南斗屋のブログ

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内定通知の法的性質 民間企業の従業員と公務員の違い 下

2021年03月18日 | 労働関係

(はじめに)
 内定通知の法的性質は、民間企業の従業員と公務員では違います。前回、大日本印刷事件最高裁判決をもとに民間企業の内定について見ましたが、今回は公務員について見ていきます。

(公務員の場合の判例)
 公務員については、採用内定取消処分取消等事件の最高裁判決があります(最判昭57・5・27民集36・5・777)。

(昭和57年最高裁判決)
 裁判所のホームページでは、この判決要旨として次のように記載されています。
「地方公務員である職員としての採用内定の通知がされた場合において、職員の採用は内規によつて辞令を交付することにより行うこととされ、右採用内定の通知は法令上の根拠に基づくものではないなど、判示の事実関係があるときは、右採用内定の通知は事実上の行為にすぎず、右内定の取消しは、抗告訴訟の対象となる処分にあたらない。」

(民間企業との違い)
 大日本印刷事件では、内定通知により労働契約が成立するとされていましたが、公務員の場合は、事実上の行為にすぎない(=法律上の効果を有しない)とされています。
 これには、次のような理論的な背景があると考えます。 

1 まず、公務員の勤務関係は、私法上の契約ではなく、公法関係であるということです。この点を明らかにしたものとして、最判昭56・6・4労判367・57があります。
 公法関係であるとすれば、私法上の契約であることを前提とした大日本印刷事件とは自ずから異なることになります。 

2 公務員の勤務関係について公法関係であるとして、従来は特別権利関係説が採られていましたが、現代においては特別権利関係説の支持者はおらず、公法上の勤務関係説が有力です。この説は、公務員の勤務関係に、広範に法律・条例による規律が及んでいるので、各法律・条例の解釈として勤務関係を議論すれば足りるという説です。
 
3 そこで、採用について検討してみましょう。採用とは、職員以外の者を職員の職に任命することをいい(地方公務員法15条の2第1項)、内定と密接な関連性を持つからです。
 採用の時期については、辞令書が交付された時点または辞令の交付に準ずる任命権者による明確な意思表示が必要とするのが判例です(前掲最判)。任命行為自体は意思表示であり、意思表示の到達が必要との考え方からでしょう。

4 内定通知が交付されただけでは、辞令書の交付がなければ、その者を職員として採用したとはいえないこととなります。
 そこで、最判昭57・5・27民集36・5・777では、内定通知の法的性質を、採用発令の手続きを支障なく行うための準備手続きとしてされる事実上の行為に過ぎないと解したものと思われます。


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