南斗屋のブログ

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内定通知の法的性質 民間企業の従業員と公務員の違い 上

2021年03月15日 | 労働関係
(はじめに)
 内定通知の法的性質は、民間企業の従業員と公務員では違います。それぞれ最高裁判例があるので見ていきましょう。

(民間企業の従業員の場合)
 民間企業の従業員については、大日本印刷事件の最高裁判決があります(最判昭54・7・20民集33・5・582)。

(大日本印刷事件判決)
 この判決は一律に内定通知の効力について判断したものではありません。採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難であり、ケースバイケースで判断すべきだとしています。その意味では、事例判決であり、民間企業の内定通知の全てをこの判決で判断するのは誤りということになります(注)。しかし、事例に対しての判断でありながら、民集に登載されているのは、その影響力の強さを示していると言えましょう。

(最高裁が着目した事実)
大日本印刷事件で、最高裁が着目した事実は次の点です。
・大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、その入社試験に合格して採用内定の通知を受けた
・内定者は、企業からの求めに応じて、大学卒業のうえは間違いなく入社する旨及び一定の取消事由があるときは採用内定を取り消されても異存がない旨を記載した誓約書を提出した
・その後、企業から会社の近況報告その他のパンフレツトの送付を受けたり、企業からの指示により近況報告書を送付したなどのことがあった。
・他方、企業において、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつた

 そして、最高裁はこのような事実関係のもとにおいては、としながら、要旨次のような判断をしました。
「企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であつて、誓約書の提出とあいまつて、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。」
 この判示部分がひとり歩きをしていますが、最高裁の判決は用意周到に事実関係を摘示し、その事実関係の上ではという前提で判断しています。

(民間企業の場合)
 以上のように、大日本印刷事件判決の事案においては、内定通知により労働契約が締結されるということになります。
 
(公務員の場合)
公務員については次回の記事で検討します。

(注)
 最高裁の判示は次のとおりです。
「企業が大学の新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。したがつて、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するにあたつては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある。」


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