最近は古い映画ばかり見ていて、新作を見ているヒマがない。特に今年は日本映画の新作をあまり見てないんだけど、見たけれど書かなくてもいい映画も多かった。しかし、ヴェネツィア映画祭のコンペに出品された深田晃司監督の新作『LOVE LIFE』をやっと見たら、これは傑作だった。ヴェネツィアで無冠に終わったので、なんだか期待外れだろうと思っている人がいるかもしれない。でも、この映画ほど現代日本で生きる苦悩をじっくり考えさせる作品も少ないと思う。
深田晃司(1980~)は濱口竜介監督と並んで、日本の新世代を代表する映画監督だ。濱口監督は『ドライブ・マイ・カー』で世界的に高い評価を得たが、僕はむしろ深田監督作品の方が好きかもしれない。『ほとりの朔子』『淵に立つ』『よこがお』『本気のしるし 劇場版』など、皆僕には心の奥深くに刺さってくるような映画だった。『本気のしるし』はメーテレ(名古屋テレビ放送)が製作したテレビドラマの再編集版で、珍しく原作(漫画)があった。『LOVE LIFE』もメーテレが出資しているが、今度はオリジナル脚本である。脚本の完成度が非常に高いと僕は思った。
(妙子と二郎、子どもの敬太)
この映画に僕は深く心揺さぶられたが、その理由を説明するためにはストーリーを細かく書く必要がある。それはいわゆる「ネタバレ」ということになるが、ここでは避けたい。この映画は何の情報もなく、ただ初めて見るという方が絶対に面白いだろうから。映画は(というか「物語」全般は)、世界のある瞬間を切り取って成立している。すべてを描くわけにはいかない。ある幸せそうな夫婦が出て来て、母親は息子とオセロをしている。父親は部屋の飾り付けをしている。これは何だろうと思う。子どものお誕生日会かなと思うと、実は違っていた。それどころか、この3人の関係はちょっと普通とは違っていた。そういう人間関係に気を取られていると、映画はある時点で突然ガラッと様相を変えてしまう。
(ホームレス支援をする妙子)
まあ、それでももう少し情報を書かないと、これ以上進めない。映画館のサイトに書かれている紹介をコピーする。「妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が一望できる。向かいの棟には、再婚した夫・二郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。哀しみに打ち沈む妙子の前に一人の男が現れる。失踪した前夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。一方、二郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。哀しみの先で、妙子はどんな「愛」を選択するのか、どんな「人生」を選択するのか……。」
(パクと妙子)
夫の父(田口トモロヲ)が出て来て「部長」と呼ばれている。僕はてっきり民間企業の偉い人かと思ったら、実は市役所の元職員だった。二郎も同じ市役所の福祉職員で、妙子の身分はよく判らないけど、やはり市役所で福祉の仕事をしている。二郎は同僚の山崎と付き合っていたが、別れて子連れの妙子と結婚した。妙子は今もホームレスの支援、見回りなどをしているが、これはヴォランティアだろう。前夫のパクは父が韓国人、母が日本人で、韓国に生まれた「ろう者」である。なかなかそういう人と結婚するのは大変だと思う。仕事を見ても、同情心の篤い人だったからなんだろうなと判る気もする。韓国手話が出て来る(もっとも手話の違いは僕には判らない)点で、『ドライブ・マイ・カー』と共通点がある。
(ヴェネツィア映画祭で。監督、砂田、木村)
この映画は矢野顕子の1991年に発表された同名アルバムにインスパイアされているという。矢野顕子は名前を知ってるぐらいなので、作品との関係はよく判らない。でも映画のような物語ではないだろう。ストーリー的にかなり無理があると思うが、物語というのは一種の「思考実験」である。ある設定に人間を投げ込んで、その対応を見て行く。その結果、「人間というものは哀しいものだ」「人はみな身勝手なものだ」などと僕は思ったけれど、「人間はそう簡単にダメになったりはしないものだ」という感慨も持った。この映画を見て、それぞれの人が何を思うかは違っているだろうが、何事か心揺さぶられると思う。
主演の木村文乃(きむら・ふみの)がとても良かった。『くちびるに歌を』で五島列島の中学の音楽教師をしていた人。産休に入ることになって、代替教員に天才ピアニストだった新垣結衣を連れてくる。新垣結衣に気を取られて、木村文乃を忘れていたけどすごく良い。夫の永山絢斗(ながやま・けんと)も悪くはないけど、パク役で実際にろうの役者だという砂田アトムが圧倒的。有力な助演賞候補だろう。また二郎の母役の神野三鈴(かんの・みすず)は舞台で見ることが多い女優だが、細かな感情の表現が素晴らしい。撮影、音楽なども素晴らしい。
それにしても、人間は何やってるんだろうという愚なる言行を繰り返すものだと思った。映画の間は他人事のように見ているけど、よく思い出してみると自分の人生だって同じではないか。でも、同時に人間は「許し合える」のかな、「やり直せる」のかなとも思った。違うかもしれない。この映画の感想ばかりは人それぞれで構わないだろう。でも映画的な完成度はとても高い。
深田晃司(1980~)は濱口竜介監督と並んで、日本の新世代を代表する映画監督だ。濱口監督は『ドライブ・マイ・カー』で世界的に高い評価を得たが、僕はむしろ深田監督作品の方が好きかもしれない。『ほとりの朔子』『淵に立つ』『よこがお』『本気のしるし 劇場版』など、皆僕には心の奥深くに刺さってくるような映画だった。『本気のしるし』はメーテレ(名古屋テレビ放送)が製作したテレビドラマの再編集版で、珍しく原作(漫画)があった。『LOVE LIFE』もメーテレが出資しているが、今度はオリジナル脚本である。脚本の完成度が非常に高いと僕は思った。
(妙子と二郎、子どもの敬太)
この映画に僕は深く心揺さぶられたが、その理由を説明するためにはストーリーを細かく書く必要がある。それはいわゆる「ネタバレ」ということになるが、ここでは避けたい。この映画は何の情報もなく、ただ初めて見るという方が絶対に面白いだろうから。映画は(というか「物語」全般は)、世界のある瞬間を切り取って成立している。すべてを描くわけにはいかない。ある幸せそうな夫婦が出て来て、母親は息子とオセロをしている。父親は部屋の飾り付けをしている。これは何だろうと思う。子どものお誕生日会かなと思うと、実は違っていた。それどころか、この3人の関係はちょっと普通とは違っていた。そういう人間関係に気を取られていると、映画はある時点で突然ガラッと様相を変えてしまう。
(ホームレス支援をする妙子)
まあ、それでももう少し情報を書かないと、これ以上進めない。映画館のサイトに書かれている紹介をコピーする。「妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が一望できる。向かいの棟には、再婚した夫・二郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。哀しみに打ち沈む妙子の前に一人の男が現れる。失踪した前夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。一方、二郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。哀しみの先で、妙子はどんな「愛」を選択するのか、どんな「人生」を選択するのか……。」
(パクと妙子)
夫の父(田口トモロヲ)が出て来て「部長」と呼ばれている。僕はてっきり民間企業の偉い人かと思ったら、実は市役所の元職員だった。二郎も同じ市役所の福祉職員で、妙子の身分はよく判らないけど、やはり市役所で福祉の仕事をしている。二郎は同僚の山崎と付き合っていたが、別れて子連れの妙子と結婚した。妙子は今もホームレスの支援、見回りなどをしているが、これはヴォランティアだろう。前夫のパクは父が韓国人、母が日本人で、韓国に生まれた「ろう者」である。なかなかそういう人と結婚するのは大変だと思う。仕事を見ても、同情心の篤い人だったからなんだろうなと判る気もする。韓国手話が出て来る(もっとも手話の違いは僕には判らない)点で、『ドライブ・マイ・カー』と共通点がある。
(ヴェネツィア映画祭で。監督、砂田、木村)
この映画は矢野顕子の1991年に発表された同名アルバムにインスパイアされているという。矢野顕子は名前を知ってるぐらいなので、作品との関係はよく判らない。でも映画のような物語ではないだろう。ストーリー的にかなり無理があると思うが、物語というのは一種の「思考実験」である。ある設定に人間を投げ込んで、その対応を見て行く。その結果、「人間というものは哀しいものだ」「人はみな身勝手なものだ」などと僕は思ったけれど、「人間はそう簡単にダメになったりはしないものだ」という感慨も持った。この映画を見て、それぞれの人が何を思うかは違っているだろうが、何事か心揺さぶられると思う。
主演の木村文乃(きむら・ふみの)がとても良かった。『くちびるに歌を』で五島列島の中学の音楽教師をしていた人。産休に入ることになって、代替教員に天才ピアニストだった新垣結衣を連れてくる。新垣結衣に気を取られて、木村文乃を忘れていたけどすごく良い。夫の永山絢斗(ながやま・けんと)も悪くはないけど、パク役で実際にろうの役者だという砂田アトムが圧倒的。有力な助演賞候補だろう。また二郎の母役の神野三鈴(かんの・みすず)は舞台で見ることが多い女優だが、細かな感情の表現が素晴らしい。撮影、音楽なども素晴らしい。
それにしても、人間は何やってるんだろうという愚なる言行を繰り返すものだと思った。映画の間は他人事のように見ているけど、よく思い出してみると自分の人生だって同じではないか。でも、同時に人間は「許し合える」のかな、「やり直せる」のかなとも思った。違うかもしれない。この映画の感想ばかりは人それぞれで構わないだろう。でも映画的な完成度はとても高い。
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