延命治療を開始する。また、家族の意向も無視できない。家族は多くの場合動転しているから、少しでも長く生きていて欲しいと、濃厚な治療を望むことが多い。医師と家族の判断が全く異なることすらある。

 延命治療を開始し、それなりの結果が見えてきた時点では医師も、それなりの安堵感、満足感を得る。家族にとっても同様だろう。しかし、その結果、患者が長期にわたって意識も戻らず、自発呼吸もない植物状態あるいはそれに近い状態で安定し、恒常状態になって先が見通せなくなると医療者、家族共にそれぞれの立場で新たなジレンマに陥ることになる。
 このような場合の治療の継続あるいは中止についても、わが国には明確な指針はない。
 だから、富山県射水市民病院の呼吸器外しの様な悲劇が生じることになる。今回の事件では患者本人、家族、主治医、病院管理者・・関係者すべてが被害者であって加害者はいない。加害者は国であり、社会であり、国民である。
 困難な課題であるが避けて通るべきでない。早急に指針を作るべきだ。
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富山県射水市民病院の呼吸器外し(2)本人の意思表示が絶対条件

2006年03月30日 06時17分17秒 | 医療、医学
 富山の市立病院で起きた呼吸器はずし事件が刑事事件となるかどうかは、司直の判断を待つしかないが、過去のケースと同様に恐らく有罪になるだろう。しかし、医師個人を裁いただけでは何も解決しない。

 死を待つだけの状態に至った人への延命措置をどこまで行うか、生命維持装置、栄養維持、循環維持等の治療がこんなに発達した現在では、生命倫理上、医療上、社会的にも大きな問題であるが日本には明確で具体的な対応のルールがない。このことこそが問題なのだ。そういう状況の患者を担当している医師にとって、どういう手続きすれば人工呼吸器を外せるか、延命処置を止めて良いのか、そんな指針もないから分からない。だから、患者にとって良かれと思って判断したことが後で問題にされる。こういう事例が後を絶たない。

 患者の状態を見かねて死期を早める行為や類似の事件は過去にも何度も何度も繰り返されてきた。森鴎外の短編「高瀬舟」は鴎外自身の医師としての苦悩を表現したものと私はとらえている。
 恐らく今回の対象になった7名の患者は、意識もなく、自発的呼吸もなく、点滴か胃に管で栄養剤の投与で維持され、循環だけが保たれている状態で、呼吸器を外すことで10数分後に、苦しむこともなく静かに死を迎えたのだろう。

 末期患者に対して医師が死を早める行為は「安楽死」とされ、日本では原則禁止であり、施行すれば殺人罪に問われる。一方「尊厳死」は過剰な治療や延命措置をとらず、本人や家族の納得の元で緩和的治療の範囲を中心とした治療で、より自然に近い状況で過ごして死を迎えさせることである。

 「安楽死」は薬物とかで死期を早める「積極的安楽死」と最小限の治療、維持管理の範囲で続けながら死を待つ「消極的安楽死」に分けられる。「尊厳死」は後者に含まれるとの考え方もあるが、私は全然違うと思う。ただし、この分類は絶対的な区別でなく、あくまでも相対的なものである。

 東海大病院で起きた薬物による安楽死事件の判決で、1995年に横浜地裁で「積極的安楽死」の条件が示された。(1)耐え難い肉体的苦痛(2)死期が迫っている(3)苦痛を除去、緩和する方法がない(4)生命の短縮を承諾する患者の意思表示がある、の4要件である。
 「消極的安楽死」については(1)患者に回復の見込みがなく死が避けられない(2)治療中止を求める患者や家族の意思表示がある、などが条件とされた。
 両者で要因に軽重が示されていないことが問題なのだが、本人の意思表示が書面で示されていることが絶対条件である。家族の意向だけでは決められない。

 医学的判断は??死を迎えんとする患者にとって脳死移植関連を除けば、もはや医学的判断など無用である。
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「何につけても十分なディスカッションが必要です!!」ある要人の発言に白けた 

2006年03月29日 06時40分36秒 | 政治・経済 国際関係
 本日の帰路のカーラジオから21:00のNHKニュースが流れてきた。その中で沖縄海兵隊の移転問題での米国との意見の相違、靖国参拝によるアジア外交の停滞、牛肉輸入問題に関する不協和音などの現政府の外交問題を取り上げ、それらを解説調に論じ、その打開についても何人かの専門家の意見を2、3織り交ぜていた。
 最後にある政府の要人の意見をとして、「外交に限らず、何事につけても意見の食い違いは大きいものです。そこに必要なのは徹底した討議ですし、協議です。意見の相違を正すにはディスカッションしかありません。私は任期は残り少なくなっていますが、最後までねばり強く協議を続けていきます・・・」、という談話を引用していた。
 勿論、この要人というのは小泉首相である。私はこんなことを言うのに最も相応しくない人間として彼をとらえているからこれを聞いてすっかり白けてしまった。

 何事に点けても本音と建て前があり政治の世界では特にその格差は大きいだろうが、彼が述べたのは政治家としての当たり障りのない建前論である。
 彼は国会答弁、記者会見、放送などの表だっての場面では政治家としての建前を上記の如くクリアカットに述べる。これには誰だって文句のつけようもない。言い尽くされてきた一般論的名言だから自信に満ち、歯切れもは良い。こんな事を引用する局の側の良識も問われても良いんじゃないか。

 彼の政治手法はこの談話とはまったく裏腹の、言語道断、即決即断である。そこには十分なディスカッションは無いに等しい。討論の基本は話すことでなくまず傾聴することであるはずだが人の意見をじっくりと聞けないらしい。
 特に医療・福祉分野に関しては彼は長らく厚生大臣を務めた経験があるから現実を知らないはずはないが厳しい判断を次々に繰り出してくる。今回のマイナス3.16%の診療報酬の改定は彼の一言で史上最大の引き下げ幅で、と方向性が決められ、安部官房長官が具体的数値を出したとされている。

 小泉首相になってから日本医師会の医政への影響力は大幅に弱まった。医師会の意見は殆ど首相にまで届いていないようだ。あるいは届いていても弱小集団として完全に無視しているのかもしれない。次の首相は誰になるか分からないが少なくとも小泉流であっては欲しくないし、日本医師会も戦術を考え直すべきだ。このままでは日本の医療は、政治家にとっては都合の良いものになるだろうが、国民、医療関係者にとっては確実に悪化の道をたどることになる。すでに医療難民・介護難民が出始めている。
 
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射水市民病院の呼吸器外し(1)家族の同意は関係ない

2006年03月28日 06時35分30秒 | 医療、医学
 富山県射水(いみず)市民病院で外科部長(50)が患者7人の人工呼吸器を外して死亡させた、としてここ数日新聞紙上をにぎわしている。
 末期ガンで余命いくばくもなくとも装着された人工呼吸器を外して患者を死に至らしめることは、例えその背景にどんな配慮が働いたとしても、現在の我が国の医療では許されていない。あってはならないことである。この外科部長は殺人罪で起訴される可能性が高い。

 私は新聞報道からの情報しか持ち合わせていないが、家族の希望や同意があって取り外したか否かが問題になっているようだ。しかし、この際、家族の同意は判断の材料にはならない。例え家族が取り外しを要求してきても外してはならない。

 この事件は、昨年10月に、8例目になっていたかもしれない別の患者の人工呼吸器を取り外そうとしたことから発覚した。この患者は昨年10月上旬に病院に搬送され、外科部長は蘇生措置をして人工呼吸器を装着、外科病棟に空床がなかったために内科病棟に入院させた。部長は3日後に人工呼吸器の取り外しを看護師に指示したが、これを内科の看護師長が不審に思い副院長に報告、一連の問題が発覚した。院長が人工呼吸器の取り外しを禁じ治療を続行、男性は同月中旬に死亡した。同病院の調査では、00年から昨年にかけて50-90代の末期の入院患者7人が人工呼吸器をはずされて死亡していたことが判明した。
 
 今までも同様のケースがないわけでなく、最近のものとして川崎協同病院の呼吸器取り外し事件がある。しかし、死者が7人にのぼるのはわが国では異例のことで、重大視した県警は患者一人ひとりについて立件の可否を検討していくとし、(1)人工呼吸器を取り外す場に誰がいたか(2)実際に呼吸器を外したのは誰か(3)患者の「同意」の有無、などから殺人容疑などにあたるか否か捜査を進める、と表明している。
 
 外科部長は95年4月から同病院に勤務していた。昨秋から診療現場をはずれているという。院長によると、外科部長は責任感が強く、自分で全責任を負うタイプで院内の評判も、患者の評判も良かったとのことである。

 死を目前としている患者の延命治療はどこまで行うべきなのか。その判断を個々の医師に負わせてよいのか。私もいつも臨床の現場で悩んでいる事項である。重い問いが突きつけられる出来事がまた起こってしまった。あってはならないことであるが、生命倫理等の重大事項の検討をおざなりにしてきた現代社会に大きな警鐘となって欲しいものである。

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自伝 秋田大学時代 博士号をとることになる(2)語学試験「お情け合格」

2006年03月27日 06時41分45秒 | 自己紹介・自伝
 博士号の提出には外国語の審査に合格しなければならない。大学院に進学した博士論文を提出する際には入学試験の中に語学含まれているから不要であるが、論文博士の検定には事前に受験し、クリアしておかなければならない。
 語学音痴の私にとっては厳しい状況を迎えることになるが、避けては通れない。しぶしぶ準備に取りかかった。実際の試験は英語とドイツ語で試験場には辞書持参可能で、ドイツ語の方は予めテキストが配布され、その中の一部を和訳する、形式である。
 一般的な検定試験の概念から見れば実に甘いものであると言われよう、そんなものであった。英語の方は普段から論文を読んでいたから何とかなりそうであったが、ドイツ語の方は学術論文を2,3は必要に駆られてまじめに読んだことはあるが、あえてドイツ語圏の論文を読むことを避けてきた。だから、大学進学課程以来実に10数年ぶりの取っ組み合いである。

 予め配布されたドイツ語のテキストは15ページほどと長大なものでガックリ来た。
 内容は医学関係で耳鼻科的領域を中心にした一般的学術論文で広い範囲の総論的なものであった。仲間同士で何人かが受験する場合には互いに分担して能率的に準備を進める事も出来るわけであるが、私は仲間を作らない方だから、何人受験するかも誰が一緒かも知らないまま準備に取りかかった。
 そのころはたまたま学会準備とかで仕事が立て込んでいたこともあり実に大変な3週間を送った。大学受験以来の受験勉強であったが短期勝負と言うことで睡眠時間も削ってあらゆる時間をこの間準備に充てた。最後は体力・気力の勝負と言う状態であった。準備した内容自体が正しいかも分からないまま、和訳困難なところは飛ばしに飛ばし、ひたすらがむしゃらに準備したが結局モザイク的に70%ほどしか準備が出来なかった。まあ、その場で考えればいいさ、といった割り切りもあった。

 受験の日、5名ほどの受けた様に記憶する。当日配布された英語の文章も難解なもので「日本人の心における桜の意義」と言った内容であった。書くには書いたが、はっきり言って自身から見ても不十分な解答となった。

 一週間ほど後教授に呼ばれた。「判定会議には福田君のみがかかって随分もめましたよ。最後は合格させましたが、殆どお情け的合格でしたよ・・・」とのこと。あまりのひどさに赤面したが、内心ではこれでもう今後二度と受験なんてしないで済むであろう、イヤ機会があっても二度と受験なんかするモンか、と思った良い瞬間であった。

 翌日、合格発表があり、一人だけが不合格であった。すれすれであっても合格は合格なのだ。私は大きな満足感と開放感を味わった。
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