南斗屋のブログ

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新型コロナの予防接種の位置づけ

2021年03月05日 | 地方自治体と法律
<はじめに>
 新型コロナの予防接種については、国は「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き」(以下、「手引き」)を作成しており、現時点では2021年2月16日付の「2.0」版が最新のようです。
 この手引きを手掛かりに、今回の予防接種がどのような法的な根拠で行われるのかについて検討してみます。
まず、結論をあげておきます。
新型コロナの予防接種は、予防接種法に規定されている「臨時の予防接種」として行われるものです。自治体が行う臨時の予防接種は、第一号法定受託事務と位置づけられています。
以下、このようにいえる理由を見ていきます。

<手引きの記載>
 手引きでは次のように記載しています。
「今般の新型コロナワクチンの接種については、予防接種法附則第7条の特例規定に基づき実施するもので、同法第6条第1項の予防接種とみなして同法の各規程(同法第26条及び第27条を除く)が適用されることになる。」
いろいろな条文が引用されていますが、2つの条文に絞ってみます。、
①今般の新型コロナワクチンの接種は、予防接種法附則第7条に基づく
②同法第6条第1項の予防接種とみなす
というのですが、予防接種法の条文がわからないとこの文が述べている意味が分かりませんので、法律の条文を見ながら意味を考えていきましょう。

<予防接種法附則第7条>
 予防接種法附則第7条は長い条文なので、まず、第1項を見ていきます。
「厚生労働大臣は、新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和二年一月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。以下同じ。)のまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者、その期日又は期間及び使用するワクチン(その有効性及び安全性に関する情報その他の情報に鑑み、厚生労働省令で定めるものに限る。)を指定して、都道府県知事を通じて市町村長に対し、臨時に予防接種を行うよう指示することができる。この場合において、都道府県知事は、当該都道府県の区域内で円滑に当該予防接種が行われるよう、当該市町村長に対し、必要な協力をするものとする。」
 要約すると、今回の新型コロナに対してワクチンを指定して、臨時の予防接種をするように、国は自治体に対して指示することができるということです。
 ここで出てきた「臨時の予防接種」という言葉は今後の説明でもでてくるので、記憶しておいてください。

 さて、第7条第2項を見てみます。
「前項の規定による予防接種は、第六条第一項の規定による予防接種とみなして、この法律(第二十六条及び第二十七条を除く。)の規定を適用する。」
 先ほど引用した手引きと同じ言葉が出てきました。ただ、この条文は第6条第1項を引用しているので、それを見ないと意味がわかりません。

<予防接種法第6条:臨時の予防接種>
 第6条第1項を見てみます。
「(臨時に行う予防接種)
第六条 都道府県知事は、A類疾病及びB類疾病のうち厚生労働大臣が定めるもののまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、その対象者及びその期日又は期間を指定して、臨時に予防接種を行い、又は市町村長に行うよう指示することができる。」
 第6条のタイトルに「臨時に行う予防接種」という言葉がでてきました。
 これは、先ほど覚えておいてくださいといった「臨時の予防接種」と同じ意味です。
 ここまで見てきて、
ア 附則第7条第1項で、今回の新型コロナに対してワクチンを指定して、臨時の予防接種をするように、国は自治体に対して指示することができることを規定し、
イ 附則第7条第2項で、それが法第6条第1項の臨時の予防接種とみなすことを規定した
ことがわかります。

 それにしてもなぜこんな回りくどい条文を作らなければならなかったのでしょうか。
 それは、臨時の予防接種については、”都道府県が市町村に指示する”という構図になっているからです。
 予防接種はあくまでも国が行うものではなく、自治体が行うものというのが現在の予防接種法がとっている構図です。しかし、今回の新型コロナの予防接種は国主導で行わなければならない。なにせ全国民に対して予防接種を行おうというプロジェクトです。しかし、法律の建てつけは、臨時の予防接種は都道府県知事が主導して行うことになっている。その建てつけは崩さないでおいて、今回のは特例ということで処理する。そのような条文の構造になっています。

<臨時の予防接種は法定受託事務>
 臨時の予防接種は、国との関係では、第1号法定受託事務というものにあたります(予防接種法第29条)。
 法定受託事務というのは、法律で都道府県や市町村がが処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものをいいます(地方自治法第2条第9号第1号)。国が自治体に委託しているというイメージですかね。
 第1号法定受託事務の例として、生活保護、選挙、旅券交付等があります。

<参考になる本>
 今回は、手引きと条文のみで検討してみましたが、予防接種法については、「逐条解説予防接種法」(厚生労働省健康局結核感染症課監修・中央法規)が参考になります。

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