安倍政権の総括をあまり長く続けていても仕方ないので、後2回。最後は「アベノミクス」を考えるので、今回はそれ以外、特に報道の問題を中心に考えたい。「教育」を書かないことになるが、教育は何十年も経ってから弊害がはっきりしてくる。安倍政権が「国家主義的教育を推進した」などと簡単に論断する人もいるけど、そんな簡単な問題じゃない。ただし「道徳教科化」や「小学英語の教科化」など一端制度化されてしまったものは、もう教科書も出来ているし元に戻すには大変なエネルギーがいる。政治的には不可能に近いと思う。
ある意味で「安倍政権を用意したのは民主党政権だった」という観点も重要な視点だと思うが、ここでは指摘しておくだけにする。安倍政権の最大の問題の一つは「不可侵の人事に手を付けた」ことである。内閣法制局長官、最高裁裁判官の後任、検事長の定年延長など、あり得ないような破天荒な人事を強行してきた。しかし、内閣で官僚人事を統括するというアイディアそのものは民主党内閣で作られた。それを安倍政権が「悪用」したわけだが、そんなことをする内閣が現れるとは誰も思わなかった。消費増税の「三党合意」もあったから、安倍政権は民主党内閣の「遺産」をとことん利用したのである。
安倍政権のおよそ8年間の間に、「世界報道自由度ランキング」(World Press Freedom Index)が大幅に低下した。これは「国境なき記者団」が毎年180の国(地域)の報道自由度を採点して発表しているもので、細かい内容はウェブサイトで公開されている(という話だけど、フランス語サイトだから見てない)。北欧諸国が上位にそろっていて、最下位は北朝鮮、トルクメニスタン、エリトリアの3国が争う感じ。その上に中国やシリア、イラン、ベトナムなどがある。
(報道の自由度ランキング)
日本は2010年に最上位の11位だったが、2012年に22位に下がった。(2011年は2012年と合わせて発表された。)その後、50位代、60位代、70位代と下がっていき、最新の2020年版では66位となっている。ドイツ11位、フランス34位、イギリス35位、韓国42位、台湾43位、アメリカ45位、香港80位、インド142位、ロシア149位…といった具合になっている。
この低下を安倍政権だけの責任と見るのは間違いらしい。2010年代に一気に下げたのは、外国特派員が一番取材したい「原発事故」の状況がなかなか取材できなかったことにあるようだ。それは安倍政権にも責任はあるが、もう一つ日本独特の「記者クラブ」制度のため、外国から来たフリーランス記者には取材が難しいという問題もあった。しかし、「特定秘密保護法」の制定でさらに順位を下げ、その後は政権幹部がSNSで記者に反論したり(加藤現官房長官の得意技!)、特定の記者の質問に答えなかったり(菅官房長官の得意技!)が重なり、順位が中位で固定化されたということだ。その菅・加藤官邸コンビではさらに下げるだろう。
政権中枢が報道機関に陰に陽に圧力を掛けたのも安倍政権の特徴だった。特にNHKは大きく変えられてしまった。安倍首相退陣に当たって多くの人がいろんなコメントをしたけど、僕がなるほどと共感したのが作家平野啓一郎氏のツイートだった。「負の遺産は山ほどあるが、NHKの7時のニュースの信頼を完全に失ってしまったことは、とても寂しい。子供の頃、祖父からNHKの7時のニュースは必ず見て、世の中のことを知らないといけないと諭されて以来、習慣化していたのだが。このあと変わるんだろうか?」と言うのである。(30日付)
(安倍政権とNHK)
僕も全く同じである。NHKの7時のニュースはつまらなくなって久しいが、それでも「NHKがどう報道しているか」が一つのニュースだと思って見続けていた。夜間定時制勤務の時を除いて、間に合うときは大体見ていたと思う。それは「社会科教師の仕事」であると思っていたからだ。しかし、「どう報道するか」を知るためには、そもそも報道してくれない限り検証できない。NHKニュース、特に7時は報じないことが多くなりすぎた。大震災以降、災害・気象関係のニュースが優先されるようになったうえ、NHKの番宣が多い。そもそも出て来ないんだから、「どう報道しているか」はもう関係なくなった。自分も教師じゃないんだから、もう見る意味がない。
母親が俳句をやってるから、数年前から木曜だけは「プレバト」を見ることが多かったけど、今じゃ他の日も民放を見ることが多くなってしまった。しかし、それを「NHKはダメになった」というとらえ方はしていない。政権や世論を踏まえて、どんなメディアであれ「絶えざる闘い」の最中にあるというべきだろう。安倍首相はNHKの経営委員に百田尚樹氏など政権に近い人物を送り込み、2014年1月に会長に籾井勝人氏を据えた。籾井会長はNHKの国際放送についてだけれど、「政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」と発言した。
「クローズアップ現代に菅官房長官が出演し、国谷裕子キャスターの質問に不快感を覚えたことから、7時半にあった「クロ現」がつぶされたと言われる。そういう問題こそ菅首相に質すべきことだと思う。テレビでは「令和」を掲げる菅氏ばかり映し出すが、記者会見で疑惑に向き合わない答弁を繰り返してきた様子を特番で報じれば、こんな馬鹿げた政権支持率が出ないと思う。国民は官房長官なんか、ちゃんと覚えてないのである。しかし、裏で放送局に圧力を掛けるというのは、菅氏が始めたことではない。もともとは安倍晋三氏の「得意技!」だった。
テレビやスマホでニュースを見ているだけでは、肝心な情報はつかめない。それは原発事故の時に皆痛感したはずなのに、何で安倍政権や菅政権にコロリと参ってしまう人がいるのか、僕には理解出来ない。テレビで批判的報道が難しくなってくると、今度は新聞もおかしくなる。情報を批判的に読みこむ力が弱くなり、安倍政権批判派でも自分の意に沿うニュースだけ切り取って拡散する人が増えてきた。歴史を「史料」によらずに好き勝手に語る人も多い。どうしたらいいのかと悩む前に、僕は良質なミステリーを読むのがいいと思っている。「ミレニアム」シリーズやホロヴィッツの小説なんか。小説には欺されてもいいけど、だましの手口を学べる。
ある意味で「安倍政権を用意したのは民主党政権だった」という観点も重要な視点だと思うが、ここでは指摘しておくだけにする。安倍政権の最大の問題の一つは「不可侵の人事に手を付けた」ことである。内閣法制局長官、最高裁裁判官の後任、検事長の定年延長など、あり得ないような破天荒な人事を強行してきた。しかし、内閣で官僚人事を統括するというアイディアそのものは民主党内閣で作られた。それを安倍政権が「悪用」したわけだが、そんなことをする内閣が現れるとは誰も思わなかった。消費増税の「三党合意」もあったから、安倍政権は民主党内閣の「遺産」をとことん利用したのである。
安倍政権のおよそ8年間の間に、「世界報道自由度ランキング」(World Press Freedom Index)が大幅に低下した。これは「国境なき記者団」が毎年180の国(地域)の報道自由度を採点して発表しているもので、細かい内容はウェブサイトで公開されている(という話だけど、フランス語サイトだから見てない)。北欧諸国が上位にそろっていて、最下位は北朝鮮、トルクメニスタン、エリトリアの3国が争う感じ。その上に中国やシリア、イラン、ベトナムなどがある。
(報道の自由度ランキング)
日本は2010年に最上位の11位だったが、2012年に22位に下がった。(2011年は2012年と合わせて発表された。)その後、50位代、60位代、70位代と下がっていき、最新の2020年版では66位となっている。ドイツ11位、フランス34位、イギリス35位、韓国42位、台湾43位、アメリカ45位、香港80位、インド142位、ロシア149位…といった具合になっている。
この低下を安倍政権だけの責任と見るのは間違いらしい。2010年代に一気に下げたのは、外国特派員が一番取材したい「原発事故」の状況がなかなか取材できなかったことにあるようだ。それは安倍政権にも責任はあるが、もう一つ日本独特の「記者クラブ」制度のため、外国から来たフリーランス記者には取材が難しいという問題もあった。しかし、「特定秘密保護法」の制定でさらに順位を下げ、その後は政権幹部がSNSで記者に反論したり(加藤現官房長官の得意技!)、特定の記者の質問に答えなかったり(菅官房長官の得意技!)が重なり、順位が中位で固定化されたということだ。その菅・加藤官邸コンビではさらに下げるだろう。
政権中枢が報道機関に陰に陽に圧力を掛けたのも安倍政権の特徴だった。特にNHKは大きく変えられてしまった。安倍首相退陣に当たって多くの人がいろんなコメントをしたけど、僕がなるほどと共感したのが作家平野啓一郎氏のツイートだった。「負の遺産は山ほどあるが、NHKの7時のニュースの信頼を完全に失ってしまったことは、とても寂しい。子供の頃、祖父からNHKの7時のニュースは必ず見て、世の中のことを知らないといけないと諭されて以来、習慣化していたのだが。このあと変わるんだろうか?」と言うのである。(30日付)
(安倍政権とNHK)
僕も全く同じである。NHKの7時のニュースはつまらなくなって久しいが、それでも「NHKがどう報道しているか」が一つのニュースだと思って見続けていた。夜間定時制勤務の時を除いて、間に合うときは大体見ていたと思う。それは「社会科教師の仕事」であると思っていたからだ。しかし、「どう報道するか」を知るためには、そもそも報道してくれない限り検証できない。NHKニュース、特に7時は報じないことが多くなりすぎた。大震災以降、災害・気象関係のニュースが優先されるようになったうえ、NHKの番宣が多い。そもそも出て来ないんだから、「どう報道しているか」はもう関係なくなった。自分も教師じゃないんだから、もう見る意味がない。
母親が俳句をやってるから、数年前から木曜だけは「プレバト」を見ることが多かったけど、今じゃ他の日も民放を見ることが多くなってしまった。しかし、それを「NHKはダメになった」というとらえ方はしていない。政権や世論を踏まえて、どんなメディアであれ「絶えざる闘い」の最中にあるというべきだろう。安倍首相はNHKの経営委員に百田尚樹氏など政権に近い人物を送り込み、2014年1月に会長に籾井勝人氏を据えた。籾井会長はNHKの国際放送についてだけれど、「政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」と発言した。
「クローズアップ現代に菅官房長官が出演し、国谷裕子キャスターの質問に不快感を覚えたことから、7時半にあった「クロ現」がつぶされたと言われる。そういう問題こそ菅首相に質すべきことだと思う。テレビでは「令和」を掲げる菅氏ばかり映し出すが、記者会見で疑惑に向き合わない答弁を繰り返してきた様子を特番で報じれば、こんな馬鹿げた政権支持率が出ないと思う。国民は官房長官なんか、ちゃんと覚えてないのである。しかし、裏で放送局に圧力を掛けるというのは、菅氏が始めたことではない。もともとは安倍晋三氏の「得意技!」だった。
テレビやスマホでニュースを見ているだけでは、肝心な情報はつかめない。それは原発事故の時に皆痛感したはずなのに、何で安倍政権や菅政権にコロリと参ってしまう人がいるのか、僕には理解出来ない。テレビで批判的報道が難しくなってくると、今度は新聞もおかしくなる。情報を批判的に読みこむ力が弱くなり、安倍政権批判派でも自分の意に沿うニュースだけ切り取って拡散する人が増えてきた。歴史を「史料」によらずに好き勝手に語る人も多い。どうしたらいいのかと悩む前に、僕は良質なミステリーを読むのがいいと思っている。「ミレニアム」シリーズやホロヴィッツの小説なんか。小説には欺されてもいいけど、だましの手口を学べる。
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