goo blog サービス終了のお知らせ 

尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

原節子の訃報を聞いて

2015年11月26日 23時45分04秒 |  〃  (旧作日本映画)
 「元女優」の原節子が9月5日に亡くなっていたという。1920年6月17日生まれで、満95歳だった。昨日の夜のニュースで聞いて、すぐに書こうかとも思ったのだが、あまり感情が動かなかった。もう95歳で、引退からも半世紀以上経っている。「伝説」という他ない女優で、新聞を見たら「元女優」と書いてあった。同時代を知っているわけでもなく、過去の素晴らしい日本映画を見始めてから知ったわけだが、母親の話にはよく出てきていた。(ベティ・デイヴィスの方が多いが。)
  
 新聞では「東京物語」「晩春」が大きな見出しになっていた。うーん、まあそういうことになるのだろうな。あまり小津作品ばかり言われると、つい他の監督の名作にもいっぱい出ているよと言いたくなる。だけど、どうもいまの時点で見ると、あまり好きになれない映画が多い。戦時中の戦意高揚映画はもちろんのこと、戦後になって逆に民主化の旗手みたいな感じで出た「わが青春に悔いなし」(黒澤明)や「青い山脈」(今井正)も今見ると、なんだか納得できないところが多い。それは脚本や演出の問題と言えるが、原節子の演技もどうなんだろうか。

 でも若い時の、つまり戦時中の原節子は美しかった。よく「バタ臭い」顔立ちと言われ、演技的には大根と言われたとされるが、そういう批判を吹き飛ばす若い魅力がある。戦後になると、日本映画の最盛期とも言える「巨匠の時代」を支える女優のひとりとなった。黒沢、小津だけでなく、成瀬巳喜男木下恵介吉村公三郎などだが、フィルモグラフィを見ると、それ以外にも「文芸作品」の出演が多い。成瀬の「めし」や「山の音」も名作なんだろうが、好きな映画ではない。案外さまざまな役柄を演じていたのに、マジメで誠実な印象が小津映画、黒澤映画で確立してしまった感じだ。本当は喜劇で演じたコミカルな役柄の方が魅力的なのではないか。木下恵介「お嬢さん乾杯」とか千葉泰樹の「東京の恋人」、「大番」シリーズのような。もっとも「大番」は加東大介の憧れの君をやってるだけだが、原節子の人生を象徴する映画かも知れない。

 原節子を演出した映画監督は一人も存命ではない。まあ引退したのが42歳だから、もっと年上の監督が先に亡くなるのは当然だ。共演した俳優はまだ何人か存命で、今回様々なコメントを残している。それらの人々は、原節子の妹や娘を演じた女優が多い。司葉子は「秋日和」と「小早川家の秋」でどちらも娘を演じている。個人的なつきあい(といっても電話するぐらいらしいが)が最後まであったことがコメントで示されている。「東京物語」の妹役の香川京子、「東京暮色」の妹役の有馬稲子、「青い山脈」で生徒役の杉葉子などが存命している。まだまだ元気で活躍している人が多い。

 引退の理由については、僕はあまり関心がない。もうそういうものとして知ったことだから。「日本のグレタ・ガルボ」と言われると知識で知った話である。今ではもうグレタ・ガルボという名前も解説なしには通じないだろう。どんな世界にも、ある時点で「世間」との関係を断ってしまうしまう人がいる。それを周りは尊重するべきだ。最後に一言書けば、黒澤明の「白痴」というドストエフスキーの原作を札幌に移した映画がある。徹底的に切られて、「呪われた映画」というジャンルに入れられる映画かも知れない。(松竹は残されたフィルムがないのか徹底的に探して欲しいと思う。)原節子の美しさという点では、この映画の那須妙子(ナスターシャ)が最高なのではないだろうか。引退したからでも、小津映画に出たからでもなく、やはり「神話的な美しさ」を持っている女優だった。
コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「アクトレス 女たちの... | トップ | 感動的な「ヒトラーに抵抗し... »
最新の画像もっと見る

4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
コメデイ (PineWood)
2016-01-29 03:28:07
千景泰樹監督の映画(東京の恋人)の焼け跡でシューシャイン・ボーイズを引き連れた親分肌の街頭絵描きの原節子、(大番)の永遠の心のマドンナの写真の原、或は時代ものでも現代のお茶の間ものでも光彩を放った…。号泣の原節子もいいが、少し怒った母の顔もいい!でも、庶民的な笑顔が一番似合っていた。千葉泰樹、木下恵介、小津安二郎、黒澤明、山本薩夫などの大監督から写真家・秋山庄太郎などまでも捉えて離さなかった魅力がフォト・ジェニックな洋風なその顔立ちにあるのだけれどー。
返信する
東京の恋人 (PineWood)
2016-04-21 12:07:07
昨日、シネマベーラの千葉泰樹監督特集で(東京の恋)人を再見した。小津安二郎監督をして最高の映画女優と言わしめた原節子の魅力とは。街角の似顔絵描きというコメデエンスな役柄の本編を観て特にイミテーションのダイヤモンド造り師の三船俊郎との掛け合いから気が着いた…。フォトジェニックな二人の魅力に加えて繊細な感情表現の豊かさでの共通性ではないのかな、と。演劇的に大袈裟な演技をする事では無くて、映画は映像という大写しや色々なアングルによって微細な表情筋や眉の動きがポイントである事を理解していた…。緻密な演出の小津・千葉・成瀬・黒澤等々の名匠監督の期待に応えた名優ここにあり!
返信する
映画の恋人 (PineWood)
2016-04-26 13:56:31
映画人一家の原節子にとって映画は恋人だったし、田中絹代とかジャンヌ・モローみたいにメガフォンを取れば監督としてもきっと名作を残したのだろう…。気さくで勝ち気で庶民的な味のある映画ようなー。映画或いは世界の映画人から映画を通じて半世紀以上に渡りこれだけ愛され続けた女優というのは稀な存在のだろう!銀幕から身を引いていたのは、邦画の方が彼女の出演に値する作品を産み出せなくなっていたということではないかー。
返信する
連続性 (PineWood)
2016-05-02 07:32:42
川本三郎氏の映画の本を読むとその時代と大女優の生まれた背景が分かるような気もするー。戦前からの往年のスター故に敗戦後も夫や兄を戦争で亡くしたり、未だに帰還せずに待ち続けているという役柄がマッチし大衆に受け入れられたのだーと。小津安二郎監督の(東京物語)や(麦秋)の原節子演じる紀子はそういうシュチュエーションでの役処だったー。戦前からの、スター性のその連続性の中に銀幕のスターの存在を読み解いている。凛とした生き方の品格と言う見方も、そんな映画のキャステングの妙から生まれたのかも知れない…。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

 〃  (旧作日本映画)」カテゴリの最新記事