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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

物品税を忘れた日本人ー消費税考①

2019年09月26日 23時17分17秒 | 政治
 2019年10月1日から消費税が8%から10%に引き上げられる。ただし今回は「軽減税率」が導入され、食品などに適用される。政府は予想される消費落ち込みに対する景気刺激策として、キャッシュレス決済に限って、5%(または2%)のポイント還元などを打ち出しているが、これがなかなか判りにくい。消費税アップに関して、いろんな人がいろんなことを言ってる。僕は大分前に書いたことはあるが、今回は書いてない。他の人と違った考えを持っていて、書いても理解されにくいと思っているからだ。

 だがまあ、こういうことを考えている人もいると書き残しておくことにする。今回は特に「軽減税率」が導入されることで、判りにくいという声が多い。「線引きが大変」というのは間違いないが、どんな税であっても「線引き」が必要だ。例えば所得税の課税最低ラインをどこにするかなどで、いつも問題になる。また「物によって税率が違うのはおかしい」とか「そもそも税率10%は高すぎる」とか言う人もいる。だけど、僕は思うんだけど、消費税導入で廃止された「物品税」を覚えていないんだろうか。

 大真面目に「消費税を廃止せよ」と主張する人もいるけれど、それなら「物品税に戻す」のだろうか。日本は1989年4月から「物品税を廃止して消費税を導入した」わけだから、「消費税を廃止するなら、物品税に戻す」というのが筋になるはずだ。しかし、僕の知る限り消費税に反対している人で、物品税に触れている人はいないと思う。「消費税を廃止しても、物品税にも戻さない」というなら、ちゃんとそのように確認するべきだ。僕は現実に消費税が廃止できるとは思えないけれど、もし消費税を無くしたら物品税を新たに大々的な規模で導入するしかないだろうと思う。
(物品税の証書があるゴルフクラブ)
 消費税は導入に際して多くの問題があった。そのことは次回以後に書くけれど、そのため「政府が国民にウソをついて強引に導入した」というイメージがつきまとった。今も50代以上の人(導入の経緯を覚えている世代)には、消費税がなんとなくうさんくさく見えている人も多いんじゃないかと思う。そのため反対が少なくなるように、また徴税事務が簡単になるように、政府は物品税を1989年4月から廃止した。物品税というのは、もともと戦時特別税として導入され、戦後も継続された。もともと「贅沢品にかける税」だったので、戦争直後の苦労の多い時期には大方が納得できる税金だったのである。
(物品税の税別表)
 消費税導入前年の1988年に、様々な税金が全体の税収の中でどのくらいを占めていたかを調べてみた。法人税が34.4%(18兆7千億)、所得税(源泉徴収)が24.9%(13兆6千億)、所得税(申告)が9.5%(5兆1千億)で、当然だが個人所得税と法人所得税が多い。続いて酒税(4.2%)、物品税(3.9%、1兆9317億円)、相続税(3.5%)といった順番になっている。(物品税の資料がウェブ上で見つからないので、国会図書館の官庁資料室に開架で置かれている「国税庁五十年史」の資料編を見た。2000年に刊行された本で、大きな図書館なら蔵書にあるかと思う。)

 上に載せた税別表を見れば判るけれど、税率はバラバラだ。普通乗用車は23%、軽自動車は15.5%である。一番高いのは、ゴルフやビリヤードの用具、貴金属時計類などの30%。クーラーや大型冷蔵庫は20%、真珠、毛皮、レコードなどが15%、化粧品や炭酸飲料、コーヒー、ココアなどが5%である。このように税率は様々で、そこにはよく判らない面もあるが、大きな方向としては何となく理解できる。コカコーラやコーヒーが贅沢商品だった時代なのである。

 この税率が一挙に3%(消費税導入時の税率)に下がった。これは多分、バブル最盛期のブランドもの大流行などの直接的きっかけなんじゃないだろうか。すぐに破裂してしまうバブルだが、好景気の時代に贅沢品が2割、3割近く値下げされたんだから、富裕層は飛びついたんじゃないだろうか。せっかくの物品税がなくなって良かったのか。薄く広く負担する消費税は、実は3%の時期であっても、税収の5%前後を占めている。物品税より多いのである。だから、富裕層を優遇して物品税を廃止しても、消費税を導入する方が国家財政には寄与したわけだ。

 この物品税がすごくいい税だとは思わない。実は大きな欠陥があった。それは「物品」ごとに指定するというやり方である。高度成長期に続々と新製品が出てきた時代である。新製品は指定されるまでは無税である。だからブラウン管型のテレビは物品税が掛かり、新商品の液晶テレビが無税だったりしたらしい。有名な例では「童謡レコード」は「児童教育用」とされ無税だった。

 では皆川おさむの「クロネコのタンゴ」や子門真人の「およげ!たいやきくん」はどっちだろう。若い世代でも聞いたことがあるだろう。当時の大ヒット曲である。でもまあ「歌謡曲」じゃなくて「童謡」と言えるかな。ウィキペディアによれば、「たいやきくん」は無税になったが、「クロネコ」は東京国税局は童謡としたが、他は課税対象にしたと出ている。そう言えば、そんな話を当時聞いたことがあったような…。どんな税にも面倒なことがあるものだ。
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