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朝日訴訟ー元裁判官の手記

2010-10-13 23:43:21 | 貧困と社会

憲法25条の生存権裁判として名判決を下した元判事が50年の沈黙を破り、手記を発行しました。NPO法人朝日訴訟の会が発行したもので、パンフレットです。

いま、老齢加算の生存権裁判が行われている中で、意義あるものだろうと思います。パンフレットなので、簡単に全文紹介できますが、著作権にふれるので、前文の「はじめに」を紹介することにしました。


手記を書いた弁護士の小中信幸さん(右側)


五十年の沈黙を破る第一審判決原稿 ―はじめににかえてー

小中弁護士にはじめてお会いしたのは、この冬二月初旬のことであった。朝日訴訟第一審判決の原稿を、NPO法人朝日訴訟の会にご寄贈いただけるとのことであった。1960年の判決以来のことであり、いわば50年の沈黙を破って、判決原稿が日の目を見るのである。

 その頃、私たちの朝日資料整理作業は、たまたま「行政管理庁の国立療養所に対する勧告」という資料を発行した矢先だった。それによれば、1958年末に調査が開始され、翌年十二月に厚生大臣に対して国立療養所の改善、とくに患者食の改善勧告がなされている。

 日本患者同盟発行の機関誌「療養新聞」号外(1960年発行)が、その資料を採録している。
そして、そこには、「資料の人手経路を秘匿する意味から、配布範囲を県組織までに限定すると明記され、マル秘印が捺されている。私は、初対面の小中さんに、判決文を起草された当時この資料をご覧になりましたかと、かなりぶしつけどは思いながら、質問した。

 それに対して、小中さんは、「自分の判断を左右しかねない情報は、『雑音』として意識的に排除した。
自分の判断にとって有利な情報でも同じことである。あくまでも証拠と自らが公正と信じる信念に基づいて判決は下される。」といった趣旨のことを淡々と答えられた。また、あの世紀の大判決がどのようにして生まれたのかという問いに対しても、「評議の秘密ということがあるから、具体的には答えられないが」と前置きをした上で、当時の裁判長、右陪席裁判官、左陪席裁判官との間では、日常の世間話をはじめとし、たずさわっている裁判についても、常に話題に上った。朝日訴訟についての考え方についても、基本的な考え方は三者の間で同じだったと言われた。

 裁判所の慣行として、一番年の若い左陪席裁判官が、判決文の原稿を書くことになっているとのことであるが、若手裁判官として小中さんが手がけた裁判はかなりの数に上り、その起案した判決文も相当な数に上るはずである。それらの中には、小中さんご自身の「信念」や「証拠」解釈などに照らして、必ずしも意に満たぬものもあっただろうことも想像される。

 逆に言えば、朝日裁判の判決ほど、小中さんの信念がストレートに吐露された裁判はまれだったと言えるのではないか。小中さんが、数多い判決原案のうち、この朝日訴訟の起案書原稿だけを保存されたということ自体が、そのことを傍証しているように私には思われてならない。

五十年前の朝日訴訟第一審判決は、「最低限度の生活水準を判定するについて注意すべきことは、その時々の国家予算の配分によって左右さるべきものではないということである。」「最低限度の水準は、決して予算の有無によって決定されるものではなく、むしろ、これを指導支配すべきものである。」と判示している。

 これに対して、今年の五月二十七日東京高裁の老齢加算訴訟を棄却した判決文は、老齢加算をしなければならない「特別の需要が失われている」のに加えて、「我が国の経済力や財政」ではそれを支弁することが困難だとした上で、この判決は、以上二つの理由に基づくものであるから、「もっぱら財政的動機によるというのではない」としている。
   
 老齢加算復活要求は、「お香典も払えない」と訴えている。香典も払えない、葬儀にも参列できないという事態が老人にとって何を意味するかといえば、体面の失墜であり、親族共同体からの実質的な排除であろう。彼の社会生活の重大な部分が無理矢理もぎ取られるのである。
                        
 判決は、だからといって飢え死にするわけではあるまいと言っているのに等しい。その上で、もし国の財政力に余裕があれば、出来るかもしれないと暗にはのめかし、だからこの判示は、「もっぱら財政的動機によるものではない」と弁解している。

 この裁判を主導しているものは、社会生活の実際に暗い冷酷な感情と、輝かしい朝日訴訟の原則を意識しつつ、それにまったく違反しているわけではないとつい弁解したくなるような信念の「動揺・欠如」そのものである。
 五十年前の朝日訴訟第一審判決は、今もなお、愚劣な裁判を裁断する輝かしい光芒を放ち続けていると思う。

 2010年6月13日
         NPO法人朝日訴訟の会    会長 岩間 一雄

※このパンフがほしい方は〒700-0054 特定非営利活動法人 朝日訴訟の会
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