尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

延期の力学、英語民間試験問題

2019年11月01日 23時16分17秒 |  〃 (教育行政)
 11月1日、萩生田文科相英語民間試験の導入を延期すると発表した。僕は10月29日付で「延期幻想を持つべきでない」と書いた。では、どうして見込みが違って延期が決定されたのか。以下で僕の分析を示しておきたい。まず第一は、10月31日に河井克行法相が辞任したことだ。その日発売の「週刊文春」に、7月の参院選広島選挙区で当選した河合法相の妻、河合案里陣営に選挙違反があったと報じられた。前日にウェブ版の週刊文春に報じられた時点で問題視され、翌日の朝には辞表を提出した。普通は「これからよく調査する」とか言って一週間ぐらい経ってしまうもんだ。
(延期を発表する萩生田文科相)
 この河合法相辞任がもう少し遅かったら、「すでにID申請が始まっている」というロジックで止められない可能性が高くなっていたところだ。(11月1日から民間試験のためのID申請が始まる予定になっていた。)本当にギリギリのところで、延期が決まったことになる。歴史にはこのような「偶然」が突然事態を動かすことが時々起こる。今回は民間試験の導入自体に大きな問題があり、少なくとも柴山前文科相の段階で止めているべきだった。この決定は複雑な政治的思惑が絡んでなされたもので、間違っても「われわれの声が届いた」的な幻想を持つべきではない。

 河合法相問題で国会の審議も止まってしまった。今後野党側が延期法案審議を求めてその上で英語民間試験問題がもめて混乱が広がった場合、今度は萩生田文科相の責任問題に広がってゆく。安倍政権としては「辞任三連発」だけは避けたい。そうなったら皆が「第一次安倍政権を思い出す」と言い始める。所詮は菅(官房長官)の子分である菅原一秀(経産相)や河合克之(法相)と違って、萩生田は安倍直属であり、加計問題のまさに当事者である。だからこそ文科省に送りこんだわけで、その辞任は政権を直撃し加計問題を再燃させかねない。英語民間試験なんか安倍政権にとっては二の次であり、要するに大事なのは「萩生田文科相を守る」ことなのだ。

 僕は延期を主張していたから、今の段階であっても「延期自体は強行実施するよりは良い」と考える。文科省を信じて頑張っていた学校が梯子を外されたという意見もあるが、決まったら従わざるを得ないが、そもそも文科省の教育政策を信じることが間違いだ。今までも教育行政は行き当たりばったりが続いてきて、およそまともな教育関係者なら本気で信じ込んだりしない。文部官僚の信用が地に落ちたとも言うが、それこ今後の教育には望ましいことである。

 ただ考えておくべきことは、「検定そのものは意味がある」のである。英語の「話す力」重視は今後も続いてゆく。大学へ入っても英語の勉強は続く。高校時代に英語をきちんと修得していないと、大学に入っても苦労することになる。英語に限らず、今は様々な検定が存在し、推薦入試などで有利に使える。特に英語は今までも外部検定が重視されているから、英語の諸検定に向けて頑張ることは必要なことだ。問題はその結果だけを大学の合否判定に使うことである。これは本質的に改善不可能で、制度設計そのものに無理があるのだ。

 ところで、政治家にとって「今の最大関心事」はなんだろうか。「台風被害の復旧」「日米貿易摩擦」「日韓問題」なんかではないだろう。「東京五輪」でも「憲法改正」でもないだろうと思う。じゃあ何かというと、「ポスト安倍」とその前にあると想定される「解散・総選挙」である。もう街頭ではポスターや演説が目立ち始めている。衆議院議員4年の任期がほぼ半分終わり、政局的にはいつ解散があってもおかしくない時期に入っている。野党の準備が整わないうちに不意打ちをすることが好きな安倍首相としては、本来「いま」も想定にあっただろうと思っている。

 秋には台風が相次ぎ、東日本各地に甚大な被害が生じた。しかし、それは見通せないことで、台風がほとんど来ない年もあった。もし台風がなかったとすれば、そこには「ラグビー・ワールドカップ」と「即位の礼」だけがある。ラグビーの結果は予想できないが、この日程を見たら選挙したくならないだろうか。ただし前回のように「臨時国会冒頭解散」はできない。10月4日召集だったが、そこで解散すると「即位の礼」に引っかかる。現実には9月の台風15号の千葉県の大被害で選挙の可能性が消えた。

 となると、解散・総選挙は2020年である。安倍首相の自民党総裁としての任期は、2021年9月までだ。2021年になると、任期満了色が強まり安倍政権自体も「終わり」感が出てきかねない。そこで今一番予想されているのは、2020年の東京五輪、パラリンピック終了後である。パラリンピック終了は9月6日。そこから9月末の国連総会、その頃予想される内閣改造を考えると、2017年のような10月10日公示、22日投票という日程は無理だ。2020年はオリ・パラで政治日程も後押しになる。

 となると、11月か12月の選挙が予想されてくる。そうなると、早生まれの生徒を除き、ほとんどの高校3年生に選挙権が生じているのである。まさに当事者の地方の高校3年生、その親がどういう投票行動をするだろうか。その時は棄権せず、延期を主張した野党側に一票を投じるのではないか。そして改めて萩生田発言が選挙戦に持ち出される。地方の有権者はどう判断するだろうか。地元の高校生に不利益が生じる教育政策を推し進めた政党に批判が集まるのではないか。おそらく今回の延期判断の底流には、そのような「地方選出政治家」の選挙への不安があったのではないかと思う。
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